真実
拘束された直幸は武器や荷物、服以外の物、つまり身ぐるみをはがされた。
まぁ身ぐるみを剥がされたといっても持ち物は日本にいた時の財布にナタシアにもらった剣以外何も持っていなかった。
留置所らしき場所に連れてこられ、監禁された。
兵士が言うには俺は魔女族に手を貸した罪で明後日、公開処刑されるそうだ。つまり俺はこの国で大罪を犯し、死刑というわけだ。
ナタシアはちゃんと逃げきれたのだろうか、捕まっていないかとても心配だった。
能力も無いし魔法も使えないし、格子は特殊な金属で加工されており、抜け出すことはできないから抗いようもない。どうやら本当に第二の死を覚悟するしかないようだ。
「やあ!あんた何しでかしたんだ?」
俺が監禁されている牢の正面の牢から男の声が聞こえる。
「ただの女の子に手を貸した犯罪者さ」
「へぇ、魔女族の手を貸した罪人ね」
「お前…なぜ知ってて俺に聞くんだ?」
「なに、からかいたかっただけだ。なんせここ2日間誰ともまともな会話はしてないから暇だったんだよ。それにこの牢屋は特殊な加工されていて魔法も能力も使えないんだ。」
「俺は斎藤直幸、お前は?」
「ほほう!面白い名前が聞けたね。それで僕はとても満足だが名乗らせていただこう。僕は伊藤風馬。見た目は日本人じゃないが元日本人の転生者さ」
驚きの事実だった。まさか俺以外にも転生者がいるとは思わなかった。
彼の言う通り、見た目は日本人じゃなかった。髪は金色で瞳の色は緑で顔もどちらかというと18歳くらいの西洋人っぽい顔つきだった。
「君、どうして日本人のままでいられるのかな?」
「どういうこと?」
「転生っていうのはねその名の通り、生まれ変わることなんだよ。記憶は引き継いで肉体は別の物。そして生活も別だ。だからこの世界の転生者は元の世界の肉体を持っていないんだ。
つまり簡単に言うとだな、元の世界で抜けた魂がこちらへ流れつき別の肉体で生まれ変わるということだ。
だから君が日本人の肉体、元の世界での肉体でいられるのが不思議で仕方が無いんだ」
確かにそれはおかしい。俺は暴走した車に轢かれたはず。そして多量の出血に多分骨も折れていた。それにこの世の物とは思えないほどの激痛も感じた。いままでの感覚は夢だったとでもいうのか?
「俺は車に轢かれて死んだはずなんだが、転移もしくは夢という可能性は?」
「僕はこの世界に来てもう15年だ。まぁこの世界で生まれ変わったというべきなのかな?僕が過ごしてきた中ではたくさんの日本人と出会ったが、転移者は見たことはない。そういう能力という考えもあるがね」
何が何だか分からなくなってきた。転生者はたくさん存在する?!それに能力!やはり転生者はなにかしらの能力が存在するのか?
「なぁ転生者ってのはみんななにかしらの能力を持っているのか?」
「そうだね!知っている人は皆なにか一つの能力を持っている。君は持っていないのかい?」
「分からない。ただ一つわかっていることは魔法が使えないことくらいかな」
「なるほど、ますます分からないな!まぁでも魔法が使えなくても能力は使えるかもね。だって魔法は魔力を消費して発動させるものであって、能力は魔力を消費しないのさ。つまり超能力さ。前の世界でも少なくとも話題になるレベルには超能力は多少存在しただろう。有名な話では雷に打たれた人が超能力が芽生えたなどという例があるんでね」
だとすれば俺は日本人だった俺の肉体を再現する能力っていう可能性も上げられる。だが能力は自動で発動するものなのだろうか。
「なぁ、あんたはさっき能力が使えないって言っていたが何の能力を持っているか聞いていいか?」
「いいとも!僕の能力は騙しの手品の幻術さ!」
「なんであんたは捕まっているんだ?」
「僕かい?僕はね、この国が嫌いでね、特にこの国の王や貴族は特に嫌いでね。僕の幻術で喧嘩をふかっけたのさ。
吹っ掛けたというより煽ったんだけどね。このとある貴族に言ってやったのさ『お前たち貴族はネズミのクソはおろか、ゴキブリの小便以下だ!』ってね。まぁその結果がこの通り、明後日には処刑さ~」
なんか理由がすごくどうでもいい内容だった。所詮小学生がやるようないたずらだった。
だがこの国はそんな安い挑発を買ってこの男を処刑しようとするのか?
