【第3章】【第1節】アピス・ブルーの正体は高濃度の液体魔力。錬金術師アルス、水中を空のように自在に飛翔する
第3章 魔力の海、空を泳ぐ
第1節 アピス・ブルーの正体は高濃度の液体魔力。錬金術師アルス、水中を空のように自在に飛翔する
翌朝。
目覚めると、窓の外には昨日よりもさらに鮮烈な青が広がっていた。
宿の朝食(深海魚の干物と、謎の海藻サラダ。味は絶品だった)を済ませた俺たちは、早速目の前に広がる『アピス・ブルー』の海へと繰り出した。
水着……といっても、冒険者用のインナーシャツとハーフパンツだが、それに着替えて波打ち際に立つ。
「主よ、早くしろ! 海が呼んでいるぞ!」
マリモはすでに緑色の毛玉ボディを弾ませ、砂浜で準備運動を始めている。
「焦るな。まずは水質のチェックからだ」
俺は慎重に足を海水に浸した。
ひやりとした冷たさと共に、皮膚から直接魔力が流れ込んでくるような感覚。
掌で海水をすくい上げ、陽光にかざしてみる。水はわずかにとろみがあり、キラキラと発光する微粒子を含んでいた。
「……やはりな。ただの海水じゃない」
俺は錬金術師としての知識を総動員して分析した。
この『アピス・ブルー』の海水は、極めて高濃度の『液体魔力』そのものだ。通常、魔力は大気中に霧散するか、鉱石に宿るものだが、この限界海域では圧力と環境要因によって液状化し、海を形成している。
つまり、この海に入るということは、巨大な魔力タンクに飛び込むのと同義だ。
「普通の人間なら、魔力中毒でショック死するレベルだな」
だが、俺にとっては好都合だった。アッシュバーデンでの環境改善作業で、俺の体は高濃度の魔力汚染に対する耐性がついている。それどころか、この豊富な魔力を利用すれば……。
「よし、いけるか」
俺は身体強化の術式を編み上げる。
通常なら魔力を消費して発動する魔法だが、ここでは周囲の海水そのものが燃料になる。
俺は海へと飛び込んだ。
ドボン、という音と共に視界が青に染まる。
身体が重くなる――はずだった。だが、俺は海中で印を結ぶ。
『流体操作』に『飛翔』の術式を重ねがけ。
瞬間、水の抵抗が消滅した。
俺の体は弾丸のように加速し、海中を突き進む。
息継ぎなど必要ない。海水に含まれる酸素と魔力を皮膚呼吸で取り込み、循環させる。
まるで空を飛んでいるかのような浮遊感。
重力からも、水の抵抗からも解き放たれ、俺は青い世界を自由自在に滑空した。
「ヒャッハー! 最高だ!」
王都でのしがらみも、錬金術師としての重圧も、すべてこの青い魔力が洗い流してくれるようだ。
俺は海中で一回転し、さらに深く、光の届かない海底を目指して加速した。




