潜入
その夜、遂に直幸とナタシアの作戦会議が始まった。
「目標地点は神聖区。この国、聖都グラデリア王国の中心部にある地区よ」
「神聖区?そんなに広かったのかこの国は」
「そうよ?神聖区は貴族の人間しかいない区よ。上級国民じゃないと入れない場所なの」
「ちなみに今はどこの場所に位置するんだ?」
直幸が言うと、ナタシアは開いていた地図の左端を抑えた。
「ここよ。ここは西区グラデリア王国の貧民街よ」
「貧民街?そんなに生活は苦しそうではなかったが」
「この国にとっての貧民街なの。この国の王は人間至上主義で他種族の者は人権をほとんど与えないの。でも人間以外の種族も生きていかないとだめだから仕方なくここで過ごしているっていう人が多いわ」
「だからあんなに出店やら商売が盛んなのか」
「そうね。彼らも人間と変わらないのに」
差別化か。本当にそれだけかと少し疑問に思っていた。本当に人間至上主義なら奴隷にでもしているんじゃァないかと考えた。
「で、話を戻すけれども、私たちが今晩潜入するところがここ」
ナタシアが指したのは西区に神聖区の西側のとある建物だった。
「この建物の地下に保管されているはずよ。夜中に裏口から潜入してこの建物の台所に地下へつながる通路があるのよ。
問題はこの建物までの経路なんだけど、神聖区と西区を区切っている厚い白い石の壁があるんだけど正門は通れないからそこは民家の屋根を伝って潜入する方針でよろしくね」
「あとどれくらいで出発だ?」
「今から約、2時間後出発ね」
今から約2時間ということは約午前1時に潜入するという事か。どうやらこの世界の文字や看板は読めないが、時計は読める様だ。
これから約2時間、心の準備とともに今日の疲れを取るために仮眠をとることにした。
2時間後作戦が実行された。
宿から出て西区と神聖区と区切られている白いコンクリート壁へ着いた。壁から近い民家の屋根へ登り、そこから直幸は飛んで壁の上へ登った。
「ほっ!」
ナタシアも直幸の後に壁に飛び移ろうとするが身長が低いので届かず落ちそうになったが、直幸がナタシアの手を掴み壁の上へ引き上げた。
ようやく壁の向こうが拝見できる。壁の向こうはまさしく聖都という感じだった。白いコンクリートでできた建物に教会、それに白亜の城。貴族たちが住んでいるであろう建物は赤いレンガ造りの建物だった。
「なぁここからどうやって降りるんだ?」
と聞くとナタシアは腰に掛けていたポーチから釘に括り付けたロープを出してきた。
「ああなるほど」
直幸は自分の足元に釘を打ち付け、ロープを垂らした。
最初はナタシアが降り、そのあとに続いて直幸が降りた。
これで神聖区に潜入するミッションはクリアだ。
次は魔力の玉、魔力玉が保管されている建物までバレずに行けるかだ。
ナタシアの言っていた目的の建物へ着いた。なんとここまですんなり移動できたのであった。目的の建物は赤いレンガ造りの屋敷だった。
深夜だったので明かりはとっくに消えている。
予定通り屋敷の裏口から台所へ侵入し、2人で黙々と地下通路を探した。
すると、ナタシアが無言でこっちに来て、と手で合図する。ナタシアは大きな棚の方へ指を差し、小声で言った。
「ここの棚の裏から空洞音聞こえない?」
そっとその大きな棚の近くに耳をあてるとナタシアのいう通りヒュゴォという空洞音が聞こえた。
直幸はゆっくりその大きな棚をどかす、そこには地下へ続く階段があった。階段を下りた先は倉庫だった。
その中に一つだけ目立って光る木箱があった。直幸は山積みになっている木箱を静かに少しづつどかし、その光る木箱を開けた。そこには青色に光る水晶が保管されていた。
「これがナタシアの言っていた魔力の玉か?」
「そうね、これが多分あの騎士が奪っていった玉ね」
ナタシアが木箱に入っていた魔力の玉を持つと、玉は手の上で溶けてナタシアに吸収されていった。
これで魔力の玉の回収ミッションは終了だ。だが少し不安だった。なんせこんなにすんなりいくものなのかと。不意に何かに反応したかのように急激な寒気を感じた。
「あら、こんばんわ」
聞いたことのある声が聞こえた。
声の方向、つまり自分たちの背後には鎧姿のマリアナが冷気を発しながら立っていた。
「どこの賊かと思えば昨日のナオユキさんでないですか」
「マリアナさん?どうしてここに」
するとナタシアが険悪な表情をしながら言った。
「ナオユキ、こいつよ。 こいつが私から魔力を奪った騎士よ」
ナタシアに衝撃の事実を明かされるが、マリアナさんはそんなことをするような人とも思えなかった。だが、ナタシアの言っていることもナタシアの表情を見ると嘘を言っているようにも見えない。
「どうしてだ?どいうことだ?」
「これを見てしまったからには仕方ないわね。消えてもらうしかないようね」
マリアナは剣を抜き、直幸に斬りかかってきた。