日本だとせいぜい名誉棄損で訴えられるくらいだろうが絶対に処刑はされないはずだ。
この男の話を聞く限りだけではこの国は相当な独裁国家だと考える。だがこの男は幻術が使える男、騙すのは好きだ。なにか隠しているのだろう。
それによりによってこの男と同じ日に処刑とはな。ついでに一緒に処刑してやろうという考えだろうか。
「そろそろかな?」
風馬がそういうと、牢の外の通路から看守と思わしき兵士が歩いてきた。
兵士は食事を持ってきたのだ。
「おい、飯の時間だ。受け取れ。」
「よっ!待ってました~。もう腹が減って胃が背中とくっつきそうだよぉ~」
「黙って受け取れ」
風馬は食事を受け取ると牢の外の兵士の背後に素早く回った道化師の仮面を被った黒髪ショートの20代くらいの女性がいた。その女は懐から出した針を兵士の首元にプスッと刺した。
すると兵士は倒れ、女は兵士の腰に掛けている牢屋のカギを奪い、風馬の牢屋を開けた。
「すまないね。僕はここでおさらばだ。少しでも面白い話ができて光栄だよ」
「待ってくれ!俺も出してくれないか?」
「すまないが、それはできない。君の罪は軽いはずだろう?僕は処刑されるくらいならとことん逃げてやるつもりだ。君は後程解放されだろう?」
「俺はお前と同じ日に処刑される予定なんだ」
「なんだと?」
「あんたが何か隠していることは分かる。だが俺にもやらないといけないことがあるんだ」
男は頭を掻きむしりながら言った。
「仕方ないなぁ。君はすごく謎が深い、それに同じ元日本人だ。興味がある。これも何かの縁だろう。」
そういって男は女からカギを受け取って俺の牢屋を開けてくれた。
「ありがとう。感謝する。」
「さぁすぐに別の兵士がやってくる。ここから離れよう」
直幸たちは仮面の女に手で指示を受け、即座にその場所から離れた。
「今から取られた物を取り返しに行くぞ」
「場所は分かるのか?」
そういうと仮面の女は軽く頷いた。
直幸たちは黙って仮面の女の手指示に従って動いた。
するととある部屋に着いた。
「ここが保管庫だね。さっさと漁って逃げよう」
直幸は保管されてあった剣と財布を取り返した。
直幸に続き、風馬もどうやら目的の物を回収できたようだ。
「よし、ここにはもう、用が無い。さっさとここから出よう」
風馬が保管庫から出ようとするが、保管庫のドアが開かなかった。
「なに?!開かないぞ?!」
「なんだと?!もう気付かれたのか?早すぎるッ!」
すると、仮面の女は保管庫のドアを引くとあっさりと開けた。
「はい、あいたわよ」
女は呆れた口調で言った。
「あ…ああ…なんだ、引けばよかったのか。焦った~」
実は俺も焦っていた。焦っていた自分がとても恥ずかしい。引いてダメなら押してみろってんだ。この年で押してダメなら引いてみろ理論に引っかかるのは少々恥ずかしかった。
嗚呼、穴があったら入りたい…。
それから俺たちは仮面の女の誘導に従いながら、地下水路を通ることになった。
歩いていると松明を持った少人数の兵士たちが見回りをしているのが見えた。
見た感じ、気付かれている雰囲気はしていなかった。
「まだバレてはいないようだね。さ、今のうちに先へ行こう」
引き続き、仮面の女の誘導に従い奥へ進んだ。
正直これは上手くいきすぎて少々不安だった。
このまますんなりいけばいいのだが…
「おっと、兵士たちの動きが少々おかしいぞ?ついにバレたか?」
大勢の兵士たちが何かを探し回っている様子だった。
直幸たちは物陰に隠れながら兵士たちの会話を盗み聞きした。
