第四話 これってデート?
「おいおいおいちょっと待て、女の子と二人きりってデートだよな?」
俺は家に帰ってひたすら考え込んだ。なぜなら日曜に、同じクラスの女子と一緒におでかけすることになったからだ。女子と遊んだりするのは何回かあるが、もちろん他の男友達も入れた複数人だ。それなのに今回は完全に二人きり。いや付き合ってないのならデートにはならないか?あの時約束した後、俺はこのことでずっと悩み込んでいた。
翌日、俺はバイトに向かった。この日は今年から大学二年生で、俺と同じ時期にバイトを始めた水間先輩とシフトが被っていた。先輩とは仲がよく、帰りに近くのハンバーガーショップで奢ってくれることもある優しい人である。
その後ひたすら働き、気付けば十五時。アップの時間となった。また先輩も同じタイミングでアップらしい。
「おつかれ〜。小腹が空いたし何か食べねえか?」
「そうですね。もちろん奢りで」
「おい奢るなんて言ってねえぞ?まあポテトくらいならいいけど」
そんな笑い話をしつつ、俺たちはバーガーショップに入っていった。そこで俺はとある質問を先輩に投げかけてみた。それは、俺が昨日から悩み続けていることだ。
「先輩、一つ質問していいですか?」
「珍しいな。なに?」
「付き合ってない女の子と二人きりで出かけるってデートですか?」
先輩は飲んでいたコーラをテーブルに置いて、若干むせた。
「いやいきなりどうした!?ついに颯太にも春が来たのか〜」
「いやそうじゃなくてですね!」
俺は事情を先輩に話した。すると先輩は、
「颯太くん。それは完全にデートだよ」
「やっぱり⋯⋯ですか」
「だって女の子と二人きりだよ?そんなのデート一択に決まっとるやろ。しかも転校生で春休みに会った事があるって⋯⋯運命やん」
「ちょっと何変なこと言ってるんすか」
「で?颯太はいつ告白するの?」
「いやなに好きになってる前提で話してるんですか」
「え?好きじゃないの?」
「別に恋愛感情とかはないですよ。仲がいいだけですし」
「まあ今は無くてもそのうち現れるでしょ」
完全にイジってきやがる。もちろん彼女に対して恋愛感情というのは無く、ただ趣味が合って仲良くしているというだけである。二人きりで出かけるのは緊張するが。
「とりあえず女の子とデートするのなら、服装と言葉遣い、あと気遣いはちゃんとしろよ?」
「だから彼女じゃ無いですって」
「そうじゃなくても。二人きりなのは変わりないのだろ?男としてきちんとエスコートは必須だからな」
「まあそこは考えてますけど」
「ならよし」
その後、俺と先輩は色々と話しつつ店を出た。
「じゃあ楽しんでこいよ〜。ちゃんと彼女を守れる男になるんだぞ」
「そろそろしばきますよ?」
「悪い悪い、まあ頑張ってこい」
家に帰った後、再び考え込んだ。先輩が言っていた気遣いとはなんなんだ。まあ別に恋愛感情も無いし付き合ってるわけでもないから、そんなに重く考える必要も無いか。だが二人きりというので緊張するのは変わりない。それに笹野さんは、都会のことをもっと知りたいと言っていた。それならばなるべく楽しませる必要がある。だから俺は、笹野さんを楽しませるという目標を立てることにした。
そして、日曜日になった。服装に関しては旅行や出かける時に着る物を、カバンはいつも使っているカバンにした。変に組み合わせを変えて失敗したら困るから、結局はこれが一番落ち着く。準備を整え、俺は集合場所である駅に向かった。
午前十時前に到着、俺は駅前にある木の下で待機した。すると、
「ちょっと、酉島くん?」
後ろから聞き慣れた優しい声がした。俺はその声が聞こえた方向へ振り向く。そこには白色ブラウスで、淡色のロングスカート、一回り小さい白色のショルダーバックを持っており、若干メイクもしていて髪飾りもいつもと違うものを付けている、完璧な美少女の姿がそこにはあった。
「え、笹野さん⋯⋯?」
「もう。さっき私の目の前を思いっきり素通りしててビックリしたよ」
「あれ笹野さんだったの?ちょっと雰囲気が学校の時と違ってて分からなかった」
