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死霊術師の人型兵器研究日誌  作者: 梅上
第二・五章 戦乱の幕開け
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03 レグルスの策

「一月だ」


 アルバトロス帝国帝都ライヘル。その帝城の中で第二皇子レグルス・アルバトロスはそう宣言した。

 

「一月でログニスを落とす」


 その言葉に意義を挟む者はいなかった。ここにいるのは彼と共に泥沼の内乱を生き残った腹心中の腹心。今更彼の能力に疑念を持つ者はいない。

 

「主殿。一月で落とすというのは良いのだが、ラグラ要塞に送った増援は本当にあれでよいのか? あれでは……」


 約十年振りに故郷へ戻ってきたヘズンも、流石に三年も経てばここの空気を思い出す。己の主の行動に無意味な物は無いと信じているが、流石に今回の策の真意を掴みかねていた。


「構わん。元より、国境は囮だ」


 その言葉は面々に流石に動揺を与えた。アルバトロスのほぼ全戦力。それが囮と言い放ったのだから当然ではある。

 

「現在グランデにはログニスの保有する魔導機士、二十五機が集結している」

「港湾都市エルドに海上戦機が一機。王都の守りとして四機。それ以外の全てです」


 副官であるカグヤがそう補足する。

 

「あれだけの大戦力だ。ログニスが迎え撃つにはそれしかない」

「しかしながらログニスはグランデの後方に新たな要塞の建造を始めています。ロズルカと合わせての一大防衛ラインを再編するのが狙いとみられます」

「ふむ……街道を完全にふさぐつもりか。厄介だな」


 十年間ログニスで過ごしたヘズンはその地形についても最も詳しい。表情に渋面を浮かべた。

 

「皇子。要塞の十や二十。某に命じて下されば幾らでも突破しますぞ?」


 アルバトロスの数少ない古式乗りの一人、ヤン・クローリーが不敵な笑みを浮かべながらそう言った。ヘズンは己の同輩に相変わらずだという評価を下した。十年経っても脳筋なのは如何な物かと思う。だが、十年間で隔絶した実力を身に着けていたのは分かっていた。

 

「ヤン。残念だがお前の力は別の場所で発揮してもらう事になる」

「むう。残念ですな。して、某の戦場とは?」

「王都だ。海上輸送で新式五十機、古式四機で防衛線の裏に上陸。そのまま王都を強襲し、落とす」


 会議室が沈黙に包まれる。ヤンが額を押さえながら呟いた。


「これは……久しぶりに皇子の悪い癖が出たか」

「おい、カグヤ……しっかりと手綱握っておかんと駄目だろう」

「……申し訳ございません。まさかこんな事を言い出すとは思っておらず」

「待てお前ら。何だその態度は」


 三人が視線を交わす。彼らが擁く主君は偶に大ポカをやらかす事があるのは熟知していた。そこをフォローするのは自分たちの役目だという事も。

 視線に負けて代表となったヘズンが答えた。

 

「主殿。実はだな、ログニスは海軍があるんだ」

「知ってる」

「そうか。ログニスの海岸は切り立った箇所が多くてな。上陸できるような箇所には港町があって、要塞化されているんだ」

「知ってるよ!」

「残念な事にアルバトロスの海軍はログニスの海軍に劣る。と言うよりも、海上戦仕様の魔導機士一機にぼこぼこにされているというべきだが……」

「それも知ってるっての! お前ら俺を馬鹿にし過ぎだろう!」


 普段の冷酷な皇子用の仮面をかなぐり捨ててレグルスは文句を言う。内乱時代から含めれば十五年以上の付き合いだ。彼の素など既に知り尽くされていた。


「皇子は偶に信じられないようなポカするしのう」

「申し訳ございません殿下。否定できません」

「ちゃんと今回は根回ししたっての……良いか。貴様ら」


 仮面を被り直したレグルスがその策を説明する。納得の表情を浮かべる三人。そして全員が沈痛な面持ちとなった。

 

「全く……我々も薄汚れた物だ」

「某らが行きつく先は地獄だろうな」

「あの世と言う物が本当にあるならば、ですが」

「地獄だろうとどこだろうと構わない。大陸を統一して争いを無くす。その大願を成せたのなら俺はどうなろうと構わない」


 終わりの見えない内戦を生き残れなかった者達との誓い。それを成す為ならどんな非道でも彼は行うつもりだった。例え後世で悪鬼と罵られようとも、過去の人間を罵るだけの余裕が生まれるならばそれで良いと彼は言い切れる人間だった。


