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第1話 イナンナの冥界下り

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001 イナンナの冥界下り ― 本文

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【原典】 メソポタミア(シュメール)/紀元前 1900〜1600 年頃の粘土板


    * * *


 大いなる天から、彼女は大いなる下へ耳を向けた。

 大いなる天から、女神は大いなる下へ耳を向けた。

 大いなる天から、イナンナは大いなる下へ耳を向けた。


 わが女主人は天を捨て、地を捨てて、冥界へ下った。

 イナンナは天を捨て、地を捨てて、冥界へ下った。


 祭司の位を捨て、神官の位を捨てて、冥界へ下った。

 ウルクの神殿エアンナを捨てて、冥界へ下った。

 バドティビラの神殿を捨てて。

 ザバラムの神殿を捨てて。

 アダブの神殿を捨てて。

 ニップルの神殿を捨てて。

 キシュの神殿を捨てて。

 アッカドの神殿を捨てて、冥界へ下った。


    * * *


 神の力、七つのメを、彼女は取った。

 メを集めて、その手に握った。

 よいメをたずさえて、歩きだした。


 頭には、野を行くときのかぶりものを載せた。

 額には、かつらを着けた。

 首には、青い瑠璃の小さな玉を掛けた。

 胸には、対になった卵形の玉を飾った。

 体は、女主人の衣で覆った。

 目には、『男が来ますように、来ますように』という名の墨を引いた。

 胸には、『男よ来い、来い』という名の胸飾りを掛けた。

 手には、金の輪をはめた。

 その手に、瑠璃の測り竿(はかりざお)と測り縄を握った。


    * * *


 イナンナは冥界へ向かって歩いた。

 従者ニンシュブルがその後ろを歩いた。


 聖なるイナンナはニンシュブルに言った。


「来なさい、エアンナの、わたしのまことの従者。よい言葉を語る、わたしの従者。たしかな言葉を語る、わたしの供」


「今日、わたしは冥界へ下ります。わたしが冥界に着いたら、廃墟(はいきょ)の丘で、わたしのために嘆きの声をあげなさい。

 聖所で、わたしのために太鼓を打ちなさい。

 神々の家を、わたしのために巡りなさい。

 わたしのために目をかきむしり、鼻をかきむしりなさい。

 人目のない所で、わたしのために尻をかきむしりなさい。

 貧しい者のように、衣一枚だけをまといなさい。

 そしてひとりで、エンリルの家へ足を向けなさい」


「エンリルの家に入ったら、エンリルの前で嘆いて、こう言いなさい。

『父エンリルよ、あなたの娘を、冥界で誰にも殺させないでください。

 あなたの尊い銀を、冥界の塵(ちり)にまぜさせないでください。

 あなたの尊い瑠璃を、石工の石と一緒に割らせないでください。

 あなたのつげの木を、大工の木と一緒に刻ませないでください。

 乙女イナンナを、冥界で殺させないでください』」


「エンリルがこのことで力を貸してくれなければ、ウルへ行きなさい。ウルのナンナの家に入ったら、ナンナの前で嘆いて、『父ナンナよ』と、同じ言葉を言いなさい」


「ナンナも力を貸してくれなければ、エリドゥへ行きなさい。エリドゥのエンキの家に入ったら、エンキの前で嘆いて、『父エンキよ』と、同じ言葉を言いなさい」


「大いなる知恵の持ち主、父エンキは、命の草を知り、命の水を知っています。わたしを生き返らせてくれるのは、あの方です」


 イナンナは冥界へ向かって歩き、従者ニンシュブルはその後ろを歩いた。


 イナンナは従者ニンシュブルに言った。


「もう行きなさい、わたしのニンシュブル。心して。わたしの言いつけを、おろそかにしないで」


    * * *


 冥界の宮殿に着くと、イナンナは冥界の扉を荒々しく押した。

 冥界の門で、荒々しく叫んだ。


「開けなさい、門番、開けなさい。開けなさい、門番の長、開けなさい。わたしはひとり、中へ入りたい」


 冥界の門番の長は聖なるイナンナに答えた。


「おまえは何者か」


「わたしはイナンナ。日の昇るほうへ行く者」


「日の昇るほうへ行くイナンナなら、なぜ帰る者のない国へ来た。行く者の戻らぬ道へ、どうして心を向けた」


 聖なるイナンナは門番の長に答えた。


「わたしの姉、聖なるエレシュキガルの夫、天の雄牛と呼ばれる方が亡くなりました。その弔いを見届けるために。姉は弔いの席で、酒をたっぷりと注ぎます。そういうことです」


