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脱獄

 風馬は目の前の肉の塊を前にして嫌悪の表情を持つ。

 仮面の女は風馬からとある筒を受け取った。風馬の指示通りに肉の塊の近くに受け取った筒を設置した。

 その筒は風馬に聞く限り、魔力を濃密に込められた筒。いわばダイナマイトだそうだ。ダイナマイトの起動はレバー式だ。仮面の女はレバーからダイナマイト起動用のコードを延ばしセッティングを行った。

 なんせかなりの威力なので近くで起動させるとこっちまで巻き込まれやすいようだ。


「この肉塊の中にある魂はもう元に戻せないのか?」


 直幸が風馬にそう尋ねると風馬は


「戻せない。なんせもう混ぜ込まれているからね。死んだも同然なのさ。

 死んだ人間や生物を生き返らせろって言われても不可能だろう?

 もしかしたらそれができる能力者がいるかもしれない。だが魂が元に戻せても死んだ魂の肉体は既に腐っている。戻したところでアンデットのモンスターになるだけさ。

 それにこの肉塊を放っておくと王の思惑通りになり更に犠牲者がでる。だからすぐに破壊しなければならない。

 もちろんこれが正しいことをしているとは俺は思わない。だが今はこれが最善、つまり今できる正しい行動なんだと信じるしかないのさ」

 

 その通りかもしれない。

 だがこの球体を破壊したとしてもこの計画を実行しようとする王は健在だ。このままだと現状は何も変わらない。この邪悪な王の行いを止めるしかないのだろう。


 セッティングが終わり仮面の女がこちらへ向かってくる。

 するとそんな彼女の背後に忍び寄る一つの影が見えた。その影は一瞬のうちに彼女の背後に回り込み腰にぶら下げていた剣で彼女を切りつけた。


 ーバタン


 仮面の女は何が起こったのかわからないような表情のまま倒れた。


「まずい!!!グレイッ!!!」


 風馬は奇襲を掛けられ、仮面の女、グレイが倒れた様子を見て焦ってすぐに駆け寄る。


「ん~、だめですねぇ。門番は何をしているのでしょうか。」


 影から黒い鎧を着た一人の男が出てきた。

 その男はグレイに駆け寄った風馬に斬りかかろうとした。


「危ない!」


ーガキィィン!


 ギリギリのタイミングで直幸は自分の剣で敵の剣を弾いた。

 するとその男は直幸から少し距離を取った。


「おやおや~いけませんねぇ。私が殺してあげようとしているのに弾いちゃ…」

「この野郎!誰だ!」

「自己紹介させていただこう。王宮騎士11人の聖騎士の一人、クラン・ジ・ルーゴ。いやぁたまたま近くを通ったらこんなところに私にとっての粛清対象のドブネズミ3匹いたものですからねぇ。つい殺しちゃいたくなりました。」


 聖騎士というのは11人もいたのか。

 聖騎士といえばマリアナが出てくる。ということはマリアナと同格の力の持ち主と言わけだ。

 できるだけ戦わず、逃げたいところだ。


「考えていることは分かりますよ?戦いたくないんでしょう?だったら戦えないように殺して差し上げましょう」


 どうやらこっちの考えお見通しという事か?

