第1話 あとがき
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001 イナンナの冥界下り ― あとがき
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墨を引いたのは、目でございました。
七つの門は、女神の品を一つずつ取ってゆきます。四つ目の門で取られるのが胸飾り。こちらの名は『男よ来い、来い』で、板の字では呼びつける形です。墨の名は願う形。その墨を取る門は、手もとのどの板にもございません。
そして、墨を引いたその目が、林檎の木の所で夫ドゥムジを見ます。『それは死の目だった』。
板の字のことをもう一つだけ申します。墨の名の『男』と、終わり近くで女神が探す『わたしの人』は、同じ語でございます。女神の口から出るときに、少し形が変わるだけです。墨の名は願いを二度。嘆きは『わたしの人はどこ』を二度。こちらは板が傷み、学者たちが戻した字でございます。歌のはじめと終わりに、一つの語が二度ずつ並んでいる。
それをわたくしは『男』と『人』に書き分けました。今の言葉では、一つにそろえられなかったのです。
「字がそろわなくても聞こえています。わたしの耳に残っているのは、その嘆きで女神が呼びかける相手です。夫の腕に寝る妻たち。父の腕に寝る子ら。女神が『どこ』とたずねる相手は、その人たちなのです」
わたくしの目が止まるのも、その二行でございます。妻たちよ、の行と、子らよ、の行。板の上に同じ形で並んでおります。
分からないのは涙のわけです。夫を魔物の手に渡したのは女神その人でした。それなのに、夫のために苦い涙を流し、髪を引き抜いて探す。
涙の行の前と後で、板は四行ずつ欠けております。読めるのは切れはしばかりで、その一つが『彼女の心は』。心がどう動いたのか、欠けた所に書いてあったのだと、わたくしは考えております。
「書いてあったのは、わけではなくて、涙の続きだったと思います。渡したのも、泣いたのも、同じ人です。わたしはそれで足ります」
妻は足りると言い、わたくしは欠けた八行を、まだ惜しんでおります。
牧人ドゥムジのために泣く人々は、ずっと後の世の、遠い町にもおりました。
そのお話は、いずれまた。




