5真実
「待ってくれ!フローラ。君が怒るのはわかる。俺はあの日勘違いしたんだ。悪かった。とにかく話を聞いてくれ!」
ルカは必死だった。
つま先を扉の間に差し入れ扉が閉まらないようにしている。
「何を今さら。私がどんな気持ちだったか。あなたを信じていた。なのにあなたは私の気持ちを踏みにじった。それを今さら。いいから帰って!あなたになんか二度と会いたくないんだから!!」
そんなの嘘だった。ずっと会いたかった。ずっと理由を知りたかった。
ずっと。ずっと。ずっと‥‥
もう一度よくルカを見た。
ルカはすっかり頬がこけやつれていた。目からは生気が消えて目の下には眠れない夜を過ごして来たらしい隈が染みついている。
確かに騎士だからある程度の筋肉はあるようだが、この瞳からは面白おかしくこの一年を過ごして来たようには到底見えなかった。
「頼むフローラ。あの時俺は君がジーボルトの娘だと知って勘違いしたんだ。俺の父はヨシュア・ジーボルト。だから俺は君を妹だと思ってしまった。だから君と別れるためあんなうそを言った。君は俺を裏切ってなんかいないとわかっていたのに」
ルカは少し擦れた声で後悔の言葉を口にした。
「えっ?」
ルカにそう言われて私はほんの少し怒りが収まった。そして自分の父の名前がジーボルトだった事を思い出した。
「アシュア・ジーボルト。私の父の名前です。じゃ、あなたと私は‥‥」
その先を考えたくなかった。
愛した人が兄だったなんて。
私はその場で意識を失いそうになる。
「フローラ!」
すかさずルカの腕が伸びて私の身体を支えた。
「ルカ。私達は‥」
ルカは私を店の中に運び入れると奥の小さな部屋に連れて行った。そこにはソファがある。ルカは私の家の事は何でも知っていたから。それからキッチンから水を持って来て私にゆっくり飲ませた。
「さあ、ゆっくり飲んで。そうじゃないんだ。心配ないからフローラ」
彼は私の背中をゆっくりさすりながら言葉を紡いだ。
「俺は去年の星祭りの日、君に結婚を申し込むつもりだった。騎士は結婚する前に騎士団に届けを出すんだけど、手続きに行って騎士団長に言われたんだ。君はジーボルトとの間に出来た子供だって‥」
「やっぱり」
私はやはりと肩を落とした。
ルカは一度私から離れて距離を置いて話しを始めた。それでも私が倒れても支えれるように手は差し出したままで。
「俺だってショックだった。だからあの日君を誘いに行けなかった。俺たちは兄妹だと思い込んだ。別れるために嘘をついた。君を傷つけた。ショックで王都に帰ってもしばらく何も手に付かなかった。父に確かめようにももう亡くなっていたし母もそんな事実は知らなかった。俺はすっかり諦めていた。でも、先日アシュア・ジーボルトの葬儀に行って」
「アシュア・ジーボルトは私の父だと聞いています」
脳内が混乱した。ルカのお父さんは亡くなっている。なのにアシュア・シーボルトに会いに行った?
