死ぬのは当然である
部屋の空気が、まるで重い布のように垂れ込めていた。
少女たちの視線が、ゆっくりと、しかし確実に、左のベッドへと集まる。
右のベッドのおばあちゃんが、突然、タガの外れたように口火を切った。
声は、皺だらけの顔から溢れ出すように、抑えきれずに響く。
「本当にあの爺さんはさぁ!? 酒ばっかり飲んで、仕事もしないし、博打でアタシが稼いだ金を勝手に使うし、あんなロクデナシはいなかったよ! アタシは死んでせいせいしたね!」
言葉が、矢のように部屋を貫く。
狼は、毛布の下で息を殺す。
もういい。
もういいよ。
右のおばあちゃん、もういい。
緑ずきんちゃんたちのリアクションを見ようよ。
空気を読もうよ。
村の雰囲気を、こんなに悪くするの、やめようよ……?
だが、彼女は止まらない。
まるで長年溜め込んだ毒を、一気に吐き出すように。
「それに、アタシが一番、腹立ってるのは、アタシがお母さんを産んだ時の話! アタシ、初めての出産だったんだよ!? でも、あの爺さん、酒飲んで、寝てて、アタシの出産に立ち会わなかったんだよ!? アタシがどんだけ、不安な思いで、お母さん産んだかわかる!? アタシはアレ、一生許さないよ!?」
狼の胸の奥で、何かが静かに、諦めのように崩れ落ちる。
わかりました。
出産に立ち会わないと、こういう風に一生恨まれるんだね……。
僕も、もし結婚したら、気をつけます……。
でも、孫たちの前で、そんな話を。
村の雰囲気を、こんなに壊すのは、ダメだって。
少女たちの視線が、右のおばあちゃんから、ゆっくりと離れる。
そして、再び、こちらへ。
赤ずきんの声が、柔らかく、しかし決定的に響く。
「あはは、右のベッドのおばあちゃん、わかったよ。それじゃあ、そろそろ決めようか?」
ずきんちゃんたちが、顔を見合わせる。
三人の瞳が、静かに、しかし確実に、合意する。
そして、声を揃えて。
「せぇ〜の! 偽物のおばあちゃんは、左のベッドのおばあちゃんだと思います!」
はい……そうです……。
うん……そうです……。
僕が偽物のおばあちゃんです。
僕が、人狼です。
こんな、おばあちゃんになりきって騙す事なんて、僕、出来ない。
僕は牙を隠し、耳を伏せ、毛布の下で震えるだけの、惨めな獣でしかない。
少女たちの声が、部屋に優しく、残酷に満ちていく。
狼の心臓は、ただの人間のそれのように、静かに、弱々しく、鳴り続けていた。