 冥界の門番の長は聖なるイナンナに答えた。


「ここにいろ、イナンナ。わが女主人に申し上げる。わが女主人エレシュキガルに申し上げる。……を申し上げる」


 冥界の門番の長は女主人エレシュキガルの家に入って言った。


「わが女主人よ、娘がひとり来ております。イナンナです。……。冥界の扉を荒々しく押しました。冥界の門で、荒々しく叫びました。エアンナを捨てて、冥界へ下ってきました」


「七つのメを取り、集めて手に握り、よいメをたずさえて来ております。

 頭に、野を行くときのかぶりもの。

 額に、かつら。

 首に、青い瑠璃の小さな玉。

 胸に、対になった卵形の玉。

 体に、女主人の衣。

 目に、『男が来ますように』という名の墨。

 胸に、『男よ来い、来い』という名の胸飾り。

 手に、金の輪。

 その手に、瑠璃の測り竿と測り縄を握っております」


 これを聞くと、エレシュキガルは腿(もも)のわきを打った。

 唇を噛(か)み、その言葉を胸におさめた。


 門番の長に言った。


「来い、わが冥界の門番の長。わたしの言うことを、おろそかにするな。冥界の七つの門に、残らずかんぬきを掛けよ。それから冥界の宮殿の扉を、一つずつ開けよ。あれが入って、身をかがめ、衣を剥がれたなら、その衣は運び去られる」


