第3話 殺してほしい人がいる
「……“アンダー・リム”ってあれだろ?
国籍不明の最強集団の……」
「なんで、私らがこんな目に遭わなきゃいけないの……っ?」
そんな小さな呟きが、会場内を満たしていく。
「早くそいつを呼べよ! 俺たちは関係ないだろ!?」
「誰か、助けて……!」
「政府は何やってんだよ……っ」
その様子を、静かに眺める。
誰かが助けてくれると信じている顔。
震えてる。
泣いている。
怒鳴っている。
でも誰一人、自分でどうにかしようとしていない。
不思議だった。
(――神様、どうしよう)
これ、正しくないよね?
魔術師なのに魔法使わないって、変だよね?
怖いのは分かる。
でも、どうして誰も動かないんだろう。
魔力があるのに。
手も足もあるのに。
それなのに、どうして助けを待つんだろう。
泣き叫べば現状が変わるの?
それなら世界って、もっと平和なんだろうね。
(……うるさいな)
自然と、指を擦り合わせる。
「……あの、お姉さん?」
少年が声をかけてきた。
その視線は、私の指先に向いている。
けれど私が見ていたのは、手首を縛られたままの女性だった。
目が合った瞬間、手のロープを見せつけてきた。
そこには抵抗した跡も、魔法を使った形跡もない。
――なんで、抵抗しないの?
そんな拘束、リボンより簡単に解けるでしょ?
……私が助ける必要、ある?
この人たち全員、魔法使えるんでしょ?
なぜか、幼馴染の横顔がチラついた。
――どうしてあなたは、こんなものを私に守らせるの?
その問いは、ため息と共に消える。
(……アルの仕事、増やさないでよ)
――その時だった。
「あぶないっ!」
目の前に、少年が立ちはだかった。
同時に、パンッ! と乾いた音と――火薬の香り。
「……何してるの?」
私に届く前に、弾丸がぐしゃりと潰れる。
その弾道から、ぽたっ、と水滴が落ちた。
少年の体が崩れ落ちる。
「……体が、勝手に」
小さく呟く。
息を吸うたび、喉の奥で血が鳴る。
「……庇ったってこと?」
――この、私を?
理解できなかった。
助けることはあっても、助けられたことはない。
そもそも、庇われる理由がない。
なんなら、お互い名前知らないし。
なによりこの子、すごく弱いし。
「巻き込んだの、俺だし。ほんとう、に……ごめん、なさい……」
脈が、弱くなる。
出血量も多い。
このまま放っておけば、死ぬ。
死ぬ前なら、案外本音が聞けるかもしれない。
「……君は、どうして”アンダー・リム”に会いたかったの?」
なんとなく気になった。
私に会いたい一心で、テロリストを手引きした。
騙されたとはいえ、司法が考慮するまでもなく――この子は反逆罪で死ぬ。
まあ、その前に怪我で死にそうだけど。
「お願いしたいことが、あって」
気まぐれに、耳を傾ける。
「――ある”二つ名持ち”を、殺してほしいんです」
空気が変わる。
静かな声なのに、やけに通る。
「……どうして?」
「あいつはアンノウンの名を借りた、殺戮者だ」
青年は血を吐きながら、それでも言葉を続けた。
不思議と、その情景が浮かぶ。
「でも、“アンダー・リム”は違った」
その目だけは、妙に真っ直ぐだった。
「あれだけの地殻変動で、死者はゼロ。軍事施設だけが蒸発した――まるで、狙ったかのように」
静かに、瞳を見つめる。
心の内で、つい、笑ってしまう。
「……君、すごいね」
くす、と喉が鳴る。
――そんな風に見えるんだ。
弱いくせに、夢を見るのが上手い。
ちょうど、その時だった。
『――反アンノウン組織、聞こえるか』
――この声。
反射的に顔を向ける。
モニターが切り替わる。
そこには――
『私はレダリウス王国、第一王子――アルシオスである』
レダリウスの国旗を背負った――幼馴染が、いた。
第3話までお読みいただき、本当にありがとうございました!
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