「犯罪者が牢屋から逃げだした。死刑囚2名だ。見つけ次第私に報告しろ。死刑囚だ、殺してしまっても構わん」
死刑囚2名。つまり俺と風馬以外にいないだろう。早速バレたようだ。
「あ、それと奴らから回収した奴らの所持品も無くなっている。おそらく武器を持っているから気をつけろ。あと南のエリアには絶対に行かせるな」
「「「ハッ!!!」」」
兵士たちは敬礼をしてから辺りを込まなく探しこんだ。
直幸はあのグループのリーダーらしき人物が言っていた南のエリアに近づかせるなという言葉が気になっていた。
「なぁ風馬さん、南エリアに何があるか分かるか?」
そう聞くと、
「ねぇ、直幸君。この国の闇、真実を知る勇気はあるかい?
君はまだこの世界に来て間もないと見る。
知らないほうがいいこともある」
それでも直幸は頷いた。
この国の目的や裏事情、魔力の強奪やナタシアの話の内容からして多少の不信感を抱くのは普通である。だが実際にこの目では見たことが無い。だから真実を確かめたい。
「いいでしょう。なんせ君は何も関係ないという話でもないからね。僕も少し怖いんだけどね」
そして近づかせるなと言われていたであろう南エリアに来てしまった。
近づかせたくないだけあり、警備兵も先ほどいた場所よりもたくさん配置されている。よほど見られたくないものということか。
風馬は物陰から先にある少し大きな扉に指を差し、
「う~んこの先のあの扉の先が目的地なんだけどなぁ」
と言った。
どうやら目的地周辺までは着いたがそこにはいかにも「来るな」と言わんばかりの数の兵士が配置されていた。
「ここまで来たら、僕の出番だね。僕に任せたまへ~」
そう言うと、風馬は物陰から飛び出して、わざと物音を立てながら兵士から逃げる形で走っていった。
「お~い!いたぞ!脱獄犯がここにいるぞ!!!!追え!追え!!!」
扉の周りにいた兵士たちが次々に風馬の方へ追いかけて行った。
「なにやってんだあいつ!」
直幸も焦って逃げようとすると肩を掴んだ風馬が隣にいた。
「まぁ落ち着きなよ。僕はここさ。
僕の能力はさっき教えただろう?今のは幻術さ。これが僕の能力。」
幻術に騙された兵士たちは居なくなり本来の門番が二人、残っている。
「さて、残りの二人はこちらで処理するぞ。」
風馬と仮面の女が物陰から飛び出して門番に攻撃を仕掛けに行った。
「お前たちは?!さっき走っていったのではないのか?!」
風馬がタックルしようとし、突撃してくる風馬に剣を突き刺したがそれはデコイであり、風馬は剣を避け、兵士の顔を思いっきり殴った。
仮面の女は剣を華麗に避け、兵士の顔面に強烈な蹴りを打ち込んだ。
二人は兵士二人を一瞬で倒した。
なんという速さ。
「この二人はどうするんだ?」
「もちろん隠すさ。」
「起きてきたら面倒くさいぞ?」
「そこは問題ない。あとは任せたよ」
風馬はアイコンタクトをして、仮面の女は意図を理解して行動に移った。
女は兵士の首元に針をプスリと刺した。
「なにをやっているんだ?殺してはいなよな?」
「ああ、殺してはない。これは睡眠薬をべったりと塗りたくってある針さ」
確かに正常に息はしてある。嘘ではないようだ。
「なぁここにこいつらの現像を置いてみてはどうだ?」
「ほほう!君なかなか策略家だね。置けるがあくまで現像だから会話はできないから大した時間稼ぎはできなさそうだが、ないよりかは幾分ましだろう」
それから直幸と風馬は寝ている兵士二人を物陰に隠し、風馬は扉の前に二体のデコイを設置した。
