奇襲
男同士のとてもむさ苦しい村デートだ。
直幸たちは腹ごしらえに村のとある料理人の店で食事をすることになった。
「さて腹ごしらえでもしながら詳しい話をしようじゃないか」
直幸は言葉は理解ができるがこの世界の文字が読めないので適当に風馬に合わせてメニューを選択した。
出てきたのはオムライスだ。
「君はこの世界に転生して間もなかったんだよね。だから気を利かせて僕がここのシェフに提案した料理だ。これなら君でも美味しく食べられるだろう?」
それもそうだった。この世界に来てまともな食事をしたのは初めてかもしれない。ナタシアと過ごしていた間はバケットとトマトとリンゴだけだったからな。
最低限の食事で美味しかったとは言え、まともな食事とは言えなかった。
「どこから話せばいいかな?」
「じゃぁまず最初に」
直幸は最初の質問を問う。
「あのグレイとかいう女性、重篤なような感じがするのだがなぜあのキアラスという老婆に預けてからそんなに落ち着いているんだ?」
「それはあの女性は俺が一番信用しているこの世界で1番の医者だからさ。
多分王都や都市部の回復職でもあれを超えるものは居ないと自負している」
それほどなのか、どういうところでそんな根拠を抱いているのかは分からないが、信用しているのならひとまずは安心だろう。
「君はやさしいんだね。まだ会って間もないのにそんなに他人を気に掛けるなんてね。僕だったらそんな事は出来ないや。
そんなことよりほかの質問は?」
直幸は真剣な顔で問う。
「お前たちの正体」
別に探偵とかではなく普通に気になる部分だ。あと俺がこの人たちを信用してもいいのかという事だ。
日本にいた時の異世界物の小説だと簡単に信じていいものだろうが、ここは非現実的ではあるが現実だ。簡単に人を信じてはならないという俺の爺ちゃんからの教訓だ。
「僕たちの正体か、ん~そうだねぇどう言えばいいかな~?この狂った国を正すために戦う戦士たち。
簡単に言えば叛逆軍か攘夷志士だね。まぁ軍といえるほどの人数じゃぁ無いんだけどね」
「どうして戦う?」
「そりゃね、守りたい存在があるからだよ。10年もこの世界で生きていると守りたいものも出てくるさ。
それに僕は見たんだ。目の前で罪のない助けを乞う者たちを斬り殺していくあの国の兵士たちをね。魔女族の事件もそう。」
「やつらは自分たちの利益だけしか見ていない。尊い命まで利用しようとする様が許せなかった。
目の前で助けを求められていても助けられない。目の前で親を殺されて泣いている子供を見ても怯えて助けに行けない無力な自分を心底恨んだよ。だから鍛えて、あんな悲劇を二度と起こさせない為に戦いたいんだ。
僕の仲間たちもあの国のやり方で犠牲になった生き残りの種族や単純な犠牲者たちさ。だから志同じくする者たちでこの国と戦うと決めたんだ」
「なるほどね大体わかった。俺も助けてもらったんだ信用して答えよう。次は俺にも何か聞きたいんじゃないか?」
風馬は今までの真剣な表情は崩れ、一気に明るい表情で直幸に問う。
「君の能力や魔法、生前の事とかたくさん聞きたいね」
真面目な話かと思いきや、予想していた質問とは全然違うことに、正直驚いていた。
「俺の能力は分からない。使ったこともないし、そういった感覚なども無い。それに魔法も使えなかった。そもそも魔力が俺に存在するのかすら分からない」
風馬は今の話を聞き、なるほどといった感じで首を何度も縦に振る。
「じゃあ本当にこの世界に来てから日が浅いんだね、それに謎が多すぎる。魔力は個人差はあれど、持っていない人間や亜人は居ないぞ。
能力は、転生した時に、まぁ死ぬ直前とか死ぬ思いをした時に感覚的に分かったくらいだからね。
詳しい事は分からないんだけど多分精神的多大ダメージを受けると芽生えるのではないかと関上げているよ」
「じゃあ、日本人が全員能力を持っているっていうのは?」
「そりゃ皆、一度死んでるからね。」
「聖騎士たちの能力も開花してるって訳は?」
「それは分からない。あのグラデリア王国の聖騎士達はつい最近に能力が開花していることが分かっている」
「つまり、なにか別の手段を取っているという事だな」
「そうだね」