直幸は間一髪で背中に背負っていた剣で攻撃を防いだ。
「一昨日助けてあげたのに、恩は仇で返すタイプなの貴方は!」
「いや、それは感謝している。だがこれとはまた別だ。恩は別の形で返す!だから見逃してくれないか?!」
「魔女族に手を貸している奴の言葉なんて誰が信じるのかしら」
「魔女族だと?」
「ええ、そこの女は魔女族よ。最近、この国のとある貴族の人間を殺したと話題のあの魔女族よ。魔女族は重罪一族として全員殺害命令が出されているわ」
「そうかい、魔女族か」
「そいつの命を差し出せば貴様は助けてやろう。悪い話ではないだろう?」
ナタシアはマリアナと直幸の会話に不安そうな表情をしながら聞いていた。
直幸はナタシアを担ぎ、マリアナの一瞬の隙をついて地下倉庫から逃げだした。
地下から抜けて屋敷の正面玄関からダッシュっで逃げだした。
「直幸何をやっているの?!」
「なにって逃げるんだよ!」
「離して!もう魔力は取り戻したから戦える!」
「魔力があった状態で負けたんだろ?だったら魔力が戻ったところであいつに殺されるだけだろう?」
「ならあなたが逃げる時間稼ぎをするわ、これは私自身の問題だから!」
直幸の後に続いてマリアナは追ってきていた。マリアナは地面に剣を突き刺すと、付近から冷気があふれ出し、その冷気は直幸を追いかけてきていた。
「はやく!離して!」
「うるせぇ!今は逃げることだけを考えろ!」
直幸は必死で逃げるが、冷気はとてつもない速さで迫ってきていた。
冷気に触れると何が起きるか分からないから逃げていたが、近くを通りがかった鳥がカチコチに凍り落ちて粉々になっているのが見えた。
つまり、この冷気は氷点下以下の気温になっているという事になると考えた。
そう考えた直幸はナタシアに提案した。
「水が使える魔法は使えるか?」
「ええ水属性の魔力ではあるわ!」
「あの追って来ている冷気に水の魔法をぶっ放してくれないか?」
「分かった!」
直幸は立ち止まり、ナタシアを下ろした。
ナタシアは手を向かってくる冷気の方向に出し、多量の水鉄砲を放った。
すると水は一瞬で一面は凍り、大きな氷の壁ができた。
これで少しは時間稼ぎができるはずであろう。
「ここからどうやって逃げるの?この騒ぎの中だから門は多分通れないわよ?」
「相手は多分この道をまっすぐに逃げたと考えるだろう?だったらその裏をかいて、回り道をして来た方向へ戻るんだ。
この策は一か八かだが成功すればかなり大きいはずだ」
「分かったわ。その方針で」
それから直幸達は回り道をして民家の間に隠れて、直幸達を追ってマリアナが通り過ぎるのを確認してから来た道を戻った。
「これで撒いたか。ふぅ...安心してロープの場所に戻れるな。」
するとナタシアは直幸に問いただした。
「どうして私を連れて逃げて来たの?直幸は私を差し出して逃げても良かったのに。なんでなの?」
「なに、俺は気分屋でな。俺は目の前で救える命があるのに救えないのが嫌なのだ。前にもお前が言っただろ?俺は馬鹿なんだ。」
「ごめんなさい…」
そうだ。正直何故助けたのかは分からない。助けを求めるなら助けれるなら助けたい。これは考えるより先に行動に移っている傾向が高い。
昔からだった。高校生1年生の頃に他校で上級生の3人の不良組からからのいびりに逢っていた俺の同級生がいた。俺はすごくビビりで助けたいが助けられないで陰で怯えていた。
不良は俺の同級生に容赦なく腹を殴ってから蹲ったところ顔を踏みつけたり蹴ったりして、とても痛々しく見てはいられないものだった。
そんなことをされているのを見ても、怖くて関わることすら怖かった。
「痛いよぉ…もうやめてくれ…誰か…助けてくれ…!」
と、必死に助を呼ぶかすれた声が聞こえる。弱く、臆病な直幸でもその声は聞くに堪えなかった。その時から直幸はこの行為は馬鹿だと思った。弱いくせして粋がって1人の不良を後ろから飛び蹴りをしたのだ。
それがまずかった。そのあと残りの2人にボコボコにされた挙句、暴力行為をしたとして学校側から謹慎処分を受けた。
そう直幸は昔から助けを求められたり、助けを必要とする人は放っておけないのだ。
「さぁ早く逃げよう!先にロープで壁に登ってくれ!」
「分かったわ」
ナタシアがロープを登り終わり、直幸もロープで上がろうと登っていると、
「いたぞ!ここだ!!! 取り押さえろ!」
兵士たちが寄ってきた。
兵士は俺より上のロープを矢で切り落とし、直幸は落ちてしまった。
「ナオユキ!」
「俺のことはいいっ振り返るな!早く逃げろ!早くッ!!」
「…ごめんなさいッ!絶対に!助けに行くから!」
ナタシアは負い目を感じながらも直幸の言いつけのまま逃げた。
直幸は兵士たちに取り押さえられ、拘束された。
終わった…第二の人生とは言え、俺はこの国の犯罪者だ。




