全てが終わって
部屋の空気が、ようやく静かに息をついた。
少女たちの声が、優しく、しかし決定的に響き渡る。
それぞれの瞳に、達成感のようなものが浮かんでいる。
狼は、毛布の下で、ただ息を潜め、聴くことしかできない。
もう、牙を剥く力も、耳を伏せる気力も、残っていない。
緑ずきんが、嬉しそうに声を上げる。
「私はおじいちゃんに対する思いが決め手かな!?」
うん、そうだね……。
その通りだね……。
まさか、おじいちゃんがそんな人だとは思わなかった。
狼の胸の奥で、静かに、諦めの波が広がる。
右のおばあちゃんの本音が、こんなにも鮮やかに、すべてを暴いてしまった。
獣の仮面を、剥ぎ取ってしまった。
青ずきんが、穏やかに、しかし鋭く続ける。
「私は名前の呼び方かな? 『お前』って呼んでたのが決め手になった。」
あぁ、そこは本当そう……。
この子は細かい部分を見てるよなぁ……。
センスがあると思う。
これは、僕の完敗ですよ。
『お前』という一言が、こんなにも重く、こんなにも致命的に響くなんて。
親しみのない、ただの獲物に対する呼び方。
それが、すべてを決めてしまった。
赤ずきんが、最後に、柔らかく微笑むように声を上げる。
「私は耳の大きさ! おばあちゃんの耳は大きくなかった気がする! そこが決め手!」
あの〜、それに関しては、僕納得してないよ!?
耳の大きさで判断するのは、ズルくない!?
それは議論じゃないじゃん。
ここに関しては、もっと緑ずきんちゃんや、青ずきんちゃんみたいな理由を出して欲しかったなぁと思うなぁ……。
狼の心の中で、最後の小さな抵抗が、ぱちんと音を立てて消える。
耳の大きさ。
そんな単純で、純粋で、残酷な理由。
それで、すべてが決まるなんて。
滑稽だ。
あまりにも、滑稽すぎる。
今回の人狼ゲームは、狼陣営の敗北に終わった。
そして、このゲームのMVPはおばあちゃんだ。
人狼ゲームとは、疑い合う疑心暗鬼のゲームではなく、本音を語って信じてもらうゲームでもあるのだ。
部屋の隅で、少女たちの笑い声が、優しく響く。
狼は、毛布の下で、静かに目を閉じる。
もう、飛びかかることも、食らうことも、できない。
ただ、惨めな獣として、そこに横たわるだけ。
自分の知ってる童話って、こんなのではなかったはずだと、疑問が浮かぶが、もうそんな事はどうでもいいよ。




