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国境を消した最強術師ですが、学園で普通の青春ごっこ始めます! 〜神に愛されし兵器の少女、なぜか幼馴染の王子様に執着されてます〜  作者: 美絢


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第7話 お願い、なら

 目が覚めると、隣にアルシオスはいなかった。


(……なんか、変な感じ)


 いつもなら。


 目を開けた瞬間には、

 サファイア色の瞳がじっとこちらを見ているのに。


 ぼんやりした頭のまま部屋を見渡す。


 すると、机の上に置き手紙があった。


『おはよう、ノクス

 クローゼットの中の服に着替えたらドアを開けてね』


 流暢な筆記体。

 見慣れたアルシオスの字だ。


 視線をクローゼットへ向ける。


 白を基調とした、無駄に装飾の細かい大きな扉。


 いつもなら少女趣味全開の服がぎっしり詰め込まれている場所だ。


(……一応、見とくか)


 金色の取手を掴み、ゆっくり開く。


「は?」


 そこに掛かっていたのは――昨日卒業したはずの学園の制服だった。


 しかもスカート丈が長くなっている。

 ブラウスも、前より少し可愛い。


 嫌な予感しかしない。


 そして他に服がない。


「……まぁ、いっか」


 いちいち反応するのも疲れる。


 制服に袖を通す。


 気持ち悪いくらいサイズがぴったりだった。

 怖いって、こういうことを言うのかもしれない。


「ノクス? 起きてる?」


 控えめなノック音。


 そのあとに続く聞き慣れた声。


「起きてる」


 返事をすると、ゆっくり扉が開いた。




「ごめんね。そろそろこっちが限界そうで」


 そこにいたのは、学園の制服に身を包んだアルシオスだった。


 三年ぶりに見る制服姿。


 前より背も伸びた。

 肩幅も広くなった。


 なんだか妙に心臓に悪い。


「ずっと待ってたの? それ持って?」


「うん」


 アルシオスが掲げたのは、あの日喧嘩した原因の――プリン。


「暇なんだね」


「健気って言ってよ」


 とりあえずプリンは冷蔵庫へ転移させておく。


「……で、これどういう状況?」


 アルシオスの胸元。

 校章を指先でつつく。


「私、昨日卒業したよね?」


 メダルだって貰った。


 するとアルシオスがくすりと笑う。


「実はね。一昨日、校則が変わったんだ」


「嘘でしょ」


「ほんとう」


 嫌な予感しかしない。


「三年以上休学した生徒は、出席日数をリセットすることになりました」


「最悪」


「つまり、ノクスはまだ卒業できません」


 ここ最近で一番いい笑顔だった。


「最悪」


 こんなの正しくない。


「むくれてる顔も可愛いね。もう承認済みだけど」


 ひらり、と承認書を見せられる。


 受け取る前に燃やした。


「……やだ。めんどくさい」


 学校は嫌いだ。


 行くたび変な目で見られる。

 話しかけられても、何て返せばいいか分からない。


 実技は実技で詠唱必須。


 あんなの、なくても撃てるのに。


 ――なにより。


「……アル、いないし」


 ぽつりと落ちた声は、自分でも驚くほど弱かった。




 アルシオスがいたから通っていた。


 仕方なく。


 本当に、それだけの理由で。




 だからいないなら、

 行く理由なんてない。


 すると肩に手が置かれた。


「……あのね、ノクス」


 あ、これ。


 面倒な話をする顔だ。


「実は僕――留年してるんだ」


「……は?」


「最終登校日は、ノクスと一緒だった日」


 数秒、思考が止まる。


「もしかして三年二ヶ月留年してる劣等生って……」


「それ、僕だね」


 不敵に笑った。


 まさかもう一人いたなんて。


「馬鹿なの?」


 私は平民だ。


 でもアルシオスはレダリウスの第一王子。

 意味の重さが違う。


「……王子様なのに、国籍ないの?」


 この国では学園を卒業して初めて正式な国籍を得られる。


 それまでは様々な権利が制限される。


「実は、ないんだよね」


 イタズラっぽく笑う。


 いや、笑うところじゃない。

 国籍のない王子なんて聞いたことがない。


 すると。


「……だからね、ノクス」


 ふっと声が低くなった。


 指先が、


 ゆっくり顎を持ち上げる。




「今なら、逃げられるよ」




 サファイア色の瞳が、


 真っ直ぐ私を映していた。


「ふたりだけで、“普通の人”として暮らすこともできる」


 それは、

 ずっと昔。


 二人で話した夢物語だった。


(……なに、急に)


 アルシオスの親指がそっと唇をなぞる。


 心臓がうるさい。


 こんなの知らない。


「……どうする?」


 そんなの、

 決まっている。


「無理」


 あの頃とは違う。


 ――もう、何もかも。


 そう返すと、

 アルシオスは少しだけ目を伏せた。


 ――けれど。


 どこか安心したように笑った。


「命令でも?」


「いや」


 首を横に振る。


「……お願い、なら?」


 胸の奥。


 柔らかい場所を指先でそっと押されたみたいだった。


(……ずるい)


 アルシオスの手を掴む。

 魔法を使う気にはなれなかった。


「……学校、行くから」


 兵器は、人にはなれない。


 この三年二ヶ月で嫌というほど思い知らされた。


 すると。


「じゃあ、頑張って卒業しようね」


(……ハメられた)


 結局こうなる。


 アルシオスの指が胸元へ伸びる。


 ポケットに入っているのは、あの眼鏡。


「……行こうか」


 そっと指先が離れる。


 ――その瞬間。




 胸の奥で、


 嫌な音がした。




 ぞわり、と。




 まるで、

 眠っていた“アンダー・リム”が、



 静かに、


 目を開けるように。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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