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魔王様のお嫁様  作者: 紫月 京


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57.翼をもぐ


拘束された有翼族の主だった者たちが、玉座の間に引っ立てられてくる。

居並ぶ重臣たちがどよめくほど薄汚れ、威厳も名誉も地に落ちたその姿に魔王様の口角が上がった。

玉座にどっしりと座り、肘掛けに置いた手で頬杖をついているその姿は、怒り狂っている姿よりも数倍、重臣たちを怯えさせている。

先導する武官が玉座から二十歩ほど手前で立ち止まり、魔王様に向かって拝礼した。

「偉大なるセレスリーアの魔王陛下。此度、謀反を企てた罪人どもを、連行致しました」

「ご苦労」

短く答える魔王様の声に被せるように、悲痛な叫び声が玉座の間に響いた。

「何が謀反かっ!くだらん言いがかりで、儂らにこのような扱いをするなど、陛下もどうかしておられますぞ!」

ざわり、と場の空気が揺れた。魔王様に向けての暴言など、命が惜しくないと言っているようなものだ。

「方々も、よく考えられよ!儂は先々代が起こした謀反の責を負って処された主家の後を継いで、これまで一族を守り、魔王陛下に忠誠を誓って参った。それを、些細な行き違いでこのような扱いをなさるなど。

 主君が誤ったなら、諌めるのも臣下の務めであろうがっ!」

そもそも発言を許可されてもいないのに、よく喋る。

呆れて見つめていると、今度は甲高い、不愉快な声が僕の耳に聞こえてきた。

「お父様のおっしゃる通りですわっ!何故、わたくしどもがこんな扱いを受けていますの!?」

拘束された者たちの最後尾で、汚れて裂けたドレスを身に纏った傲慢娘が喚いていた。あれは、ジフジ様の制裁を受けた時に破れたんだろうな。

傷は治癒されても、着替えを用意してやるほどジフジ様は甘くはなかったということだ。

「静粛にされよ、サヴィーナ老、ご息女。この場に連れて来られたのは、貴方がたの言い訳を聞くためではない。陛下の許可もなく、好き勝手なことを口走らないでいただきたい」

玉座のすぐ傍に控えていたアイルーン様が、厳しい表情のままで告げた。それにまた、サヴィーナ老が眦を吊り上げる。

「総務官長どの。言い訳とは何だ。儂は真実を……」

ガンッ、と大きな音が響いてサヴィーナ老が口を噤んだ。

アイルーン様とは反対側に立っていたカイダル様が、天井を支える太い柱を殴りつけた音だった。お怒りはわかりますが、壊さないでくださいね……。

カイダル様の剣幕に目を剥いていたサヴィーナ老が、眉間に皺を寄せて玉座に視線を向けた。

「陛下。その野蛮な者を下がらせてもらえませんかな。我らの話を聞いてくださるおつもりなら、血の気の多い乱暴者などこの場には必要ない」

それまで黙って有翼族をじっと見つめていた魔王様が、初めて表情を動かした。

「お前の話を聞く?俺がか。何故だ?」

心底不思議そうに問われて、サヴィーナ老が言葉に詰まる。

「何故とは……」

「そんなことより、お父様ぁ!わたくしは、いつまで待てば陛下の王妃になれますのぉ!?」

魔王様とサヴィーナ老のやり取りを顔を青くして見ていた重臣たちが、ぎょっとしたように目を見開いた。

「お父様がおっしゃったんでしょぉ?生意気な人族の娘など、さっさと始末してしまえばぁ、わたくしが間違いなく王妃になれるってぇ」

あぁ、魔王様の周囲の温度が下がっていくようだ。玉座の近くにいる者から、寒そうに腕をさすりだした。

それに気づかない傲慢娘は、ある意味幸せなのかもしれない。ミサキ様への罪もあっさり自白したようなものだしな。並んで拘束されている取り巻き娘どもは、自分たちの立場がまずいことを理解しているのか青くなって震えているけど。

あぁ、魔王様の閨事についての秘密を漏らしたメイドの姿も縛られているのが見えるな。

「まぁ、待て。ハミリアよ。まずはこの理不尽な拘束を解かせねばならぬ。可愛いお前の望みならば、陛下とて無下にはなさるまいよ」

「だってぇ、お父様ぁ。わたくし、もう我慢できないですわぁ。あんな下賤な者がぁ、陛下のお傍にいつまでものさばっているなんてぇ」

ぱんっと魔王様が両手を打ち鳴らした。言い合っていたサヴィーナ親子の視線が、玉座に向けられる。

「新たな情報でも出るのかと思って待っていたが、これ以上聞く必要はなさそうだ」

魔王様の言葉に何を勘違いしたのか、ハミリア・サヴィーナが瞳を輝かせた。どうしてそうなるんだろう。

「陛下ぁ。ようやくわたくしを、王妃にしてくださるのですねぇ」

にっこりと笑顔を浮かべた令嬢を厭わしそうに睨み、魔王様が口を開いた。

「寝言は寝て言え。

 お前たちへの刑を言い渡す。魔王城への襲撃という重大事件を起こした有翼族は、その誇りの源である翼を折り、見下し続けた人族の国へ奴隷として下げ渡す」

一瞬の静寂の後、悲鳴と怒号が玉座の間に響き渡った。



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