ー【第4節】正体を知られる恐怖と、守りたい想いの狭間で。アピス、動けずに立ち尽くす
第4節 正体を知られる恐怖と、守りたい想いの狭間で。アピス、動けずに立ち尽くす
アピスは震えていた。
目の前で、大好きなアルス様が傷ついている。
マリモ様が必死に戦っている。
自分のために。
守るべき神殿が汚されようとしている。
このままでは、みんな死んでしまう。
分かっていた。
自分が「力」を使えば、この程度の海魔など一瞬で消し飛ばせることを。
アピスの中に眠る、古代の封印を守護するための絶大な力。それは、ただの看板娘の皮を被った「災害」そのものだ。
けれど、動けなかった。
もし、その力を使ってしまったら?
本当の姿を見せてしまったら?
昨日の夜、アルス様は言ってくれた。
『お前が何者だろうと関係ない』
『飯を食わせてくれた奴は友達だ』
あの言葉は、本当に嬉しかった。救われたと思った。
でも、もし目の前で、おぞましい姿に変貌し、暴虐の限りを尽くす自分を見たら?
あの優しい瞳が、恐怖と嫌悪に染まるかもしれない。
『化け物』
そう呼ばれて、拒絶されるのが怖かった。
せっかく手に入れた、初めての友達。温かい居場所。
それを自らの手で壊してしまうくらいなら、いっそこのまま……。
迷いと恐怖が、アピスの足を縫い止めていた。
その間にも、海魔の触手は無慈悲に振り下ろされようとしていた。
アルスを守るために展開されたマリモの障壁にヒビが入る。
パリン、と音を立てて砕け散る寸前の光景が、スローモーションのようにアピスの目に焼き付いた。
「嫌だ……」
アピスの口から、掠れた声が漏れた。
「嫌だ……死なないで……!」
守りたい。でも、怖い。
相反する二つの感情が、彼女の中で激しく渦巻いていた。
黒い霧は、そんな彼女の葛藤などお構いなしに、神殿ごと全てを飲み込もうとしていた。




