ー【第2節】顕現せし海淵の聖牛神ヴォル・アピスによる圧倒的な蹂躙、それは神の鉄槌であり、天地を揺るがす慈悲なき一撃が霧の怪物を跡形もなく消滅させる
第2節:顕現せし海淵の聖牛神ヴォル・アピスによる圧倒的な蹂躙、それは神の鉄槌であり、天地を揺るがす慈悲なき一撃が霧の怪物を跡形もなく消滅させる
光の柱が消え去った後、そこに立っていたのは少女ではなかった。
それは、海そのものを鎧として纏ったかのような、美しくも恐ろしい巨神。
身長は三メートルを超えようかという威容。透き通るような蒼い肌には、古代の文字が金色の光脈となって走っている。頭部には、天を衝くかのような二本の巨大な黄金の角。それはまさしく「聖牛」の象徴であり、慈愛と破壊を併せ持つ神の証だった。
『海淵の聖牛神ヴォル・アピス』。
かつて海を支配し、荒ぶる波を鎮め、あるいは大陸をも沈めたとされる伝説の神格。
『――愚かなる澱よ。我が友に牙を剥いた罪、万死に値する』
ヴォル・アピスの口から発せられた言葉は、物理的な衝撃波となって霧を吹き飛ばした。
先ほどまでアルスを苦しめていた「死の霧」が、まるで怯える小動物のように収縮し、後退しようとする。だが、神の領域において逃走など許されない。
ヴォル・アピスが右手を掲げると、周囲の海水が渦を巻きながら集束し、一本の巨大な戦鎚へと形を変えた。
そのハンマーは、凍てつく深海の冷気と、全てを押しつぶす水圧の塊だった。
『消え失せよ。海淵の鉄槌』
振るわれる一撃。
それは、武術や技術といった次元のものではない。
単なる、圧倒的な質量の暴力。
ハンマーが振り下ろされた瞬間、空間そのものが歪んだように見えた。
ドォォォォォォォォォンッ!!!!!
水平線の彼方まで届くような衝撃音が響き渡る。
ハンマーが直撃した霧の中心部は、一瞬にして蒸発した。いや、存在そのものを抹消されたのだ。
衝撃の余波だけで海が割れ、海底の岩盤が露出し、巨大な水の壁が四方へと広がる。
死の霧は断末魔の叫びを上げることすら許されず、神の鉄槌によって分子レベルまで粉砕され、浄化の光の中に消滅していった。
あまりの威力に、アルスは船の手すりにしがみつくのが精一杯だった。
嵐が過ぎ去った後のような静寂。
割れた海がゆっくりと元の姿に戻り、穏やかな波音が戻ってくる。
雲が晴れ、太陽の光が海面をキラキラと照らし出した。
圧倒的だった。
強さという概念の、さらに上。
これが神。これが、アピスの真の姿。
アルスは呆然と、その巨神の背中を見つめていた。