 冥界の門番の長は女主人の言葉に従った。

 冥界の七つの門に、残らずかんぬきを掛けた。それから冥界の宮殿の扉を、一つずつ開けた。


 聖なるイナンナに言った。


「さあ、イナンナ、入れ」


    * * *


 イナンナが入ると、頭から、野を行くときのかぶりものが取り去られた。


「これは何」


「それでよしとせよ、イナンナ。冥界のメは果たされた。イナンナ、冥界の掟に口を開いてはならない」


 二つ目の門を入ると、首から、青い瑠璃の小さな玉が取り去られた。


「これは何」


「それでよしとせよ、イナンナ。冥界のメは果たされた。イナンナ、冥界の掟に口を開いてはならない」


 三つ目の門を入ると、胸から、対になった卵形の玉が取り去られた。


「これは何」


「それでよしとせよ、イナンナ。冥界のメは果たされた。イナンナ、冥界の掟に口を開いてはならない」


 四つ目の門を入ると、胸から、『男よ来い、来い』の胸飾りが取り去られた。


「これは何」


「それでよしとせよ、イナンナ。冥界のメは果たされた。イナンナ、冥界の掟に口を開いてはならない」


 五つ目の門を入ると、手から、金の輪が取り去られた。


「これは何」


「それでよしとせよ、イナンナ。冥界のメは果たされた。イナンナ、冥界の掟に口を開いてはならない」


 六つ目の門を入ると、手から、瑠璃の測り竿と測り縄が取り去られた。


「これは何」


「それでよしとせよ、イナンナ。冥界のメは果たされた。イナンナ、冥界の掟に口を開いてはならない」


 七つ目の門を入ると、体から、女主人の衣が取り去られた。


「これは何」


「それでよしとせよ、イナンナ。冥界のメは果たされた。イナンナ、冥界の掟に口を開いてはならない」


    * * *


 身をかがめ、衣を剥がれると、その衣は運び去られた。


 イナンナは姉エレシュキガルを玉座から立たせた。

 そして自分が、その玉座に座った。


 七人の裁き手が彼女に裁きを下した。


 彼女を見た。それは死の目だった。

 彼女に語った。それは怒りの言葉だった。

 彼女に叫んだ。それは重い罪の叫びだった。


 女は病み、屍(しかばね)に変えられた。


 屍は、鉤(かぎ)に掛けられた。


    * * *


 三日三晩が過ぎた。


 従者ニンシュブルは女主人の言いつけを果たした。

 廃墟の丘で、女主人のために嘆きの声をあげた。

 聖所で、女主人のために太鼓を打った。

 神々の家を、女主人のために巡った。

 女主人のために目をかきむしり、鼻をかきむしった。

 人目のない所で、女主人のために尻をかきむしった。

 貧しい者のように、衣一枚だけをまとった。

 そしてひとりで、エンリルの家へ足を向けた。


 エンリルの家に入ると、エンリルの前で泣いた。


「父エンリルよ、あなたの娘を、冥界で誰にも殺させないでください。

 あなたの尊い銀を、冥界の塵にまぜさせないでください。

 あなたの尊い瑠璃を、石工の石と一緒に割らせないでください。

 あなたのつげの木を、大工の木と一緒に刻ませないでください。

 乙女イナンナを、冥界で殺させないでください」


 父エンリルは怒って、ニンシュブルに答えた。


「わが娘は大いなる天を欲しがり、大いなる下をも欲しがった。

 イナンナは大いなる天を欲しがり、大いなる下をも欲しがった。

 冥界のメは、欲しがってはならないメ。手にした者は、……にとどまらねばならぬ。

 あそこへ行き着いて、誰が……を望めるものか」


 父エンリルはこのことで力を貸さなかった。ニンシュブルはウルへ行った。


 ウルのナンナの家に入ると、ナンナの前で泣いて訴えた。


「父ナンナよ、あなたの娘を、冥界で誰にも殺させないでください」


 銀のことも、瑠璃のことも、つげの木のことも、同じ言葉で訴えた。


「乙女イナンナを、冥界で殺させないでください」


 父ナンナは怒って、ニンシュブルに答えた。エンリルと同じ言葉だった。


「わが娘は大いなる天を欲しがり、大いなる下をも欲しがった」


 そして、同じ言葉で結んだ。


「あそこへ行き着いて、誰が……を望めるものか」


 父ナンナもこのことで力を貸さなかった。ニンシュブルはエリドゥへ行った。


 エリドゥのエンキの家に入ると、エンキの前で泣いた。


「父エンキよ、あなたの娘を、冥界で誰にも殺させないでください。

 あなたの尊い銀を、冥界の塵にまぜさせないでください。

 あなたの尊い瑠璃を、石工の石と一緒に割らせないでください。

 あなたのつげの木を、大工の木と一緒に刻ませないでください。

 乙女イナンナを、冥界で殺させないでください」


 父エンキはニンシュブルに答えた。


「わが娘は何をしたのだ。心配でならん。

 イナンナは何をしたのだ。心配でならん。

 すべての国の女主人は何をしたのだ。心配でならん。

 天の聖なる女は何をしたのだ。心配でならん」


    * * *


 エンキは爪の先から垢(あか)を取って、一人をつくった。

 もう一方の爪の先から垢を取って、もう一人をつくった。


 一人には命の草を、もう一人には命の水を持たせた。


 父エンキは二人に言った。


「行け。冥界へ足を向けよ。蠅(はえ)のように扉をすり抜け、幻のように扉の軸をくぐれ」


「子を産んだ母エレシュキガルが、子らのために横たわっている。聖なる肩に、亜麻の布は掛かっていない」


「彼女が『うう、ああ、わたしの心』と言ったら、『お苦しいのですね、われらの女主人。ああ、あなたの心』と言え。『うう、ああ、わたしの肝』と言ったら、同じように、あなたの肝、と返せ」


「彼女は問うだろう。『おまえたちは誰か。神ならば言葉をかけよう。人ならば運命を定めてやろう』。天と地にかけて、その言葉を誓わせよ」


 (つづく一行は板が欠けている)


