第八話 後輩幼馴染
「おい、来てやったぞ優愛」
「ちょっと遅いって颯太」
俺は教室の真ん中あたりでクラスメイトと話をしていた優愛の元に駆け寄った。一年生は学校が始まってから一週間も経ってないので、まだ緊張しているような雰囲気が伝わる。それでも優愛の周りを含めて、何個かのグループが出来ており段々と打ち解けているような感じもする。そんな一年生の教室に俺が紛れ込んでいるので若干視線を感じる。
「なんだ、お前友達出来てるのか」
「当たり前でしょ!?私のコミュ力を舐めないでほしいね」
「小学校の頃は俺以外の人とほとんど遊ばなかったくせになあ」
「いうても小学校低学年くらいまでの話でしょ!?ていうかみんなの前で言わないでくれる?」
周りを見ると、さっきまで優愛と話していたと思われる人達が若干笑っている。
「美奈、この人がさっき言ってた先輩?」
「そうそう。これが私の幼馴染の颯太ね」
「へ〜、今の会話の感じ、めっちゃ仲良いじゃん!」
「そりゃ昔からの付き合いだからね。じゃあ颯太行こ!みんなバイバイ!」
「うん、また明日!」
優愛は友達に手を振り、俺と一緒に教室を出て行った。
「それで⋯⋯」
「それで?」
「私の制服姿どう?感想聞かせて!」
「昨日言っただろ?似合ってるって」
「絶対適当に言っただけでしょあれ。ほんと昔から曖昧な返事するよね」
「面倒事には関わりたくないので」
「面倒事ってなによ!?⋯⋯って待て!」
俺はやや早歩きで階段を駆け下りた。後から優愛が慌てて追いかけてきたが、無視して下足ロッカーに向かい、靴を履き替えて優愛と一緒に校門を抜ける。
「にしても久々だね。二人で帰るなんて」
「俺が高校に進学してからは会う頻度が激減したからな。平穏な日々はここまでか⋯⋯」
「ちょっと遠回しに私のこと、うるさいって言わないでよ」
「中学のときそうだっただろ」
「今の私はもう変わってるから!」
「まあ確かに、前と比べて大人しくなってる感じはするな」
「ふふ。そうでしょ」
駅の改札を通りながら優愛はニッコリした表情を見せた。中学で一緒に帰ったときはよく変に絡んできたり、荷物を全部持たせてきたりという完全に俺を舐めている感じだったが、今の彼女はあのときよりかはおしとやかで、少し別人にも思える姿だった。笑顔と俺への接し方は相変わらずだが⋯⋯そしてホームで電車を待つ時も前と同じように、至近距離でくっついてくる。周りから視線を感じるが、昔からこのような感じで接してきているので、もう何も感じなくなってきた。俺に懐かしい感覚が蘇るだけだった。
やってきた電車に揺られつつ最寄り駅に到着した。
「ねえねえ今日暇?せっかくだし寄り道しよ!」
「しょうがないなー。まあ久々に会ったからちょっとくらい付き合ってやるか」
そう言って俺達は、駅前にあるバーガーショップに入っていった。そう、以前水間先輩と色々話した場所でもある。さらに運が良いのか悪いのか、席も以前と全く同じ場所だった。
「そういえば優愛、ここ一ヶ月でなんかあった?受験が終わった後もあまり会わなかったし、優愛にしては珍しく俺とのやり取り少なかったし」
「え!?あーいやあれだよ、家の用事!進学するのに色々準備があったからさ」
「そっか。ならよかったけど」
「なに?もしかして私に会えなくて寂しかったの?颯太って寂しがり屋さんだったんだ」
「一回もそんなこと思ったこと無い」
「そうかな〜⋯⋯おい私のポテト食うな!」
ちょっと腹が立ったので優愛のポテトをパクる。続けて優愛が質問してきた。
「それで颯太って彼女出来てないの?」
「お前この前会ったときも聞いてこなかったかそれ」
「だって恋バナおもしろんだもん。さっきも友達としてたし」
「始まってから一週間すら経ってないのにもうそこまでいってるのかよ⋯⋯」
「それでどうなの?」
「いない。というかいるわけがない」
「そりゃそっかー。デートもしたことないもんねー」
「あ。でも」
「でも⋯⋯なに?」
「いや、なんでもない」
「そこまで言ってなんではぐらかすの!」
「いやほんとになんでもない」
「ふ〜ん」
俺が一瞬言いかけたこと、それは笹野さんとお出かけ⋯⋯いや、デートをしたことである。ただ、これを優愛に言うとまためんどくさいことになる。というか絶対になる。それに昨日、笹野さんから「他の子には言わないで」と言われている。笹野さんと面識がなく、なんなら学年が違うであろう優愛に対してでもこのことは黙っておこう(というか優愛に関しては前者が一番の理由だが)
色々雑談をしていると優愛のスマホがなった。
「あ、昨日面接を受けた所からだ!採用だったら連絡するって言ってたからもしかしてそうかも!ちょっと離れるね」
そう言って優愛は席を離れて店の外で電話をした。昨日店長が「採用するつもり」と言っていたから間違いなくそうだろう。二分ほど経ってから、笑顔で席に戻ってきた。
「じゃあ颯太!金曜日からよろしく!」
「はあ。やっぱり採用かよ」
「もしかして知ってたの?」
「昨日帰るときに店長が言ってた。帰り道に続き俺の平和なバイトもここまでか⋯⋯」
「もうなによ。バイトはしっかりやるから!」