 そう考えている間にルーゴが攻撃を仕掛けてきた

 ルーゴの猛攻は攻撃にばかり集中し過ぎた所為か避けれなかったようだ。腹部に突き攻撃がヒットした。剣がルーゴの腹部に刺さった。

 剣はルーゴの腹部に刺したまま、直幸はルーゴから距離を取るように引いてしまった。


「おやおや、剣を離してはいけないじゃないですか」


 そういってルーゴは直幸の突き刺した剣を抜いた。

 抜いた後の腹部の傷跡は見えなかった。


「我が忠誠を誓う王の加護はやはり素晴らしいですな。実におもしろい!やはり王の判断はいつも私に楽しみを与えてくださる!」


 王の加護というものが何なのかは分からない。だが推測だが俺が突き刺した剣の後を跡形もなく塞げるような再生能力なのだろう。これは勝てない。本当に逃げるしかない。


 そう考えた直幸は風馬に指示をする。


「風馬!逃げるぞ!」


 風馬は


「分かった!」


 と答えた。

 風馬は仮面の女グレイを担ぎ肉塊の部屋から直幸と逃げだした。


「逃がしませんよぉ!」


 ルーゴは剣を振りかざし、斬りかかろうとする。

 攻撃を避け直幸は懐から袋を出しその袋からとある粉、塩をルーゴの顔に掛けた。

 厄除けの塩とか言うだろう?そういう文化は詳しくは分からないが、こんなこともあろうかとナタシアと武器の調達した時に一緒に購入しておいたのだ。

 ルーゴは目に塩が入り少し怯んだ。


「ナメクジのようにくたばりやがれ!」

「小癪な真似をヲヲヲ!!!」


 少し怯んだと言ってもほんのわずかだ。すぐに払って追いかけてくる。

 その少しの時間の間だけでも距離を稼ぐしかない。

 この迷路のような地下水路を交互に分かれ道を走ってゆき視界が外れたと同時に近くの物陰に隠れた。

 直幸は風馬にデコイを走らせるように指示した。

 風馬はすぐに能力を発動させ、ルーゴから逃げるように走らせた。

 ルーゴはデコイを追いかけて行き、難なく撒けたのだった。


「グレイさんの容態は?」

「私は医者じゃないので分からない。だが相当まずいかもしれない。早くここから脱出しよう」


 グレイは息を荒げてとても苦しそうだ。

 早く治療のできる人のもとへ行かなければならない。


「ここに居ましたかドブネズミども」


 ルーゴは俺たちが走っていったものが偽物だと気づきこちらを追ってきたようだ。

 さすが上級の騎士と言ったところか。気付くのが早い!早すぎる!

 ルーゴは直幸の腕を突き刺し壁に抑え付けた。


「もう逃がしませんよ?一度までではなく二度までも私に小賢しい真似をしてくれましたね?

 あなたはここでゆっくりと苦しみを与えて殺して差し上げましょう」


 ルーゴは直幸の腕を斬り落とす勢いでぐりぐりと腕を抉ろうとした。その瞬間風馬がナイフをルーゴの頸動脈を斬った。

 だがその傷は一瞬で塞がった。


「どこまでも無意味なことを。言ったでしょう?私は王の加護があると。そんなナイフで私が…殺せる…と…お………」

 

 ルーゴはその場で倒れた。


「これはグレイのナイフだ。睡眠薬がたっぷり塗られた毒ナイフだ。そんなナイフで人の血管を斬ればお前であろうと一瞬であろう?」


 ルーゴは深い眠りについた。この様子だとしばらくは起きないだろう。

 風馬は直幸の腕に刺さった剣を引き抜き、グレイを担いだ。


「さぁ、早く逃げよう」


 それから20分ほど地下を彷徨った。すると出口であろう外の光が差し込んでくる階段が見えた。


「やっとここまで来たか」


 出口を見つけて安心しきっていた。


「いたぞ!ここだ!」


 後ろから兵士たちの声が聞こえた。どうやら見つかったようだ。だが出口は目の前、走って逃げるしかない。


「走るぞ!直幸!」


 風馬と直幸は走る。

 兵士から逃げながら出口に出る。するとそこは目の前に滝が見える高台の崖だった。そこから大きく広がる森林地帯も見える。地上から今いる位置までの高さはおよそ学校の校舎5階分くらいの高さだった。要するに行き止まりな訳である。

 直幸たちが立ち止まっている間に兵士たちは直幸たちを出口から取り囲んだ。


「ついに追い詰めたぞ。脱獄犯!」


 兵士たちはじりじりと直幸たちに近づき取り囲もうとしていた。


「ここまでか…」

「なぁ、直幸。賭けは好きかい?」

「え?」


 そういうと風馬は滝の方を見つめて言った。


「飛び降りるッ!」

「正気か!?」


 風馬は片腕でグレイを担ぎながらもう片腕で直幸を引っ張り、一緒に高台から飛び降りた。


「うわああああああああああ!」


ーバァァァァァァァァン!!!!