「川いっぱいの水を差し出されても、受け取るな。麦の実った畑を差し出されても、受け取るな。『鉤に掛かった屍をください』と言え」


「『それはおまえたちの女王の屍だ』と言われたら、『王のものでも、女王のものでも、ください』と言え」


「鉤に掛かった屍が、おまえたちに渡される。一人は命の草を、一人は命の水を、その上に振りかけよ。そうしてイナンナを立ち上がらせよ」


    * * *


 二人はエンキの言葉に従った。

 蠅のように扉をすり抜け、幻のように扉の軸をくぐった。


 子を産んだ母エレシュキガルが、子らのために横たわっていた。

 聖なる肩に、亜麻の布は掛かっていなかった。

 乳房は、油の壺(つぼ)のように張ってはいなかった。

 爪は、つるはしのようだった。

 頭の髪は、ねぎのように束になっていた。


 彼女が言った。


「うう、ああ、わたしの心」


 二人は言った。


「お苦しいのですね、われらの女主人。ああ、あなたの心」


「うう、ああ、わたしの肝」


「お苦しいのですね、われらの女主人。ああ、あなたの肝」


「おまえたちは誰か。わたしの心からおまえたちの心へ、わたしの肝からおまえたちの肝へ告げる。神ならば言葉をかけよう。人ならば運命を定めてやろう」


 二人は天と地にかけて、その言葉を誓わせた。


 (つづく一行は板が欠けている)