「さて奥に入ろう」
扉を開けると、そこにはさらに地下へ進む階段があった。
階段を降りるとそこは薄暗い大きな空間が広がっていた。
―肉の球体。
その空間の真ん中には心臓のような脈を打つとても大きな肉の塊である球体が吊るされ、保管されていた。
「なんだこれは?!」
「これはこの国の兵器だよ」
風馬は語る。
「この球体は人間の肉体、獣人の肉体やその他の肉体とその肉体たちの魂をここにねり固めてあるのさ。
俺の仲間の調査でこれの用途は分かっている。
これは不死身の怪物すなわち王の命令だけを聞くゴーレム、破壊兵器だよ。
最近この国ではちょっとしたことやささいなことで死刑になることが多い。その原因がこれさ。この球体にその人の肉体と魂と魔力を吸収させるためさ。皆殺しにされた魔女族もこの肉に混ぜこまれている。魔女族は魔力を多く持っているし素材としてとても美味しいんだ。
これを何に使うかは明白だ。
調べによると、王はこの国以外の世界を滅ぼす気だ。
このゴーレムは不死身であり、魔力も尽きない生命兵器なんだ。
この国の王ガラン・ヴァルヴァートは人間至上主義でもあり、何においても自分が一番だと考える思考を持っている。いわゆる自己中の極みというやつだ。
だがそうなると一つ疑問が浮かび上がってくる。なぜ人間至上主義の国王が貧民街とは言えどこの国で住まわせる権利を与えるか」
「疑わせない為か?」
「そう。それはこの国の神聖区以外の生命体をすべて生きる化け物に変えて王だけの命令に従う生命兵器に変えるためだからさ。あるいはこの兵器の生贄。つまりその目的を知られたくなかったのさ」
直幸はこの国のやっていることがおぞましすぎて、嘔吐した。
「おえぇぇ…」
「吐くのも無理ないさ。僕も今にもこれを見て吐き出しそうさ。
魔法と魔術のおさらいだが、この世界で一般的に知られている概念。これは元の世界で知られている魔法と魔術と同じ概念なんだ。
この世界の2つの概念は元の世界の概念と同じだが、基本的に使われる魔法は魔力だけを消費して放つ簡単な攻撃魔法で儀式は必要はない。そして王が行っている魔術は儀式や魔力以外に必要なものが存在し、複雑な魔法の事だ。
そしてこの国の王は元魔術師であり、魔術の類を得意とする。
王はその魔術を利用してこの多量の魔力と肉塊を使って簡単な世界征服を企んでいるという事だ。
僕たちの今回の目的は調査兼この球体の破壊か無力化。ということさ。」
「この球体に吸収された者たちを元に戻すことはできないのか?」
「うん、そうだね。魂がこの球体の中にあっても肉体はこの球体でハンバーグのミンチのように混ぜ込まれてるからね。」
風馬は落ち着いているように話しているがすこし動揺を感じられた。
風馬は拳を血がにじむほど強く握っている。それほどこの国の王が許されないことをやっている。
多少自己中でも王として認められる者はいる。それに多少の自己中心的な感情はトップに立つ者の素質でもある。だがこの国の王はとても国の王、人間のやることではないと思った。非人道的行為の度を越えている。自己中の範囲を超える勢いだ。
貧民街をたった2日間とは言え俺は見た。あそこに住む住民たちは必死に生きている。生きるために必死なのだ。それを踏みにじって自分だけの理想を叶えるために利用する人間は、人間でもなんでもない邪悪な化け物だ。
こうして直幸は自分の思う邪悪に対して戦い、悲しみを生みたくないという意思が芽生えた。




