第七話 なんでお前が!?
ピンポンという入店音が流れる。俺と水間先輩はいつも通りの元気な声で「いらっしゃいませー!」と言う。店の入口には、制服姿の女子高生がいた。あたりを若干見渡してこっちの方にやってくる。店長が高校生の人が面接に来ると言っていたから、時間的にも面接の人かなと考えていると、その高校生と目が合った。あれ?この人、どこかで見覚えがあるような⋯⋯
「すいません。今日こちらで面接させてもらう⋯⋯って颯太じゃん!?」
「優愛!?なんでここにいるんだ!?」
「今言ったじゃん。面接って」
「お前、本当に来たのかよ」
俺は若干ため息をついた後に、優愛を事務室に通した。持ち場に戻ると、水間先輩がニヤニヤしながら聞いてきた。
「颯太、あれ誰だ?もしかしてこの前話してた」
「あの人じゃないです。今はお客さんがいるんであとで話しましょう。今話すと絶対うるさくなりそうなので」
「おっとそうだな」
二十分ほど経って優愛が戻ってきた。
「じゃっ頑張ってね。あと、私の制服似合ってる?颯太に見せるの初めてだから感想聞きたいよ〜」
「はいはい似合ってるよ。てかバイト中だから帰ってもらって」
「もう冷たいなあ。明日こそ学校でね!」
「はいはい」
優愛は手を振って店を出ていった。水間先輩から視線を感じる。これは絶対色々聞かれるやつに違いない。
四時間ほど働き時刻は二十一時。俺と水間先輩は退勤の時間となった。事務室にはひたすら事務作業をしている店長がいた。
「二人ともおつかれさん。今日もありがとうね」
「いえいえ、とんでもないです」
「あと夕方に面接に来た能美さんって、酉島くんの知り合いなんだね」
「一応そうですね。あいつどうでしたか?」
「とてもいい子だったよ!質問もハキハキ答えてくれるし丁寧だしで。人が欲しい時間に上手く入ってくれるらしいから、一応採用の方向で進める感じ」
「マジですか⋯⋯あいつがここに来るのか」
「色々教えてあげてね〜」
その後、水間先輩と共に更衣室に入った。
「で、面接に来たあの子とはどういう関係なの」
「一言で言うと幼馴染です」
そう。さっき面接に来た女子高生、能美優愛は俺の一個下の幼馴染である。俺と優愛は小さい頃、同じスイミングスクールに通っていた。その時に、お互いが同じ幼稚園に通っていたことを知り、スクールの帰り道や幼稚園での外遊びの時によく話したりしていた。俺は小学校三年生の時にスクールを辞めたが、小中学校ともに優愛と同じ学校だったので、よく二人で途中まで一緒に帰ったりもした。
優愛はいつも明るくハッピーな表情をしていて、一応俺の方が年上なのだが、いつの間にか呼び捨てで呼ばれていた。中学の途中からは変に絡んでくることもしばしばあった。そして俺が高校に進学するとき、優愛は
「私も颯太と同じ高校に行くから!待っててね!」
このように言ってきた。あれから一年。優愛は本当に俺が通っている高校に進学してきやがった。だが、最近はお互い多忙で会うことがほとんど無かった。春休み前までは月二から三のペースで会っていたが俺はバイト、優愛は家庭の用事などがあって春休みの四国旅行以降、全く会っていなかった。新学年が始まってからも、優愛は新しく出来た友達と遊んだりしていて会う機会があまり無かった。そして今日、バイトの面接に優愛がやってきたのだ。春休みに
「私、颯太と同じコンビニでバイトするから!絶対!」
と、インスタのDMで送ってきていたがまさか本当に来るとは思わなかった。
諸々の事情を水間先輩に話すと
「後輩の幼馴染っていいじゃん!てかそこまで関係続いてるのなら付き合っちゃえよ!」
「付き合いませんって。ただの友達です」
