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死霊術師の人型兵器研究日誌  作者: 梅上
第二・五章 戦乱の幕開け
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04 王都襲撃

 開戦から二週間。未だグランデでにらみ合いを続けているログニスとアルバトロスの軍勢。その遥か後方でその変事は起きていた。


「馬鹿な……何故アルバトロスの軍がここにいる!?」


 ログニス王国王都ログニールには特に強固な城壁が周囲を囲っている。大型魔獣の群れに襲われても籠城が可能な程の堅牢な壁。

 その周囲を、五十機の新式魔導機士と、その後方にマントの様に布を羽織った四機の古式魔導機士が取り囲んでいた。

 

 信じがたい光景にイーサは動揺の声を上げた。

 

「グランデは、ロズルカは突破されたのか!?」

「い、いえ! そのような報告は受けておりません!」

「ならば奴らは一体どこから……」


 伝令兵の答えに納得の行かなかったイーサはいらだたしげに頭を掻きむしる。全く以て想像の埒外にある光景と言えた。国境と王都の間にはグランデと言う名高い要塞都市と、ロズルカと言う城塞都市が並んでいる。更にはその間を補強する要塞群が建造中だったのだ。南北に貫く多重防衛線。そこを突破できたとは思えないが、そこ以外に道も無い。

 

 イーサを正気に戻したのは上官でもあるアレックス・ブランの呻き声だ。

 

「……西だ」

「西?」


 オウム返しに尋ねる。イーサは頭の中に地図を描いた。王都の西そこには海岸と――港湾都市エルドが存在する。

 アレックスが示唆することに気付いてイーサは今度こそ叫んだ。

 

「ば、馬鹿な! エルドは王国海軍と、ラーマリオンが守護しているはず! それにエルド自体も要塞化された港! こんな短期間で突破できるはずが!」

「突破したのでなければ?」

「は?」


 今度こそ、イーサの想像をはるかに超える言葉だった。否、それが何を意味しているのかは分かった。だが信じがたい事だった。信じたくない事だった。

 

「進んで迎え入れたとすれば……この進軍の早さも頷ける」

「まさか……まさか……」

「裏切ったんだ……! チリーニ侯爵が!」


 アレックスの推測。それは全て当たっていた。

 

 西部を預かるチリーニ侯爵。彼は数年前からアルバトロスとの接触を持っていた。そしてこの大規模侵攻を前に、一つの提案が為されたのだ。

 

 海上戦力を封じろと。そして、港をアルバトロスに接収させるべしと。その代償として戦後、領地の拡大を約束して。

 

 ログニス海軍とアルバトロス海軍の戦力はほぼ互角だ。その差を決定的な物にしていたのは魔導機士、ラーマリオンの存在だった。言い換えてしまえばラーマリオンの有無が勝敗を決めていたと言える。

 

 その搭乗者とて聖人君子ではない。それなりに手間がかかったが操縦者も寝返らせ……ログニス海軍に牙を剥いた。

 結果はログニス海軍の壊滅。港ではスムーズにアルバトロス軍の上陸が行われ、何一つ遮るものない東進は伝令が走るよりも早く、王都へとたどり着かせたのだった。

 

 調略による戦果。第十三大隊の一件に続く、レグルスの仕込みの成果だった。二度も似た手で窮地に陥った事に関係者は蒼白な表情をしているだろうが、最早悔いる時間も無い。

 

「聞け! ログニスの民よ!」


 どうするべきかと動揺の走る王都守備隊を無視するかのように――或いは突き崩すかのように城壁の外から大音声が響く。

 一機の古式が前に出て、操縦者が声を張り上げていた。

 

「我が名はレグルス。レグルス・アルバトロス! アルバトロス帝国第二皇子である!」


 ざわめきが大きくなった。その大半は本物かと言う疑惑の声だ。だがイーサには、王都にいる魔導機士乗りにはそれよりも気になる事があった。

 

「ガル・エレヴィオンが怯えている……」


 己の相棒たる魔導機士。その異常によって。イーサは怯えている、と称したがあながち間違いではないかもしれない。安定した供給を続けていた魔導炉の出力が不定型な波形を描く。操縦系の反応が鈍くなっている。まるで身が竦んだかのように。

 

 初めて見る反応だった。魔導機士のコアユニットは謎が多い。嘗てイーサの義弟であるカルロス――当代でも最高クラスの解法の使い手が解析を行っても何も分からなかったのだ。過去からの資料も何も残っていない。

 

 殆どが先任者からの口伝に近い形で特性等も伝授されているのだ。

 

「いや、先々代からの言い伝えで聞いたことがある。確か大罪機……」


 イーサは記憶を掘り起こす。どこかで発掘された機体かは定かではない。ある日突然現れ、周囲に多大な被害を与えたという異色の魔導機士。見るだけで人の不安を煽り、狂気に走らせた。

 最終的に、オルクスの神兵が数機派遣されて打倒したという事だが、それまでログニスの魔導機士部隊は歯が立たなかったらしい。

 先々代はこう言い残していた。大罪機と出会ったら逃げろと。あれは立ち向かう事が出来る相手ではないと。

 

「既に王都はわが軍が包囲した! 諸君らに勝ち目はない!」

「あれは……皇帝機グラン・ラジアス……」


 禍々しい意匠の漆黒の機体。とても実用的とは思えない形状の大剣を眼前に突き刺し、その肩には一人の男。遠目にも美丈夫であるのが見て取れる。レグルス・アルバトロスその人である。

 

 伝え聞く特徴から皇帝専用機と判断したが、ガル・エレヴィオンの反応は伝え聞いた大罪機に対する物。つまり、グラン・ラジアスがそうであるという事だろうかとイーサは悩む。答えを持っている者はいない。

 

「驚いたな。まさか本当に第二皇子が自ら前線に出るとは」

「確か内乱で第一皇子が排除されたから次期皇帝の筈だろ……? 何でこんなところにいるんだ」


 まさかの次期皇帝が敵陣の真っただ中に現れるというのはこの大陸でも常識外の行動だった。

 しかしこの場においては効果的だった。

 

「降伏せよ! レグルス・アルバトロスの名において、名誉ある扱いをすると誓おう!」

 

 敵の総大将からの降伏勧告。それは王都の住民に強い衝撃を与えるには十分な物だった。圧倒的な数の差と言う現実に士気が下がっていくのが肌で感じられる。

 

「三時間待つ。それまでに答えを決めたまえ」


 そう言い残して、レグルスはグラン・ラジアスの中に戻る。そのまま包囲網の後方に下がった。

 アルバトロス軍王都強襲部隊の幹部は皆遠隔通話用の魔法道具を身につけている。それを使って会話を始めた。

 

「連中降伏しますかね」

「まあ行き成りはしないだろうよ。無傷で王都を明け渡したとなれば末代までの恥だ。恐らくは一当てあるぞ」

「それを某らで叩きのめせばいいという事じゃな」

「そういう事だ」


 ヤンの言葉にレグルスは薄く笑う。

 

「そら、この王都を守る連中のお出ましだ」


 王都を囲う城壁。その唯一の出入り口。正面大門が大きく開いた。

 王都を守護する最後の砦。四機の古式魔導機士が戦いに挑む。

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