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死霊術師の人型兵器研究日誌  作者: 梅上
第二章 学園編:下
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14 オルクス神権国の蠢動

 魔導機士は大陸最強の兵器である。

 ならば、その魔導機士の中で頂点に立つのは一体どの機体か。その問いかけは大陸史にて幾度となく行われてきた物で、そして決まって同じ答えが返ってくる。

 

 オルクス神権国。それを守護する九つの神剣使いが駆る神兵であると。

 

「それは事実か?」

「はい。ログニスで動きがありました。恐らくは魔導機士の製造を行おうとしていると思われます」


 大陸中部に位置するオルクス神権国。そこで部下からの報告を受けた一人の騎士が渋面を浮かべていた。場所は彼の執務室。シンプルな装飾のテーブルに広げられた書類を眺めて吐き捨てた。

 

「愚かな。何故人は自ら滅びの道を歩もうとするのか」

「如何なさいますか?」

「無論。潰す。と言いたいところだが、我々もしがらみが多くなりすぎた。下手に動けばアルバトロスに余計な口実を与える事になる」


 魔導機士の製造。それはこの騎士にとって許しがたき愚行だった。独り言の様に吐き捨てた言葉が全てを物語っている。それこそが人類を滅びに向かわせる行為だと信じているのだ。

 叶うならば、己の手で完膚なきまでに叩き潰したいと願っているのが報告を持って来た部下にもよく分かった。

 

「アルバトロス……彼の国は厄介ですね」

「ああ、全くだ……どうにも我が国を目の敵にしている。隙あらば噛み付いてきそうだよ」


 ログニスと大河を挟んだ反対側に位置する国の名前を挙げて騎士は憂う表情を見せた。戦ともなれば負けぬ自信がある。だがそれはアルバトロス帝国と言う大国の衰退に繋がる。そうなれば危ういバランスにある巨大国家は分裂し、漸く安定してきた大陸の情勢がまた荒れる事になる。

 騎士はその事を憂慮していた。自分たちが勝つことを微塵も疑っていないその姿に、苦言を挟む者はここにはいない。それはただ首を縦に振る人間を集めたという訳では無く、純然たる事実だからだ。

 

「確か……エルロンドは先日近郊に迷宮が発生して被害を受けていたな」

「はい。こちらがその時の報告になります」

「ふむ……この辺りを口実に訪問の予定を組むか」


 言葉で解決できればそれが一番良いのだが、そこまで上手くも行かないだろうと彼は思う。それでもログニスに対する牽制くらいにはなるはずだった。


「ではその様に官僚どもに調整させます」

「相変わらず文官には辛辣だな。お前は」

「奴ら等周囲に集って残飯を漁っている野良犬と大差ありません。いえ、むしろ血統として腐肉漁りに特化しているだけあって余計に性質が悪い。この国で輝ける存在は貴方がただけです。神権守護騎士団第三席、グランツ・ウィブルカーン様」


 この大陸で番目に強い男はその名を呼ばれて口元に軽い笑みを浮かべた。

 

「連中が俺たちを利用しているように、俺たちも連中を利用しているんだ。お互い様だよ。しかし大型魔獣を討伐か。ここまでの性能があると不味いな。要らぬ野心を持つかもしれん」

「早めに牽制の必要がありますね」

「全くだ……そろそろ暇になって欲しい物だが。開発の主要人物は?」

「こちらに」


 部下がグランツの前に別の資料を出す。

 

「流石だな」

「閣下の目となり耳となるのが私たちの仕事ですので」


 その滅私の言葉に苦笑しながらグランツは資料に目を通す。近年導入された植物による紙は薄くて軽いため、大量の資料を保管する際には重宝していた。その手触りを楽しみながら一言唸った。

 

「なるほど……」

「閣下?」

「ログニス訪問を早めに入れてくれ。場合によってはログニスと連携の必要がある」

「かしこまりました」


 一礼して退室する部下を見送るような真似はせず、グランツは執務室の窓から外を眺めた。今しがた見た情報は少々致命的に過ぎた。開発の主要人物の中に、最もいて欲しくは無い名前が存在していた。