「だといいけどな」
俺はそう呟きながらオレンジジュースを口に含んだ。その後も三十分近く雑談しながら店を出ていった。しかし、俺はさっきの会話で少し気になった点があった。
「なあ優愛。初出勤は何曜日って言った?」
「今週の金曜日だけど」
「おいマジかよ。俺がシフト入ってる日じゃねえかよ」
「ほんと!?やったー!初日から一緒とか楽しみ」
「こっちからしたら地獄だけどな。ちゃんと働けよ?」
「そこは分かってるから!」
優愛は不服そうな表情をしてこちらを睨む。まあ優愛はメリハリをしっかりつけているからそこらへんは大丈夫だと思うが、それでも一緒になるのはなんかヤバいような気もする。金曜日からのバイトタイム、どうなってしまうんだ⋯⋯
「それじゃあまた学校でね。そうそう、明日から部活動体験期間が始まるでしょ?だから一緒に帰ること出来ないからごめんね〜」
「誰も一緒に帰りたいなんて言ってないけどな。ていうか部活やるのか」
「何かしらやりたいなと思っててさ。バイトと両立出来そうで、私に合いそうなところに入ろうかなあって思ってる」
「意外としっかり考えてるんだな」
「そりゃそうでしょ!いい加減変わった私を認めてよね」
「そのうち頭に叩き込んでおく」
「全く⋯⋯じゃあまたね」
さっきと同じような頬を膨らませた表情をまた見せた後、駅の出口の方に進んでいった。俺と優愛は、同じ小中学校だが家の方向は線路を跨いだ場所にある。だからここで解散となった。
日が空いて金曜日となった。いつも通り学校に向かう。この日の二時間目は体育の授業があり、なおかつ体力テストも行われる日となっている。この日行うテストは上体おこし、立ち幅跳び、長座体前屈、反復横跳び、握力という屋内で行われるものとなっている。体力テストは二クラス男女混合で行われる。班分けの結果、俺は笹野さんと智光が一緒にいる班となった。まずは上体おこし、結果は十回だった(ちなみに男子平均は約二十七回である)
「お前春休み運動してねえだろ」
「バレてしまったか」
「お前、十回はやばいぞ?俺と一緒にジムにでも通うか?なんならサッカー部入ろうぜ!」
「拒否する」
記録が低すぎて智光に色々言われてしまった。実際言われた通りで、俺はこの春休みほぼ運動をしていない。コンビニの品出しで重い荷物を背負ったくらいだ。
その他のテストも一部を除き、平均以下の記録を叩き出した。ちなみにその一部というのは長座体前屈である。俺は運動は不得意だがなぜか体だけは柔らかい。そのせいで長座体前屈だけ七十センチ、点数だと八点となった。当たり前だが智光は長座体前屈以外、俺に勝っている。
最後のテストは立ち幅跳び。俺は百七十センチ、智光は二メートルジャストという結果だった。
「くっそー。俺、立ち幅跳びは昔から苦手なんだよなあ。今年も平均は超えなかったか〜」
智光はこう言って悔しがった。最後の計測は笹野さん。ちなみに笹野さんはここまで平均並の記録となっている。合図とともに前に跳んだ⋯⋯だが、グループ内の全員が驚愕した。
「二メートル⋯⋯十八センチ」
まさかの記録だった。女子の平均である百七十センチを余裕で超えているのだった。
「笹野さんすごい!なんであんなに跳べるの!?」
「小さい頃からあっちで農作業とか手伝ってたからかな?重い荷物を持ったり、それで坂道歩いたりしてたら足腰が強くなっちゃったのかも。でも運動はそこまで得意じゃないんだけどね」
「智光⋯⋯田舎ってすごいんだな」
「いやあれは田舎関係無いだろ⋯⋯」
俺と智光は目を点にして見ていた。
そしてその日の体育は終了、三時間目は二時間連続で芸術選択の授業がある。音楽、書道、工芸、美術から選べるが俺は歌うのが好きなので音楽を選択した。席に座ると、横に笹野さんがいた。
「あっ、酉島くん!音楽もよろしくね」
「よろしく。ていうかさっきの立ち幅跳び、エグすぎない?農作業であんなに強くなれるんだ」
「それは私も思うんだよねえ。小学校の頃からお手伝いしてたから、もう自然とああなっちゃったんだよね。だから前の学校でもよく荷物持たされたりしたんだ」
「それはむしろ災難だろ⋯⋯」
そんな笑い話をしつつ音楽の授業が始まった。
四時間目が終わり昼休みの時間となる。俺は笹野さんと喋りながら教室に戻る。すると反対側から優愛がやってきた。どうせ「やっほー颯太」とでも言うんだなと思った⋯⋯が、予想の真逆をついてきた。俺と目が合ったときは一瞬柔らかい表情を見せたが、なぜか視線の先を変えた後にすぐ表情を戻した。その視線の先は笹野さんだった。ふと笹野さんの方をチラ見するがこちらも、少し暗めの表情をした。この二人に接点なんかあるのか?そう思いながら優愛とすれ違った。
五六時間目を受けてこの日の授業は終了。終礼と同時に爆速で帰宅、着替えてから少し休憩してバイト先に直行した。金曜日のバイト、そうあいつが来る日でもある。いつも通りの挨拶をしてから持ち場に入る。数分経って入店音が鳴る。見慣れた女子高生がこっちの方にやってきた。
「颯太、今日からよろしく!」
学校に続き、バイト先でも新たな展開が始まろうとしていた。