それから食事をしながら生前の話などをしたり、村の各地を回ったりして時間を潰すとすっかり夜になっていた。キアラスの家に戻った。すると丁度キアラスが「治療が終わった」と言って治療部屋から出てくる。
「ありがとう婆さん」
「なに、あんたには貸しがあるからね。あとそれと無茶はやめるんだね。死にかけてる人なら治癒はできるが死んだら手遅れだからね」
「ああ、分かった。すまない」
「謝る相手が違うよ」
と言って、キアラスは自分の部屋に入っていった。
直幸たちは治療室へ入った。
「具合はどうだ?」
「ええ、すごいわ。ほぼ完治に近い状態まで回復したわ」
そこには、仮面の外した、グレイの姿が見えた。
それは毛並みが綺麗な黒い髪が美しい女性だった。
初めて、お互いが顔を出した状態で対面だ。
「直幸さんだっけ?顔を出しての面会は初めてよね。改めまして、私はアリシャブル・グレイ。よろしく」
「俺は斎藤直幸。助けて貰ってありがとう」
キアラスが治療室のドアを開けて言った。
「今夜は泊まって行きな。私が御馳走を振舞ってやるよ」
「すまない婆さん。それなら何か手伝わせてくれ」
「そうさね、じゃぁ風馬はクリアエリさんちに野菜貰って来ておくれ。
グレイちゃんはもうちょっと安静にしておきな。
そこの新人さんは水を汲みに行ってくれないかねぇ?手術するときに結構水を使ったんで水がないんでねぇ。」
「いいですよ。水はどこで汲めるんですか?」
「この家から南に言ったところに小さな湖があるから。そこの水はとても綺麗だからそこの水を汲んできてくれねぇか」
「分かりました」
そういって直幸はさっそく取りに行こうとした。
「ちょっと待ちな」
キアラスは直幸の手を掴み、服の袖を捲くった。
「この程度なら治療はすぐ終わるさね」
そういって直幸のルーゴに傷つけられた腕の傷に治癒の魔法をかけてくれた。
傷はみるみる塞がっていく。これも魔法というものなのだろう。
「ありがとうございます。では行ってきます」
「あいよ」
「あ、直幸。それが終わったら、三人で今後の事を話そうと思うからあとでグレイの部屋に来てね~」
風馬はそう言って家を出て言った。
直幸はキアラスに水汲み用の瓶を受け取り、家を出て南の川に向かった。
そこは村の中で一番人気が無く、滝の音だけが聞こえる落ち着いた小さな湖だった。
「助けて…」
とても微かな声でそう聞こえる。
何かの幻聴だろうか。今日は色々あったからな疲れたんだろう。
「助けて…」
そう何度も何度も掠れた声で連呼するのが聞こえる。
直幸はその声がする方向に近づいてみる。
そこにはゴムのように伸びて今にも引きちぎれそうな紐になった人が木に吊るされていた。
「助けて…」
「待ってろ!今助ける!」
直幸は木の枝に括り付けられていたその人をほどいて木の下に落とした。
その人を落とすとその人はぐったりして、伸びきっていた。
「どうなってんだこれ…」
「グラデリア王国騎士にやられた…」
「なに?!」
「力が入らない…」
直幸の背後から一人の男の声が聞こえる。
「まぁこんなに簡単に釣れるとはね。ラッキー!」
直幸は咄嗟にそいつから距離を取るように後ろに下がったが左肩を少し触れられた。
すると左腕はゴムのように伸びて力が入らなかった。
「そんなに逃げなくてもいいのにさー」
そこには小さいナイフを持った白い鎧の着た金髪ショートの少年が立っていた。
「僕は上級騎士のラ・ジーマ。気軽にジーマ君と呼んでくれ」
上級騎士相手に能力の無い直幸は逃げる策を考えるのに必死だ。それに武器も手持ちの策に使えるアイテムもなく、風馬も近くにいない。だったら逃げる以外の選択肢は浮かばないだろう。
「安心して?部下の兵士は居ないよ?なんせ僕は君を殺しに来たんだからね。報告通りなら、君を殺すのは赤子の手を捻るより簡単だからね。
だから少し遊ぼうよ。僕はね恐怖して逃げる人を見ると興奮するんだ。追い詰めて追い詰めて最終的に捕まえて絶望した時の顔なんて最高さぁ~」
逃げなきゃ、これは相手にしてはならない奴だ!
直幸は体をゴムみたいにされた人を担ぎすぐに森の方へ逃げ出した。
「あはは、そうそう逃げて逃げて僕を楽しませてよ!」
直幸はゴムにされた人に「すまない」と言ってそこら辺の草むらに投げて木の裏に隠れるように動いた。
「なにをしているのかなぁ、僕の視界内で木に隠れるなんて、あまりの恐怖に気でも狂ったかなぁ?
