【第2章】【第1節】古代遺跡に翻る違和感満載ののぼり旗。奇妙な建物『潮騒の神殿』との遭遇
第2章 秘境の宿と龍の受難
第1節 古代遺跡に翻る違和感満載ののぼり旗。奇妙な建物『潮騒の神殿』との遭遇
昨晩の半魚人たちの襲撃は、俺とマリモにとって「軽い準備運動」に過ぎなかった。
翌朝、朝日が昇ると同時に、俺たちは浜辺の探索を再開した。昨夜の騒動が嘘のように、海は穏やかで、波音が優しく響いている。
「しかし、まさかこんな孤島に人工物があるとはな」
ジャングルを抜けた先に現れた光景に、俺は目を疑った。
白砂のビーチの奥、断崖を背にするようにして、その建物は鎮座していた。
白亜の石柱が並び、精緻なレリーフが施された壁面。屋根には青い瓦が葺かれ、まるで神話に出てくる神殿のような荘厳さを放っている。長い年月を感じさせる風化具合が、逆に神秘的なオーラを増幅させていた。
「古代文明の遺跡か? 魔力の残滓も感じる」
肩に乗ったマリモ(通常サイズの毛玉モード)が、鼻をひくつかせながら呟く。
「ああ、間違いなく一級品の遺跡だ。でもな、マリモ……」
俺は指を差した。その神殿の入り口付近を。
「あれは、どう解釈すればいいんだ?」
神々しい柱と柱の間に、場違いなほど鮮やかな「赤」と「青」の布が風にたなびいていた。
そこに書かれているのは、独特の書体で描かれた異国の文字――ではなく、俺も見知った王都の言葉。
『冷やし中華、はじめました』
さらにその横には、『空室あり』『オーシャンビュー絶景』『日帰り入浴可』という、やけに世俗的なのぼり旗がパタパタと音を立てている。
荘厳な古代遺跡と、大衆食堂のようなのぼり。この致命的なミスマッチが、俺の脳処理を一時停止させた。
「……罠か?」
「いや、罠にしてはセンスが前衛的すぎるだろう」
俺たちは顔を見合わせた。
警戒すべきか、笑うべきか。だが、この「限界海域」において、文明的なサービス(特に食事と風呂)が提供されている可能性は、何物にも代えがたい魅力だった。
「行ってみよう。少なくとも、敵意は感じない」
「うむ。冷やし中華とやらが美味ければ、すべて許そう」
俺たちは砂を踏みしめ、その奇妙な『潮騒の神殿』へと近づいていった。
入り口は開放されていた。
中に入ると、外見の古代神殿風とは裏腹に、ロビーは南国のリゾートホテルのような開放感があった。
床は磨き上げられた大理石。天井からはシャンデリアではなく、発光する不思議な貝殻のオブジェが吊り下げられている。
カウンターの奥には、「歓迎」と書かれた木彫りのプレート。
「すみませーん、誰かいませんか?」
俺が声を上げると、カウンターの奥からガタゴトという物音が聞こえた。
「はーい! いらっしゃいませーっ!」
元気な声と共に飛び出してきたのは、一人の少女だった。