 川いっぱいの水が差し出された。二人は受け取らなかった。

 麦の実った畑が差し出された。二人は受け取らなかった。


「鉤に掛かった屍をください」


 聖なるエレシュキガルは二人に答えた。


「その屍は、おまえたちの女王のもの」


「王のものでも、女王のものでも、ください」


 鉤に掛かった屍が、二人に渡された。


 一人が命の草を、一人が命の水を、その上に振りかけた。


 イナンナは立ち上がった。


    * * *


 エレシュキガルは二人に言った。


「おまえたちの女王を連れて行け。おまえたちの……は、捕らえられた」


 イナンナはエンキの言葉によって、冥界から上がろうとした。


 上がろうとする、そのときだった。冥界の裁き手たちが彼女をつかんだ。


「冥界から上がった者が、誰かいたか。無事に冥界から上がった者が。イナンナが冥界から上がるのなら、身代わりを一人、差し出させよ」


 イナンナが冥界を出るとき、前を行く者は、従者でもないのに手に杖(つえ)を持っていた。後ろを行く者は、供でもないのに腰にこん棒を下げていた。


 小さな魔物たちは葦(あし)の囲いのように、大きな魔物たちは垣の葦のように、四方から彼女を囲んでいた。


 彼女に付いてきた者たち。

 イナンナに付いてきた者たち。

 食べ物を知らず、飲み物を知らない。

 供えの粉を食べず、注がれた水を飲まない。

 うれしい贈り物を受け取らない。

 夫婦の床の喜びを知らず、口づける愛しい子を持たない。

 夫の腕から妻を引き離し、

 父の膝から子を奪い、

 花嫁を、しゅうとの家から去らせる。


    * * *


 イナンナが冥界から上がると、冥界の宮殿の門で、ニンシュブルが足もとに身を投げ出した。

 塵の中に座り、汚れた衣をまとっていた。


 魔物たちは聖なるイナンナに言った。


「イナンナ、あなたの町へ行くがいい。この者は、われらが連れて行く」


 聖なるイナンナは魔物たちに答えた。


「これは、よい言葉を語る、わたしの従者。たしかな言葉を語る、わたしの供です。わたしの言いつけを忘れず、おろそかにしませんでした。

 廃墟の丘で、わたしのために嘆きの声をあげてくれた。

 聖所で、わたしのために太鼓を打ってくれた。

 神々の家を、わたしのために巡ってくれた。

 わたしのために目をかきむしり、鼻をかきむしってくれた。

 人目のない所で、わたしのために尻をかきむしってくれた。

 貧しい者のように、衣一枚だけをまとってくれた。

 ひとりで、エンリルの家へ、ウルのナンナの家へ、エリドゥのエンキの家へ、足を向けてくれた。

 わたしを生き返らせてくれたのは、この者です。どうして渡せましょう。行きましょう。ウンマの神殿へ行きましょう」


 ウンマの神殿では、その町の神が足もとに身を投げ出した。

 塵の中に座り、汚れた衣をまとっていた。


 魔物たちは聖なるイナンナに言った。


「イナンナ、あなたの町へ行くがいい。この者は、われらが連れて行く」


 聖なるイナンナは魔物たちに答えた。


「これは、わたしの歌い手。わたしの爪を切る者、わたしの髪を結う者です。どうして渡せましょう。行きましょう。バドティビラの神殿へ行きましょう」


 バドティビラの神殿では、その町の神が足もとに身を投げ出した。

 塵の中に座り、汚れた衣をまとっていた。


 魔物たちは同じ言葉を言った。


 聖なるイナンナは魔物たちに答えた。


「このすぐれた者は、わたしの右と左に従う者です。どうして渡せましょう。行きましょう。クラバの野の、大きな林檎(りんご)の木へ行きましょう」


    * * *


 彼らは彼女について、クラバの野の、大きな林檎の木へ行った。


 そこに、彼女の夫ドゥムジがいた。

 見事な衣をまとい、見事な座に着いていた。


 魔物たちは、彼の腿をつかんだ。

 七人の魔物は乳をかきまぜる彼の壺から、乳をぶちまけた。

 七人は……のように首を振った。

 その牧人に、彼女の前で葦笛も笛も吹かせなかった。


 彼女は彼を見た。それは死の目だった。

 彼に語った。それは怒りの言葉だった。

 彼に叫んだ。それは重い罪の叫びだった。


「いつまで。連れて行きなさい」


 聖なるイナンナは、牧人ドゥムジを彼らの手に渡した。


    * * *


 彼女に付いてきた者たち。

 ドゥムジのために来た者たち。

 食べ物を知らず、飲み物を知らない。

 供えの粉も、注がれた水も、夫婦の床の喜びも、口づける愛しい子も知らない。

 父の膝から子を奪い、

 花嫁を、しゅうとの家から去らせる。


 ドゥムジは泣き声をあげ、青ざめた。

 若者は天へ、太陽の神へ、両手を上げた。


「太陽の神よ、あなたはわたしの義理の兄。わたしはあなたの妹の夫です。

 あなたの母の家へ乳の脂を運んだのは、わたしです。

 母君の家へ乳を運んだのも、わたしです。

 わたしの手を、蛇の手に変えてください。

 わたしの足を、蛇の足に変えてください。

 魔物から逃れさせてください。わたしを捕らえさせないでください」


 ……は、……を受け入れた。

 彼の手を蛇の手に変え、彼の足を蛇の足に変えた。


 ドゥムジは、魔物から逃れた。


    * * *


 彼らは……を捕らえた。


 (つづく二行は板が欠けている)


 聖なるイナンナは……彼女の心は……


 聖なるイナンナは、夫のために苦い涙を流した。


 (つづく四行は板が欠けている)


 彼女は髪を、いぐさのようにかきむしった。いぐさのように引き抜いた。


「夫の腕に寝る妻たちよ、わたしの大事な夫はどこ。

 父の腕に寝る子らよ、わたしの大事な子はどこ。

 わたしの人はどこ。どこに……

 わたしの人はどこ。どこに……」


    * * *


 一匹の蠅が聖なるイナンナに言った。


「あなたの人のいる所を教えたら、わたしの褒美は何」


 聖なるイナンナは蠅に答えた。


「わたしの人のいる所を教えてくれたら、この贈り物をあげましょう。わたしは……を覆って……」


 蠅は聖なるイナンナを……


 乙女イナンナは蠅の運命を定めた。


「酒の家と……で、おまえのために……。賢い者の子らのように、おまえは……」


 こうして、イナンナの定めた運命のとおりになった。


    * * *


 ……は泣いていた。

 ……のところへ来て、その手を……取った。


「ああ、いまは、わたしの……。

 あなたが年の半分、あなたの姉妹が年の半分。

 あなたが求められる日、その日あなたはとどまる。

 あなたの姉妹が求められる日、その日あなたは解かれる」


 こうして聖なるイナンナは、ドゥムジを身代わりとして……渡した。


 聖なるエレシュキガルよ。

 あなたへの讃(たた)えは、甘い。


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