ー【第2節】スクリュー回転で爆走する古龍マリモと、サメやマンタをペットのように従える看板娘アピス
第2節 スクリュー回転で爆走する古龍マリモと、サメやマンタをペットのように従える看板娘アピス
俺が海中飛行を楽しんでいると、後方から凄まじい水流が迫ってきた。
ボボボボボボッ!
まるで水中魚雷のような轟音。振り返ると、そこには緑色の回転体が迫っていた。
「主よォォォッ! 待たぬかァァッ!」
マリモだ。
だが、その泳ぎ方は尋常ではなかった。
愛らしい短い尻尾と、擬態のために生やしている触手のような体毛を絡ませ、高速回転させているのだ。
即席の生体スクリュー。
翠玉の古龍としての魔力を推進力に変え、マリモは俺の横を猛スピードで追い抜いていった。
「見たか主よ! これぞ古龍流泳法・『翠玉の螺旋』だ!」
「器用なことするな……目が回らないのか?」
「フッ、我レベルになれば三半規管など飾りだ!」
マリモは得意げに海中でポーズを決めるが、その周囲の海水が渦を巻いて魚たちを巻き込んでいる。
と、その時だ。
さらに向こうから、優雅な影が近づいてきた。
「わぁ~! アルス様、マリモ様! 泳ぐの上手ですね~!」
アピスだ。
彼女は水色の髪を揺らめかせ、人魚のようにしなやかに泳いでいる。
だが、彼女が乗っている「乗り物」に、俺とマリモはギョッとした。
アピスは、畳数枚分はありそうな巨大なマンタの背中に掴まっていたのだ。さらにその周囲には、鋭い牙を持つ獰猛なサメたちが、まるで護衛のように付き従っている。
「お、おいアピスちゃん? その後ろの物騒な連中は……」
「あ、この子たちですか? 近所のお友達です! こっちがマンタのマンちゃん、こっちがホオジロザメのシロちゃん!」
アピスがニコニコと紹介すると、凶悪なサメが甘えるように彼女の頬に鼻先を擦り付けた。
「……食物連鎖の頂点を見た気がする」
俺は戦慄した。この海域の魔物たちは、アピスにとってペット同然らしい。
「マリモ様も一緒に遊びますか? シロちゃん、新しいお友達だよ! 美味しそうな……あ、間違えました、元気な苔玉さんだよ!」
アピスの言葉に、サメたちの視線が一斉にマリモに向く。その目は明らかに「餌」を見る目だった。
「ヒィッ!? 寄るな! 貴様ら、我は古龍だぞ! 食物連鎖の頂点は我だッ!」
マリモはスクリューを全開にして逃亡を図る。
「あはは、待て待て~!」
それを無邪気に追いかけるアピスとサメ軍団。
青く美しい海の中で繰り広げられる、命がけの鬼ごっこ。
俺はその光景を眺めながら、改めて思った。
この宿に来てから、俺の「常識」という概念は、波に洗われる砂の城のように崩れ去ってしまったな、と。




