第2話 あとがき
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002 難破した水夫 ― あとがき
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香を運ばせます、と誓った男を、蛇は笑いました。
どの神も喜ぶはずの香でございます。蛇は、没薬はわたしのものだと言い、おまえの言うヘケヌはこの島にこそ多い、と言い返しました。
別れのときに蛇が、自分の受け取る分として挙げたのは一つだけ。『わたしの名を良いものにせよ』
「この話で、わたしの耳がいつも待っているのは『抱く』です。島に上がった人は三日のあいだ、影を抱いて眠りました。その人に蛇は、子らを腕いっぱいに抱く、と言います。別れぎわにも、もう一度。自分の子らは星の火に焼かれたあとですのに」
影を抱く、の『抱く』。子らを抱く、の『抱く』。巻物では同じ一語でございます。
同じ一語で書かれた所はほかにもありました。はじめの行で従者に付く『利口』。終わりに長官が投げ返す『利口ぶるな』。それを写し終えた書記は、二行あとに、自分の指を『利口』と書いております。
長官のたとえは、どう読むのか今も定まりません。『朝には屠られるがちょうに、夜明けに水をやる者がどこにいる』
わたくしは退けたのだと読みます。従者の長い話は、朝には屠られる鳥にやる水。巻物は従者の返事を一行も書かず、すぐ書記の名へ移るのです。
「退けた、ではなくて、受け取れなかった、でしょう。『友よ』と呼んでいますもの。水をもらったことは、長官にも分かっていたのだと思います」
『利口ぶるな』と、『友よ』。二つの語は巻物では隣り合っております。前の語で目が止まるのがわたくしで、後ろの語を聞いているのが妻。どちらも、まだそこから動いておりません。
蛇はプントを治める者だとも名のっております。没薬の国です。そのプントへ、この巻物から何百年も後に、ある女王が本物の船団を送ります。
そのお話は、いずれまた。




