ミリアルズの初恋
その昔、彼女はとても美しい魔王でした。
災厄の魔王と呼ばれるほどの力を持つ者でした。
美しき魔王は、自由気ままに災厄を振りまいて、幸福の幻を創りだし、自由気ままに遊びます。
さて、彼女の名前は何と言うのでしょう。
ハルファレイズ・ミリアルズ・ミナカトール
美しき魔王は最悪な事にハルファレイズ・ミナカトールの末。
最も恐ろしきあの原初の魔王の末娘なのです。
魔界ではその名と力ゆえに跪かれ、他の神の使い達からは警戒をされ、彼女は退屈をしていました。
どうしても、ハルファレイズ・ミナカトールの名前は無駄に大きすぎるのです。
彼女はふとしたことから、人間達の前に姿を現す機会がありました。
その時、彼女ははたと気づきました。
人間達の間ならば、自分はただのミリアルズになれる。
人間達はミリアルズの事を誰も知らないのです。そもそも、魔王と言う存在を誤解すらしている。
そして、彼女が人に扮すれば、魔王とばれる事も無い。
やがて、ミリアルズは人々の中に潜んだそうです。
とある旅人達と共に世界を廻ったとか。
そして、彼女は運命のヒトと出逢ってしまうのでした。
これはやがて訪れる、永遠を求める魔王と、鏡の巫子のなりそこない、偽物の聖女の物語の前日譚。
彼女は、掟を破った。
黒い髪に空色の瞳の少女は少しだけ頬を赤く染めて言紡ぐ。
「おじいさまっ、お願いがあるの」
それは、決して誰にも知られてはならない願いだった。
「ミリアルズ……突然戻ってきたら、開口一番にそれ? オレにいろいろと言わないといけないことがあるんじゃないの?」
原初の魔王と呼ばれた彼にしか、告げられない秘密。
「もう、ヴィオルールおじいさまったら。いいじゃない、ちょっと人間達に混じって遊んでいるだけでしょ。それに、魔王たちに迷惑もかけてないわ」
おてんばな少女の最後のわがまま。
「そういう問題じゃないだろ。……それで、なんなんだ?」
末の娘に甘いヴィオルールを、ミリアルズは嬉しそうに微笑む。
「なんだかんだ言いながら甘いおじいさま、好きよ」
身内の事になると甘すぎる彼は、その時のことを何度も後悔する事になる。
「はいはい。ほら、さっさといいなさい」
ミリアルズは、掟を破った。
「あのね、おじいさま……私ね、好きなヒトと出逢えたの。それでね、そのヒトの子どもが欲しいの」
その後、ミリアルズは行方をくらまし、遥か遠くの異世界で朽ち果てることとなる。




