ー【第4節】別れを惜しみつつ、再会を誓う夜。アピスの新たな決意と旅立ちの予感
第4節 別れを惜しみつつ、再会を誓う夜。アピスの新たな決意と旅立ちの予感
ひとしきり泣いて、笑った後。
アピスはどこか吹っ切れたような、清々しい表情をしていた。
手の中のマシュマロを一口齧り、甘さに目を細める。
「……美味しい」
「だろ? 焦げ目がポイントだ」
俺も自分のマシュマロを頬張りながら言った。
波の音が、先ほどよりも優しく聞こえる。
「アルス様。あたし、決めました」
アピスが力強い瞳で俺を見た。
「いつか必ず、この神殿の役目を終わらせて……外の世界に行きます」
それは、彼女にとって途方もない夢かもしれない。古代の封印を解き、自らの呪縛から解放されること。
だが、今の彼女には、その夢を語るだけの強さが宿っていた。
「アッシュバーデンの下水道も、ドワーフさんの工房も、絶対に見に行きます! その時は、案内してくださいね!」
「ああ、約束だ。一番臭い下水道と、一番うるさい工房を案内してやるよ」
「ふふっ、楽しみにしてます!」
アピスは満面の笑みで、小指を差し出した。
俺は再び、その指に自分の指を絡ませた。
指切りげんまん。異世界の、あるいは古代の儀式ではないが、俺たちの間では最強の契約だ。
「待ってるぞ、アピス。……でもまあ、その前にまた俺たちが遊びに来るかもしれないけどな」
「はい! いつでも大歓迎です! その時はまた、とびっきりのご馳走を用意して待ってますから!」
焚き火が燃え尽き、静かな夜が戻ってくる。
だが、そこにはもう孤独な冷たさはなかった。
俺たちの心には、温かな火が灯っていた。
東方限界海域でのバカンスは、ただの休息以上のものを俺たちに与えてくれた。
新たな友と、新たな約束。
そして、アピスにとっても、この夜が新たな運命への第一歩となることを、俺は予感していた。
夜空には、アピス・ブルーに負けないくらい輝く星々が、俺たちの未来を祝福するように瞬いていた。