どうやら俺は彼女に気づかず素通りしていってたらしい。それよりも、そこにいる女の子が笹野さんというのが驚きだ。制服姿と転校前の学校で使っていたジャージ姿しか見たこと無かったから、本気の私服姿がここまでキラキラしてるとは思わなかった。そして気付けば、また彼女のことを凝視していた。
「ねえ酉島くん。またジロジロ見てない?」
「あ、ごめん!いつもと雰囲気が違いすぎて⋯⋯」
「だって、せっかく都会を巡るのなら服も本気出した方がいいじゃん?あっちで着てた服なんか家でしか着れないよ」
「なるほどね」
「それでどう?私の服、似合ってる?」
「あ〜、その〜」
何て言ったらいいんだこれ。もちろん似合っているんだが、あまりにも褒めすぎるとドン引きされるかもしれない。だからといって曖昧な回答をするのも失礼になる。てか、俺よりも身長低いからやや上目遣いで聞いてくるのやめてくれ。マジで心臓がおかしくなる⋯⋯
「そうだな、うん。可愛いよ」
「か、かわいいって⋯⋯まあ、ありがと」
俺はとっさに可愛いと言ってしまった。というか冷静に考えれば付き合ってもないし、会ってからちょっとしか経ってない女の子にこれを言うのはまずくないか?そう思って笹野さんの方を見ると、顔が真っ赤になっていた。
「笹野さん、顔めっちゃ赤いけど大丈夫?」
「え、いやいやいやなってないけど!?変な冗談言わないでくれる?」
「別に冗談のつもりじゃないけど。もしかして照れてる?」
「照れてないから!もう、さっさと行くよ!」
そう言うと、彼女は改札の方に向かって歩いていった。俺も追うように彼女と歩いていった。
最寄り駅から特急電車に揺られ十五分程で大阪キタの繁華街、梅田に着いた。駅から外に出た時、笹野さんは周りの景色をまじまじと見ていた。
「やっぱりいつ見てもすごい!これが都会なんだ」
「すごい⋯⋯のかな?」
「そりゃそうだよ。こんなにいっぱい高い建物があるのも、人が多いのも」
「早く慣れときな?これよりもすごいとこあるから」
「う〜。もう無理だ」
確かに、あの場所と比べたら驚くのも当然か。いきなり山に囲まれた場所から、こんなビルしか無い大都会に引っ越すと感覚もバグりそうになるだろう。
その後、俺達は地下鉄に乗って天王寺に移動した。最初に行ったのは、西日本で一番高いビルである「あべのハルカス」だ。笹野さんは都会の景色を見たいと言ってたから、それならここが最適だろうと思って、最初にここを訪れた。そしてエレベーターに乗り込み、展望台に着いた。
「すご〜!こんなに高いところ来るの初めて!」
「だろ?やっぱり景色を楽しむのならここが一番だな」
北側と南側には梅田や堺などの高層ビル群、西側には大阪湾、東側には住宅街や生駒山地。彼女は、目をキラキラさせながら景色をまじまじと見ていた。よっぽど、こういう景色を見てみたかったのだろうな。ていうか、夢中に景色を見ている笹野さんが可愛い⋯⋯気付けば、また笹野さんの事を見ていた。いやこんなおしゃれした服装と、ほんのり香る甘い匂いがしたらどうしても見てしまう。ていうか、女の子と二人で一緒にお出かけしてるのがガチで慣れない。いつも出かける時は一人だから、なんだか新鮮な気分だ。
展望台に一時間ほど滞在して戻ってきた。時刻は十二時過ぎ、俺達は近くにある芝生広場にあるカフェに移動してお昼ご飯を食べることとした。
「それでどう?まだ一箇所しか巡れてないけど、感想としては」
「既に圧倒されたよ。景色もすごかったし、色んなものがあるしで」
「でも、いとこと来たことあるって言ってなかった?」
「あるけどほんと昔の事だよ。それに大阪はちょっとだけしか巡ったことないからさ」
そんな話をしつつ、俺達は注文したパスタを口に運んだ。
お昼ご飯を食べ終えて、店を出た。
「美味しかったね。雰囲気もおしゃれで素敵だった!」
「ほんと!よかった!」
「次はどこに行く?」
「混んでるかもしれないけど道頓堀とかどう?近いし、大阪といえばっていう場所でもあるし」
「そこ、私が一回行ってみたかったところだ!行きたい!」
「じゃあ今から行くか」
「楽しみ!道頓堀デート!」
「道頓堀デ⋯⋯え?デート?」
「え?違うの?」
どうやら俺達は、大きなすれ違いをしていたらしい。




