ー【第4節】案内された部屋からの絶景と冷やし中華。ここから始まる波乱の予感
第4節 案内された部屋からの絶景と冷やし中華。ここから始まる波乱の予感
案内された『木漏れ日の間』は、予想以上に素晴らしい部屋だった。
磨かれた木の床、風通しの良い大きな窓、そして清潔なベッド。窓からは中庭の南国植物越しに、青い海が切り取られた絵画のように見える。
「おお、これは良いな」
「悪くない。風の通りも良い」
マリモもベッドの上で跳ねて感触を確かめている。
「気に入っていただけて嬉しいです! あ、そうそう、ウェルカムドリンク代わりの『冷やし中華』お持ちしますね!」
「え、今から?」
「はい! のぼり出したばかりなので、一番に食べてほしくて!」
アピスはパタパタと走り去り、数分後、湯気の立たない冷たい皿を持って戻ってきた。
それは、見た目は確かに冷やし中華だった。
だが、具材が普通ではなかった。
麺の上に乗っているのは、虹色に輝く魚の切り身、紫色の触手(動いている)、そして黄金色に光る謎のイクラ。タレは青かった。
「ど、どうぞ! 『アピス・スペシャル冷やし中華(深海風)』です!」
「……いただきます」
俺は覚悟を決めて箸をつけた。
青いタレに絡めた麺を口に運ぶ。
「!」
衝撃が走った。
見た目のグロテスクさに反して、味は絶品だったのだ。濃厚な魚介の旨味と、柑橘系の爽やかな酸味。麺はコシがあり、喉越しも最高だ。
「美味い……!」
「ほう、どれどれ……むっ! これは!」
マリモも皿に顔を突っ込み、猛烈な勢いで食べ始めた。
「美味いぞ主よ! この紫色のウネウネしたやつ、コリコリして最高だ!」
「でしょでしょー! それ、クラーケンの子供の足なんです!」
「クラーケン……」
食材の正体を聞いて一瞬箸が止まりかけたが、あまりの美味さに本能が勝った。
俺たちはあっという間に完食した。
「ふぅ、満足だ」
「おかわり!」
マリモが皿を掲げる。
「あはは、夜ご飯まで我慢してくださいね! それじゃあ、ごゆっくりどうぞ!」
アピスは満面の笑みで空いた皿を回収し、部屋を出ていった。
嵐のような娘が去り、部屋に静寂が戻る。
俺はベッドに大の字になった。
天井を見上げながら、これから始まる休暇に思いを馳せる。
奇妙な宿、謎多き看板娘アピス、そして規格外の食材たち。
「退屈はしなそうだな」
「うむ。あの娘、我を食おうとした罪は重いが、餌付けの才能はある」
マリモも満腹で機嫌を直したようだ。
窓の外から、潮騒の音が聞こえる。
王都の喧騒は遥か彼方。
俺たちは、ようやく本当の意味で「休暇」の入り口に立ったのかもしれない。
……もっとも、この宿の「日常」が、俺たちの想像を遥かに超えるトラブルに満ちていることを、この時の俺たちはまだ知らなかったのだが。