 直幸たちが飛び降りた高台で大きな爆発が鳴り響いた。

 そしてそのまま滝の下の湖の水面に叩きつけられ、水の中へ落ちた。


------------------------------------

 

 今度こそ死んだと思った。なぜ生きているのか不思議なくらいだ。ここに湖が無かったら本当に死んでいた。

 どうやら追手は来ていないらしい。だが、すぐにやってくるだろう。

 直幸たちはすぐに泳いで陸に上がり、知っている知識でグレイの応急手当をし、止血を行った。


「これからどうする?早くグレイさんを診てもらわないと。

 俺はこの世界に来てとても日が浅い。どこか当てなどはあるかい?」

「この場所は感覚的には東区から出たところらへんかな?ここらの近くに僕の行きつけの村がある。そこへ行こう。」


 風馬はグレイを担ぎ、それから直幸たちは森の方へ進んだ。

 どうやら村の場所はこの国から東へ進んだ森の中に小さな村があるそうだ。


「なぁ風馬」

「なんだ?」

「疑問に思ったんだが俺たちがあの崖から飛び降りた時に爆発したのはあんたの能力か魔法か?」

「いや例のダイナマイトだよ。君が例の騎士と戦っている間に幻術を利用してこっそり回収をしていた。」


 なんという、卑怯な!

 直幸は少々ムカついた。

 戦闘の素人が必死に戦っていたのに!

 直幸は薄目で少し風馬のことを睨みつけた。


「そう、僕を見つないでくれよぉ~照れるじゃないかぁ?」

「うっさいハゲ!」

「なんとぉ!口が悪いッ!」


 まぁ実際はそのダイナマイトが無ければ俺たちは確実に捕まっていたであろう。その冷静な対応があったからこそ今があるのでは無いかとも考えられる。

 だがなんとも非情な男か!グレイが斬られて重症になって俺が必死に戦っていたのに!普通なら一緒に戦ってくれてもいいじゃないか!


「まぁあの時は君が戦ってくれなければグレイも死んで、ダイナマイトも回収もできなかった。

 非情な行動をだと思ったが冷静に対応したつもりだ。だが謝るよ。そしてありがとう。」

「いや、謝ることもないさ。俺も助けれたんだ」

「じゃぁお互いさまという事で済ませよう」

「そうだな」


 風馬のおかげで結果は成功したんだ。文句は言えない。

 俺は少し大人げなかったなと感じた。

 体の年齢は俺と同じだが流石対応は大人だなと少し尊敬した。

 そこは俺も見習わないとな。


------------------------------------


 そんなこんなしているうちに目的の村へ着いた。村の名前はロイソ村。森の中に位置するのどかな村だ。

 村へ着き、風馬が言うすぐにグレイを診てもらえる家へお邪魔した。

 外観は人が住んでいるとは思えない家だった。だが内装は外観とは違い、田舎っぽい感じの家だった。その家のベッドにグレイを寝かしつけた。


 その家はとある一人のおばあさんが住んでいる家だった。そのおばあさんの名前はキアラス・イーラという。4,5年前に魔物に襲われているおばあさんを見て風馬が助けたらしい。

 おばあさんは昔、僧侶だったそうで治療の魔法が使える。

 グレイを見た瞬間顔色を変えてすぐに治療という名の手術に取り掛かった。


「あんたたちは外で待ってな、終わったら声をかけるよ」


 そういって部屋から追い出された。

 集中をそらされたくないのだろう。

 それにグレイは女性だ。そこを配慮した結果だろう。


ーグゥゥ


 直幸の腹の虫が鳴いている。


「おなか減ったんだね、ちょうど僕もお腹が空いていてね。この村の紹介がてらどこか食べに行こう。もちろん僕の奢りでだ」

「すまない。ありがとう」

「いいってもんよ!僕も君とは色々と話がしたかったんだ。いい機会だから色々話そう!」


 という事で村を自由に散策しながら話の整理をすることになった。


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