「ああ、そうなんだ。俺の父はヨシュア・シーボルト。フローラのお父さんはアシュア・シーボルト。二人は祖父が兄弟なんだ。だからフローラとは、はとこになるんだ!」
「それって‥ルカは私のお兄様ではないと言う事?」
「ああ、20数年前確かにふたりはルクラに来た。同じ時期で騎士団長は2人の事を混同して記憶していたんだ。アシュア・ジーボルトは君のお母さんと恋仲になった。でも、王都に帰ると父親が倒れてすぐに男爵家の後を取らなくてはならなくなった。婚約者がいて最初は破談にするつもりだったらしい。でも、爵位を継いでもう後には引けなくなった。子供が出来たとは知らなかったらしい。彼の息子から偶然君のお母さんに宛てた手紙の事を聞いて知ったんだ。フローラの父がアシュア・ジーボルトだったと」
「父は亡くなったんですか?」
「ああ、残念ながら君の事を知らないまま‥事情を書いた手紙を出すつもりだったが出せなかったらしい。今頃天国で君のお母さんにこってり絞られているぞ」
「まあ、母は父の事怒っていませんでした。彼は男爵家の嫡男、きっと事情があったんだろうって言ってました」
「君のお母さんは強い人だったんだ。フローラみたいに」
「まあ、私はそんなに強くはありません。ずっと辛かった。あなたを忘れられなくていつだってあなたを思い出して泣いていました」
「フローラすまなかった。俺がもっと事実をしっかり助かめれば良かったのに、すっかり気が動転して‥何しろ愛した女が妹だなんて俺も死ぬほど辛かった。でも、そうじゃなかったんだ。だからフローラ俺ともう一度」
ルカは頭を下げて謝ると顔を上げて私を見た。
彼に嘘はないと思った。大の男が頭を下げ悲壮な顔でやり直したいと言っているのだ。
それも私の家にやって来て私の目の前で。
でも、その時胸の奥がちくりとした。
「ルカ、後悔しない?私は平民だしこんな所に住んでるのよ。店もあるから王都には行けないと思うわ」
ルカが私を求めている。それはすごくうれしかった。でも父は事情があって母の元には帰って来なかった。もしルカも同じようになったら?私より貴族のご令嬢を娶れとか言われたら?
「フローラ、俺を信じるのが恐いんだろう?」
ルカの灰青色の瞳が私を覗き込む。
心を見透かされたみたいだけど私はこくんを頷いた。
「当然だと思う。俺は君を捨てた。そして君のお父さん、アシュア・ジーボルトも戻ってこなかった。連絡もしなかった。君のお母さんがどれだけ傷ついたか君も父に捨てられたと思ったはずだ。でも、俺は違う。俺は王都には戻らない。爵位は次男だから継がなくていいからこのままここでルクラ辺境の騎士としてやっていくつもりだ。フローラはこのままここでお母さんが残した薬草店を続ければいいし、もし良かれば俺がここに越して来て一緒に住んでもいいと思っている。もちろん稼ぎはすべて君に渡す。騎士は女遊びをするって言うのが常だけど、いいかいフローラ。俺は君一筋だからな。小遣いだって要らない。昼は食べに帰ってもいいしフローラが弁当を作ってくれるのもいいな。服は騎士団から支給されるし、なっ、生活費はほとんど必要ないだろう?だから」
ルカは口早につらつらとこれからの事を話した。
「ルカ、もうそこまで考えているの?」
頭の中の考えが言葉になっていた。
「当たり前だろう!フローラに酷いことをしたんだ。君に一方的に別れを告げてそれも君を悪者にして!これくらいじゃ俺の気持ちは収まらない。頼む。もう一度俺にチャンスをくれないか?今すぐでなくていい。明日の星祭り聖星教会の参道の入り口で待っている。ずっと待ってるから。あの日の約束をもう一度やり直したいんだ。今度こそ星神様に君との将来を一緒に過ごしたいと願いたい。星祭りに願えば願いが叶うんだろう?だからフローラ、君と一緒に行きたいんだ!」
今すぐでなくていい。でも明日には決めて欲しい。
ルカは思いやりがあるのかせっかちなのかわからない。
「今すぐでなくていいのよね?」
「ああ、当たり前だろう」
「でも、明日の星祭りまでには決めて欲しいのよね?」
「あっ!でも、星祭りで一緒に願いたい。明日が無理だと来年まで待つことになるから‥」
ルカは気まずそうに言葉を詰まらせる。
「あなたを信じていい?」
「ああ、俺を信じて欲しい」
もう、迷いはなかった。だって、私の事を思っていなければこんな事しるはづがないもの。二度とルクラには来なくてもいいし、まして星祭りの前日に一緒に願いを叶えに行きたいなんて来なくてもいいんだもの。




