ー【第2節】「もし私が世界を滅ぼす怪物だったら?」アピスの問いかけと、張り詰める空気
第2節 「もし私が世界を滅ぼす怪物だったら?」アピスの問いかけと、張り詰める空気
沈黙が流れた。
焚き火の音だけが、やけに大きく響く。
マリモも食べる手を止め、真剣な眼差しでアピスを見つめている。
アピスは涙を拭い、意を決したように俺の目を見て言った。
「……アルス様。もし……もしもですよ?」
彼女の声が震えている。
「もしあたしが、ただの看板娘じゃなくて……世界を滅ぼすような、恐ろしい怪物だったとしても……」
ごくり、と喉が鳴る音が聞こえた気がした。
「それでもアルス様は、あたしと仲良くしてくれますか? それとも……怖がって、逃げちゃいますか?」
それは、彼女がずっと抱えてきたであろう、根源的な恐怖からの問いかけだった。
自分の正体を知られたら、拒絶されるのではないか。
化け物だと恐れられ、討伐されるのではないか。
そんな不安が、彼女の小さな胸を締め付けていたのだ。
アピスの瞳が揺れている。答えを待つ数秒が、永遠のように感じられた。
俺は、手元にあった串を焚き火にかざした。
先端に刺さっているのは、アピスがデザートにと用意してくれた、白くてフワフワしたお菓子――マシュマロだ。
ジュワッ、と甘い香りが広がり、表面がきつね色に焦げていく。
俺はそれを口に運び、熱々の甘さを噛み締めながら、ゆっくりと口を開いた。
「……美味いな、これ」
拍子抜けするような俺の言葉に、アピスがキョトンとした。
「え……?」
「このマシュマロ、最高だよ。焼き加減も完璧だ」
俺はニッと笑って、もう一本のマシュマロをアピスに差し出した。
「アピス。俺は錬金術師だ。物の本質を見抜くのが仕事だ」
俺は真直ぐに彼女の瞳を見つめ返した。
「お前が何者だろうと、世界を滅ぼす力を持っていようと、関係ない」
俺は言い切った。
「お前は俺たちに、美味い飯を食わせてくれた。ふかふかのベッドを用意してくれた。一緒に海で遊んで、笑い合った」
マシュマロを受け取ろうとしない彼女の手に、俺は無理やりそれを握らせた。
「飯を食わせてくれた奴は、友達だ。それが俺のルールだ」
シンプルすぎる理屈。
だが、それが俺の偽らざる本心だった。
王都での宮廷魔術師時代、俺は「役に立つかどうか」だけで評価され、利用されてきた。
だからこそ分かる。
目の前にいる相手が、どれだけ純粋で、温かい心を持っているかを。
「世界を滅ぼす? 上等じゃないか。もしそうなったら、俺が止めてやるよ。友達としてな」
俺は悪戯っぽくウインクしてみせた。




