58.人族の国で生きろ
これ以上ないほど顔を白くさせて、がくがくと震えだした有翼族の者たちが、泣き喚いて許しを請い始めた。
王妃殿下に暴行を加えるつもりなどなかった。
サヴィーナ親子に従っただけだ。
主家に逆らえば自分たちが無事では済まない。
ハミリアお嬢様が王妃になられたら、すべて上手くいくはずだった。
どいつもこいつも、好き勝手なことを言っている。サヴィーナ老が言ったばかりだろう。主が誤ったなら、諌めるのも臣下の務めだと。
カイダル様とアイルーン様も同じことを感じたのか、呆れたように眉を寄せている。
「人族の奴隷っ!?何をおっしゃってますのっ!」
まだわかっていないのか、いや理解したくないのか、ハミリア・サヴィーナが一際大きく叫んだ。
「魔王陛下っ!どういうことですのっ!」
「言葉通りだが?
お前たちは、俺の城を襲撃し、俺の王妃を攫って口にするのも悍ましい所業を行った。城を襲うなど、国そのものを襲うに等しい。
その罪に対する罰として、翼を折って人族の国で奴隷として生きていくがいい」
有翼族にとって、美しさの象徴であり魔力の源でもある翼を折られるということは、死ぬよりも辛い罰になるはずだ。ミサキ様が仰せだった願い通りに。
「人族の国では、お前のような容姿は好まれるそうだぞ?よかったなぁ?翼などなくとも、向こうで男たちに存分に可愛がってもらえるだろう。お前が見下し、蔑み続けた人族に囲われて生きるがいい」
「な……っ」
屈辱だったのか、顔を真っ赤にさせてハミリア・サヴィーナの体が震えだした。
「この先、翼の大きさなど気にしなくともよい暮らしを送れるぞ。罪に対して、慈悲深いことだと思わんか?」
それきり令嬢には興味をなくしたのか、魔王様の視線がサヴィーナ老に向けられる。
「ゼガンダ・サヴィーナには、娘とは別の場所で労働奴隷として生きることを命じる」
「奴隷ですとっ?この、儂が……」
「あぁ、別の場所といっても、セレスリーアに留まることは許さん。娘と同じく人族の国で、人族にこき使われながら生涯を閉じるがいい」
魔王様に言い渡された罰は、有翼族の長として絶大な権力を振るい、セレスリーアの重鎮として傅かれて生きてきたサヴィーナ老には何よりも辛い内容だった。
白目をむきそうなほど見開いた目を、魔王様から逸らせずにいる。
「儂が、奴隷……だが、それでは、有翼族は……」
震える声で紡がれた言葉にも、魔王様が面白くなさそうに答えた。
「城を襲撃した者たちはすでに処刑した。王妃に直接暴行を加えた者は、俺が制裁する。そして、さきの謀反で恩赦を受けた有翼族は今回こそ連座とし、すべての者の翼を折って奴隷とする。幼子であろうとも、例外はなしだ」
その場で聞いていた者すべてが、あまりの刑の重さに震え上がった。けれど、生まれたてだからと慈悲をかければ、禍根が残る。たとえセレスリーアの主力が削がれることになっても、魔王様は処罰すると決意された。
ここで甘い顔を見せれば舐められる、とニヤリと笑っていた。
罰を告げ終えた魔王様がアイルーン様に目配せした。
頷いて、アイルーン様が一歩前に出る。
「ただいま魔王陛下より言い渡された通り、有翼族はすべて、その翼を折り奴隷として人族の国、エバー王国へと送ります。労働奴隷にする者と性奴隷にする者の選別は終えておりますので、係の者に従って速やかに刑の執行を受けるように。
本日はこれで解散となります。重臣の方々、ご苦労様でした」
淡々と、まるで書類整理でもするような温度で告げるアイルーン様に、有翼族の者たちが絶望に顔を染めてその場で膝から崩れ落ちた。
それを見届けて、魔王様が立ち上がる。
「アイルーン、後は任せたぞ。俺は王妃の元へ戻る」
「御意」
「陛下っ!陛下ぁ!!何かの間違いですわっ!わたくしがっ、わたくしが奴隷だなどとっ!そんなはず……むぐっ」
聞き苦しい言葉に耐えきれなかったのか、護送役の武官が傲慢娘の口に丸めた布切れを突っ込んだ。
あの声を二度と聞くことはないと思うと、清々しい気分でいっぱいだ。
魔王様の後に続いて、晴れやかな気持ちで玉座の間を出た。




