第5話 この蠅を、わたしの首の青い瑠璃の玉としよう。
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005 首の青い玉 ― 序文
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「『わたしの首の青い瑠璃の玉としよう』。あなた、首の瑠璃の玉なら、はじめの板で取られたきりになっていましたね」
取られたきりでございます。わたくしはギルガメシュの歌の十一枚目の粘土板の隣に、いちばんはじめの板を並べました。
今からお読みいただくのは、新しい物語ではありません。ここまでにお持ちした四つをもう一度ならべて読み返した、わたくしども二人の話でございます。
女神イナンナが冥界へ下る、粘土板の歌。難破した男が島で蛇に会う、エジプトの巻物。ギルガメシュの名で呼ばれる長い歌の、十一枚目の粘土板。それに、兄ヤマと妹ヤミーが言い合うインドの歌。
四つ目には並べる物がございません。長く声だけで運ばれてきた歌で、こちらは妻が覚えております。
はじめの板のイナンナは、冥界へ下る前に身を飾ります。『首には、青い瑠璃の小さな玉を掛けた』。冥界の門は七つ。くぐるたびに品を一つ取られ、二つ目の門で首から取り去られたのが、この玉でした。そのあと玉がどうなったのか、板は書いておりません。
十一枚目は洪水を生きのびた人の語りです。水が引き、山の頂で香がたかれ、神々が集まってくる。そこへ神々の女主人と呼ばれる女神が着いて、大きな蠅を高くかかげます。
『この蠅を、わたしの首の青い瑠璃の玉としよう。この日々を思い出すために。とこしえに忘れぬために』
この行を読むたびに、わたくしの目は蠅で止まっておりました。女神が蠅をかかげる。そこで足りてしまって、首まで読んでいなかったのです。字を追う者が、すぐ隣の字を読み残しておりました。
「わたしは蠅より先に香です。葦と、杉と、ミルトスの枝。その香りをかいで神々が集まってきて、そこへ首の瑠璃でしょう。取られた玉のことを思い出すのは、いつもそのあたりです」
葦と、杉と、ミルトスの枝。三つを言うあいだ、妻の声はゆっくりになりました。板もこの三つを一行に並べております。その行に指を置いたまま、わたくしは聞くほうにまわりました。
「でも、掛けた女神は、取られた女神とは別の方でしょう。玉も同じ玉ではないのでしょう。それなら、同じなのは何ですか」
石でございます。
同じ石が、エジプトの巻物にもありました。その石がどこから来たのか。そこから申します。