「……当然だが、お前にも一働きしてもらうぞ、ヘズン。王都ならお手の物だろう?」

「ええ。上手い飯屋を紹介しますよ」

「楽しみにしておこう」

「それはそうと皇子。古式四機ってことは……」

「ああ」


 どこか楽しげな笑みを浮かべて、レグルスは頷く。

 

「余も出陣する」


 ◆ ◆ ◆

 

 会議が終了後。カグヤは己の部下となる一人の少女を呼び出していた。

 

「貴方に名誉挽回の機会を与えましょう。ククルスカノラス」


 その言葉に、少女はのろのろと頭を上げた。

 ログニスから魔導機士技術を奪い取る立役者となった少女。だがその功績に反して、帝国での扱いは劣悪とさえ言えた。

 

「量産型魔導機士強奪の際の背任行為は不問とします。貴女の高い融法の位階を活かす仕事を用意しました」


 その後の調査で、ククルスカノラス――アリッサを名乗っていた少女が虚偽の報告をしていたのがバレたのだ。

 中心人物であるカルロス・アルニカの情報の秘匿。いや、むしろ替えの利かない人材と言う意味ではクレア・ウィンバーニよりも重要だったと言える。彼女の立ち位置を考えればその情報を入手できなかったというのは考えにくい事だった。

 その情報があれば、ヘズンに確保させることも可能だったため、余計に扱いは酷い物となった。処刑されなかったのは融法の位階が非常に高いためだ。間者としてその技能は貴重だった。

 

 カルロス相手にそうした様に。彼女の融法ならば相手の記憶の中にある誰かに誤認させることも容易かった。

 

 元々彼女は、その特性を利用したハニートラップ要因としてログニスに派遣されていたのだ。その仕事をするよりも先に、エルロンドに潜入可能な諜報員という事で白羽の矢が立ち――そこからは改めて言うまでもない。

 

 指令を出した人間にも、彼女自身にとっても意外だったのは籠絡対象であるカルロスに彼女の方が籠絡されてしまった事だろう。

 魔導機士制作の中心人物と知られたら、間違いなくアルバトロスへ拉致される。そうさせたくなかったが故に、彼女は嘘を吐いたのだ。

 クレア一人を犠牲にすれば他の人は元の生活に戻れる。量産型魔導機士の記憶を消す際にも細心の注意を払った。数カ月もすれば正気に戻る様に施術したのだ。

 

 その目論みは上手く行っていた。アルバトロス帝国としては一切の情報を残したくなかったのだろうが彼女には知った事では無かった。カルロスが試作一号機に乗り込んだ時点で成功を確信した。

 

 だが――彼は追いかけてしまった。その場で留まればクレア以外は全員助かったのに。たった一人を助けるために追いかけてしまった。

 

 そうしてアリッサだった彼女の――名前の無い彼女の策略は失敗に終わった。

 

 だが、カグヤにはまだ彼女の使い道を考えている様だった。

 

「この次の作戦、新式の魔導機士に乗りなさい。そこで十分な戦果を挙げればあなたの謹慎を解きましょう」


 どうでもよかった。カルロスがテグス湖に捨てられる姿を見ていた彼女にとって、自分がどこにいようが、何をしていようが。籠の中の鳥でしかない事に変わりは無いのだから。

 

「裏切りなど考えない事です。もし、裏切る様ならば……」


 カグヤが懐から取り出し、翳したエーテライトが光る。その瞬間にアリッサは胸元を押さえて崩れ落ちた。顔色は一瞬で真っ青になり、激しく喘いで酸素を取り込もうとしている。

 

「貴女の心臓は我々が握っています。その事を忘れないように」

「……はい」


 見せしめ以外の何者でもない行為に、彼女は不満を漏らすことも無く耐えた。

 

「……一般の部隊に混ぜるとなるとコードネームではないちゃんとした偽名が必要ですね。希望はありますか?」


 その問いかけだけは彼女の眼に光が戻った。己の望みが叶えられるのならば、一つだけ。


「……アリッサ」


 嘗て優しく呼んでくれた人の記憶を忘れない為に。彼女は再びアリッサを名乗る。


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