もうゲームは終わりかなぁ!」
そういってジーマは木の裏を確認する。
だがそこには直幸の姿は見えなかった。
「どこに行ったのかな?」
ジーマは周りを見渡すが直幸の姿は見えなかった。
すると、
「オラァ!」
直幸がゴムになった手をかのターザンが操るジャングルのツタのように手を木の枝に引っ掛けてゴム弾力で木の上に乗って上から飛び蹴りを放った。
だが、避けられる。しかし直幸はゴムになった手を右手でカウボーイの鞭のように操り、ルーゴの体に巻き付けた。
そのまま巻き付けた手を右手で綱引きのように引っ張り、ジーマを近くに引き寄せて右手の拳を精いっぱいジーマの顔めがけて放った。
「ッチ!痛えじゃねぇか、クソがぁ!」
ジーマは怒りに身を任せて、ナイフを直幸の方に向けて突進してくる。
直幸は護身用に持っていた短剣でそのナイフを弾く。それでも何度も何度も突進してくる。
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ!」
ジーマは怒りに任せて全力咆哮。
そう、それは一匹狼の遠吠えや獣の怒りの咆哮のようにジーマは叫ぶ。
そして直幸はルーゴに目掛けてスライディングをしたが、ジーマは怒りに身を任せている割には冷静にひらりと身をかわした。
直幸はすぐに体制を戻すが、ジーマはナイフを捨て素手で直幸の右手に飛びついて肉が引きちぎれるほど噛みついた。
そしてその右手は左手同様にゴムのように伸びて力が入らなくなってしまった。
「僕の能力はなかなか面白いでしょう?特別に君に教えてあげるよ。僕の能力は伸縮さ。
触れたところから君の腕の様にゴムみたいになるのさ。
そして触れた時間が長ければ長いほど全身に浸食していくのさ。
拷問にピッタリだと思わない?!人を玩具として遊ぶのはそれはもう爽快で仕方がないよ!
だから君も僕のオモチャになってよ!」
今は逃げることが優先だ。俺には武器も能力も無いのだから。俺にもし魔法が使えたのならまだ戦えただろう。だが魔法も使えない。
だったら風馬のように最善を尽くした戦い方をするしかないんだ!
ジーマは追ってくる様子は無く、何やら地面に落ちている石を拾った。
「僕の能力はほんとうに使い方次第でとっても面白くなるんだよねぇ」
そういって拾った石をゴムにして片方の手の指でつまみ、パチンコのように引っ張りだした。
あれは、小学校などで遊んだようなゴム鉄砲だ。
石をゴム鉄のように扱い、直幸の方へ放った。
直幸は運よく避けたが、避けた先の木を貫通する勢いで石は放たれていた。
つまり殺傷能力の高い、ゴム鉄砲だ。
「ッチ!外したか。次は当てるよ?」
ジーマは地面をゴムに見立てて弾力をつくり、体操選手のように三段跳びをし、天高く飛んだ。
そして空中で石のゴム鉄砲を放った。
石は運悪く着弾した足の部分の肉弾き飛ばし骨を貫通していった。
ダメージを負って気づくことがあった。着弾後の石はものと堅さに戻るようだ。
足を撃たれ、バランスを崩して足をつまずかせてしまった。
ーグサッ
後ろを見るとすでにジーマに追い付かれていた。
そしてすでに直幸の背中にナイフが刺さっていた。
それはまるで追い込み漁を得意とする獲物を狩るハンターのような勢いだった。
「ふふ、そろそろ飽きちゃった。君つまんない。
だって全然恐怖しないんだもん」
それもそうだ…
俺は一度死んでいるからな。
これくらいの痛み、並みの痛さではないがなんども経験している痛みだ。慣れはしないが今は耐えるしかない。
直幸はもう一度立ち上がろうとするが、力が入らない。
そしてジーマは突き立てたナイフを抜き、直幸はバタンと倒れた。
「ほら、叫んで見せろよぉ!絶望しろ!恐怖しろ!」
そういってジーマは直幸の上にまたがり、もう一度ナイフを刺そうとしてナイフを振りかざそうとしたその瞬間。
「フラッシュッ!」
女性の声がそう聞こえると周り一帯が大きく激しい光が刺さった。
そこには青い長い髪をたなびかせているフードの被った黒いロングコートを着た20代くらいの女性が立っていた。
「目がッ!目がぁッ!くそがぁ誰だ!こんなっぶっ殺す!」
その女性は手の平をジーマの方へ向けてこう叫んだ。
「ウィンドデストラクションッ!」
そう叫ぶとジーマは威力の激しい突風がジーマに直撃し、その女性の前方7メートルくらい先の木に激突させる勢いで吹っ飛ばした。
「ごめんないさいね。こんなことに巻き込んじゃって。でもここからは私が守って見せる!」
そういった彼女は直幸の前に立ち、次の魔法の構えに立った。
「ありがとうございます。あの・・・貴方は?」
女はフードを外し直幸に向かって言った。
「私の名はナタシア・リーナ。
高貴な魔女族最後の生き残り、ナタシア・リーナ。あなたから受けた恩は今から果たしますッ!」
ナタシアはジーマのもとへ距離を詰めた。
「ッケ!ただの亜人風情が出しゃばんじゃねぇ!」
ジーマは向かってくるナタシアにそんな言葉を吐き捨てて、立ち上がる。
ナタシアとジーマの戦いが始まる…。




