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魔王様のお嫁様  作者: 紫月 京


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59.お披露目へ向けて


玉座の間から真っ直ぐに最上階へ駆け上がった魔王様が、勢いよく私室の扉を開けた。

頭に布を被ってせっせと掃除の最中だったらしいミサキ様が、目を丸くして動きを止める。ソファでは、ミサキ様を見守っていたのかジフジ様がゆったりと紅茶を飲んでいた。

ずんずんと部屋の中を進み、箒を手にしたままのミサキ様を魔王様がぎゅっと抱きしめた。

「えっ、えっ?どうしたの?」

魔王様の腕の中で真っ赤になったミサキ様を僕たちから隠すように、魔王様が大きな体に最愛の方を閉じ込めている。

肩越しに振り返った魔王様を見て、ジフジ様が苦笑して立ち上がった。

「リカル。あたしらはお邪魔らしい。お暇しようか」

「えっ、ジフジちゃん?この後一緒にお料理しましょうって……」

「あんた、陛下のその顔見ても、同じこと言えるのかい?」

呆れたようなジフジ様の言葉に、ミサキ様がようやく魔王様の様子に気づいたようだ。

腕の中から、魔王様の顔を見上げたらしい。僕たちのところからはよく見えないけど、魔王様が小さく呻いてミサキ様の唇を塞いだ気配がした。

「……っん、んんっ……」

カランと音を立てて箒が床に落ちたけど、あれを今拾いに行くのはやめておこう。

肩を竦めたジフジ様の後を追って私室を出る。


きっちりと扉を閉めてから、廊下をゆっくりと歩くジフジ様の後を追う。

「終わったのかい?」

「はい。有翼族は翼を折られ、人族の国に奴隷として送られることになりました」

階段に向かって歩きながら告げる僕に、ジフジ様がぷっと吹き出した。

「そりゃあ、ミサキの言ったような、死ぬより辛い罰だろうねぇ」

「それに、二度と会うこともないと思います」

満足げに頷いて、ジフジ様が階段を降り始めた。

「一安心かい?」

「そうですね。あとは総務官長様が財務官長様と話し合われて、妃殿下のお披露目について決定していくことになるでしょう」

「ミサキは恥ずかしがりそうだねぇ」

頬を染めて動揺するミサキ様の姿が想像できて、僕も笑ってしまいそうになった。

「ですが、お勤めと割り切れば、妃殿下は案外きっちり熟されそうな気が致します」

くすくす笑うジフジ様に、愛おしげな声が掛かった。

「ジフジ、妃殿下はどうした?」

階段の下に、カイダル様の姿があった。

「陛下が飛び込んできたよ。断罪の仕事が終わって安心したんだろうさ」

「まだ終わったわけじゃないんだが……」

頭を掻くカイダル様に抱きついて、ジフジ様が頬に口づけされた。

「後は細かい残務だろ?あんたたちに丸投げして、ミサキと籠るつもりだろうさ」

諦めたように息を吐いて、カイダル様がジフジ様の後頭部に手を回して唇を重ねる。いや、ここは使用人たちも通る廊下なんですけど……。

「俺も、今日の仕事は終わった。屋敷に戻るか?」

「そうだね。まだ日は高いけど、夫婦が愛し合うのに時間なんて関係ないさ」

「どうせ今日は、シュヴァンダルたちも出て来ないだろう」

カイダル様が差し出した腕に手を添えて、ジフジ様がお二人が住む城外の屋敷に向かって歩き出した。

その背中を頭を下げて見送ってから、僕はさらに階段を降りた。


扉を三回叩く。中からの返事を待って扉を開けた。

大きな執務机に積まれた書類の山に埋もれて、アイルーン様の頭頂部が覗いている。

「リカルどの、陛下はどうなされた?」

ペンを走らせる手を止めずに、アイルーン様が尋ねた。

「妃殿下と籠られました」

「罪人を裁き、脅威が去ったことに安心なさったか。お披露目まではまだ時がある。今だけは、執務を放って睦み合っておられることに目を瞑ろう」

アイルーン様の侍従が、サイン済の書類をせっせと仕分けている。

「お披露目は、いつ頃になりますか?」

「財務官長とも協議せねばならんが、遅くとも来月の終わりには開催したい」

「急がれるのですね。何か理由がございますか?」

アイルーン様がようやく顔を上げた。

「陛下は妃殿下を大事に想われているが、まだそれを信じぬ者も多い。歴代最長の蜜月を過ごされ、お二人が愛し合われていることを広く知らしめねばならない。

 第二、第三の有翼族を出すわけにはいかぬ」

その言葉に背筋が伸びた。

そうだ、脅威が有翼族だけとは限らないんだ。

「妃殿下の装束から宝飾品、お身の回りの支度はリカルどのの采配にお任せする。我ら事務方は、予算と来賓の招待、他国からどの程度招くかなど話し合わねばならぬから」

「承知致しました」

アイルーン様から必要な書類を受け取り退出した。

やるべき仕事は、まだまだ山積みだった。



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