 

「魔導機士は今以上に増やすわけには行かない。東の地での騒動と言い……ここしばらくの大陸の動きはどこかおかしい……」


 呟いて、彼は再び己の執務机を占拠する書類を手に取った。

 

「全く! 戦場で剣を振るう事がどれだけ楽な事か! 誰だこんな書類なんて物を人間に与えたのは!」


 理不尽な文句を言いながら彼は執務を再開するのであった。


 ◆ ◆ ◆

 

「武器が無いな」

「うん?」


 魔導機士の稼働試験が始まってからある日の事。各部関節、歩行テストが済み現在は各種動作を確認していた。その最中トーマスが気が付いたように言ったのだ。

 

「そう言えば用意してなかったな」

「……それで一回負けそうになったのに」

「しょっちゅう物を忘れるトーマスに言われるなんて……!」


 トーマスの突っ込みにカルロスが割と本気でショックを受けた顔をしていた。騎士科三人を飢え死にさせかけた相手にそんな事を言われると釈然としないものがあるのか。カルロスは悔しそうに言う。

 

「トーマスに言われるのは癪だが、そろそろ武装を使った試験をする必要があるからな……用意しないと。トーマスに言われるのは癪だが」

「二回も言う程かよ!」

「だったら忘れ物無くせよ!」


 と低レベルな言い争いをしていると、今しがた試験を終えて額に汗をかいたガランが歩いてきた。

 

「おうおう。盛り上がってんな……なあカルロスちゃんよ。俺らの試験は短時間で交代しているからまだいいけど、これ実際に使うってなったら夏場なんて操縦席の中蒸し風呂状態で行軍することになるぞ。何か対策入れた方が良いんじゃねえか?」


 既に暑さのピークは過ぎて秋が近付いてきている今でさえ、汗をかくほどになっているというのならば、夏はもっとひどい事になるのだろう。カルロスも前回乗った時は短時間だったのでそこまで意識が回らなかった。


「居住性か……全然考えてなかったな。ちょっと後で相談してみる」

「頼むぜ。蒸し風呂状態で脱水症状になりました何ていったらシャレになんねえ」


 ちらりとトーマスに視線を向けると同意する様に頷いた。

 

「俺は南の出だからまあ何とかなるけど長時間乗れって言われると嫌だな」

「うーん。魔法道具で気温を下げるか」

「あと湿気も」


 若干話を逸らしながらもカルロスとトーマスは二人で長老の元に向かった。

 

「長老。魔導機士の武装の件なんですが……」

「ああ、そこはもう手配済みですよ。以前話した通り、第三工房の魔導機士が使っている剣と盾を交換用も含めて二十組用意して貰っている」


 武装は消耗品だ。創法で直せる場合もあるが、そのための魔力が勿体ない場合もある。


「ありがとうございます」

「いえいえ……しかし今後は問題ですな」

「今後?」

「ええ。もしこの機体が量産化されるとなったら……とてもとても消耗品である武装までは手が回らない。今までは魔導機士が三十機程度という事もあって武装の予備もそこまでの数は不要でしたから」


 言われてみればそうだった。もし首尾よく量産されることになれば、今まで以上に広範囲に魔導機士が配備されるだろう。そして武装は消耗品。魔導機士自体はどこかで集約して作るにしても、消耗品である武装までそうするのは輸送コストの問題がある。なるべく現地で生産するのが望ましい。

 だがそれは魔導機士の工房をミニサイズではあるがもう一つ用意するという事だ。こちらの初期コストは馬鹿にならない物となる。

 

 まさかの魔導機士本体よりも面倒な事になりそうな気配にカルロスが頭を抱えようとした瞬間。

 

「ふっふふ! お困りの様だねあるある!」

「そ、その声は!」


 突如響いた声にカルロスは驚愕の声を挙げた。相手が誰かは分かりきっていたが一応礼儀として。

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