「お前、さっきも似たような事言ってなかったか?ていうか、それだと昨日デートしたあの子はどうするんだ!?二股は最低だぞ!?」
「だからなんで付き合ってる前提で話進めてるんですか!二人とも友達です。昔から仲良くしてる人と、趣味が合う人。誰だっていますよ」
なんで水間先輩はこういう話になると付き合ってるという話に移り変わるのか⋯⋯そういえば優愛って、若干笹野さんの雰囲気を感じるような気がするが⋯⋯まあ恐らく気のせいだろう。
「でもいいなあ。青春出来てて」
「先輩は出来なかったんですか。あ、そうか男子校でしたね」
「うるさいしばくぞ」
「ごめんなさい」
そんな笑い話をしつつ、俺と先輩はコンビニを後にして帰路についた。スマホを開くと優愛からメッセージが届いていた。
「ねえねえ、私の制服似合ってた?何気に初めて颯太に見せたから気になっちゃって!改めて感想プリーズ」
いつも通りのハイテンションメッセージだ。年上に対してのメッセージとは思えない文章だが、中学からこれなのでもう何も思わなくなった。
「似合ってる似合ってる」
適当にこう返信しておこう。多分あとから「それが年下女子に対して言う感想!?」といった文句を言われるだろうがフル無視しておく。水間先輩に加えて優愛も来る。学校に続きバイトでも波乱万丈の展開になりそうだ。
次の日、俺はいつも通りの電車に乗り学校に向かった。教室に入り用意をしていると笹野さんがやってきた。
「おはよう酉島くん」
「おはよう」
何気ない挨拶を交わすが少し気まずい雰囲気が流れる。昨日、さくらが大声で余計な事を言いやがったせいで、早めに登校してきているクラスメイトに俺達の噂が流れてしまっているかもしれない。それを考えると若干気まずいがなんとかするしかない。すると笹野さんが
「酉島くん、一つ聞きたいことがあるんだけど」
「なに?」
「コンビニのアルバイトってさ。やっぱり大変なの?」
笹野さんはこう聞いてきた。もしかしてコンビニバイトに興味があるのか?正直言ってコンビニバイトは時給が低いから物足りないが、俺が働いているお店は良い人ばかりで楽しさの方が勝っているから、あまり不満はない。優愛が来たら変わるかもしれないが⋯⋯俺は笹野さんに大変さと楽しさをある程度伝えた。
「そうなんだ〜、私もアルバイトやってみようかなあ」
「社会経験も積めるしお金も貯まるからやってみる価値はあるよ。でもどうして急に聞いてきたの?」
「実は私のいとこがコンビニでアルバイトを始めるらしくてね。それでどんな感じなのか気になったの」
「なるほどね〜」
「笹野さんのいとこって高校生なの?」
「うん。一応この春から一年生だよ」
「なるほどね〜。確かにこの季節はたくさんの一年生がバイト始めるからなあ」
実際、俺のバイト先にもこの春から大学生になる人だったり、優愛といった高校生の面接があったりした。もし笹野さんがバイトをするのなら俺が働いているコンビニを紹介⋯⋯いやだめだ。あそこには優愛や、俺の関係を知っている水間先輩がいる。多分とんでもない事になりそうな気がするからやめておこう。
いつも通りの六時間授業を受けて時刻は十五時半となった。先週までの緊張した雰囲気は気づけばほとんど薄れていった。スマホを開くとインスタに一件の通知が来ていた。アプリを開くとあいつからメッセージが届いていた。
「はぁ〜、行ってやるか」
俺はため息混じりの独り言を呟き、教科書類をまとめてカバンに直す。終礼が終わりそのまま帰宅⋯⋯せず、俺は一年生の教室に向かった。
「おい、来てやったぞ優愛」
「ちょっと遅いって颯太」
俺は教室の真ん中あたりでクラスメイトと話していた優愛の元に駆け寄った。




