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かつて人を見捨てた死者
雪の散るソコで、彼女は焔を待っていました。
花弁の舞うソコで、彼女は光を待っていました。
ずっと、ずうっと、待っていました。
具体的な何を待っていたのか分かりません。
ただ、待っていたのです。
自分を自分と認めてくれるなにかを。
誰もいなかったので、ずっと。
自分の真価を知らずに、ずうっと。
元はどこかの誰かだったのですが、どこの誰かだったのかも忘れてしまいました。
この場所にいるのは、彼女以外いません。
何も無い場所だったので、彼女はなにも分かりません。
何も無い場所だったので、彼女はなにも知り得ません。
でも、どうしよう。
私は何かを為さなければならないのに。
何かを助けなくてはならないのに。
何かを――大切な何かを。
ワスレテシマッタ
ずっと、ずうっと、彼女は待ち続けます。
誰かが、ソコに至る日を。
誰かが、その手を差し伸べてくれる日を。
汚泥だらけのその彼女は、罪を背負っていることも知れず、ずっと待っています。
そして、ソコに現れたのは、畏れを知らぬ哀れな鏡の魔王でした……。




