第二・五話 隣の席の男の子は
【第二話の美奈視点のお話】
第二話をご覧になってない方は先にそちらをご覧下さい
今日から新しい学校生活が始まる。四国に住んでた時に行っていた学校は一学年三十人、学校全体でも百人を切っている学校だった。でも、今日から私が通う学校はそんな小規模ではない。聞いた話によれば、一学年でおよそ二百四十人。学校全体では七百人超えという学校らしい。
私は真新しい制服とリボンを身にまとう。そしてショートヘアに髪飾りを付ける。
「美奈お姉ちゃん!高校の制服、めっちゃ似合ってる!」
「ほんと?よかった!」
「私よりも可愛いよ。羨ましいなあ」
この子の名前は能美優愛、私のいとこで私と同じ高校に通う一年生だ。入学式は既に終わってるので優愛ちゃんは、ニ回目の登校になる。引っ越し後はおじおばの家に居候させてもらっている。この家には昔、何回かお泊りさせてもらった事があるので馴染みはそこそこある。その時によく、いとこの優愛ちゃんと遊ぶことがあった。これはおばさんから聞いた話だが私がこの家に住むとなったとき、優愛ちゃんはとても喜んでいたらしい。
「じゃあ行ってきます!」
「行ってらっしゃい。気を付けて行くのよ」
おばさんとお母さんがお見送りしてくれた。私は優愛ちゃんと駅に向かって歩いていった。
朝の住宅街を歩いていく。以前は、七時前には家を出発していて、いつも一人で学校に行ってた。でも、今日はいつもより三十分程遅く出ていて、いとこと仲良く登校している。この時点でいつもと違う雰囲気となっていた。今日この日限りになるかもしれないけど⋯⋯
駅に着いてホームに向かう。人、そして電車の本数が多すぎる⋯⋯四国に住んでたときの最寄り駅は、一日四本、列車も一両編成だった。一方大阪では、駅の時刻表を見ると、最短三分で次の列車がやって来るらしく、電車の両数も多い。もうこの時点で頭が痛くなりそうだった。
「お姉ちゃんビビりすぎだって」
「ごめんね、でもこんなに人が多いのは初めてで」
「昔。お姉ちゃんが来た時は電車で梅田とか京都行ってたじゃん」
「あの時は昼間だったからだよ!こんな朝の時間帯は知らないよ!」
優愛ちゃんに呆れられつつ、私は電車に乗り込んだ。
電車に数分揺られて学校の最寄り駅に到着、電車から降りると同じ制服を着ている人達がたくさんいた。優愛ちゃんと色々話しながら私は正門に向かった。駅から歩いて三分くらいで学校に到着、私は職員室に行かないといけないので優愛ちゃんとはここでバイバイとなる。
「じゃあ優愛ちゃん、またね」
「うん!ていうか職員室の場所分かるの?」
「一応、この前お母さんと行ってるから大丈夫だよ」
「そっか!じゃあ困った事があったらいつでもラインしてね」
「分かったありがとう!」
私は一人で職員室に向かった。学校に来たらまず担任の先生を呼んで下さいと指示があったので先生を呼び出す。聞いた話によると、私のクラスの担任である先生は、学校中の生徒から人気があり相談にも乗ってくれる先生らしい。ノックしてドアを開ける。
「失礼します。二年三組の⋯⋯笹野です。大元先生いらっしゃいますか?」
かなり緊張した。ちょっと声が小さかった気もしたがすぐに先生がやってきた。
「お!転校生の笹野さんだね。初めまして、体育担当で担任の大元です。よろしくね」
「あ、はい⋯⋯お願いします」
「やっぱり緊張してるね〜。ゆっくり深呼吸してリラックスしよ、そうしたら楽になれるから。あと俺が持つクラスの生徒は、仲が良い子がほとんどだし気軽に話せると思うから安心して」
「そうなんですか、ありがとうございます」
なるほどこの先生は確かに優しそうなオーラがする。体格は大きく、かなり元気いっぱいそうではあるが、さっきみたいに優しく声掛けをしてくれていて常に生徒の事を考えてくれそうな感じがする。
そして私は、先生と一緒に教室に向かった。
「よし、じゃあ最初は俺が先に入るから呼んだら中に入ってきてね。大丈夫!ドキドキしすぎたら逆に緊張も増すからゆっくり深呼吸、そしてリラックス」
「はい。頑張ります!」
そう言うと、先生は先に教室に入っていった。教室からは嬉しそうな声があがった。そしてすぐに、私の紹介となった。先生に呼ばれて教室に入り、真ん中に立つ。
「高知の山奥から引っ越してきた笹野美奈です。よろしくお願いします」
いつもより低い声にはなったけど、噛まずになんとか言い切った。その後、すぐにクラスメイトからの暖かい拍手が巻き起こった。先生の言ってた通り、みんな明るく優しそうな生徒が多い感じがした。
その後先生から席に座るように言われた。私の席は真ん中の一番後ろ、酉島くんという男の子の隣席らしい。後ろに行くときにその子と目が合った。そのとき、ふと思った。この人、どこかで見たことあるような気がする。この髪型、シルエット、つい最近会ったことあるような気がする。そして、考えは的中することとなった。
「よろしく笹野さん」
酉島くんは挨拶をしてくれた。この声で思い出したと同時に確信した。彼は、私が春休みに店番をしてたときにやってきたお客さん、そして最後に私の体をジロジロ見てきたヤバい人だ。最初に会ったとき、「珍しく若い人が来たな、もしかして同い年とか?」と思ってはいたがまさか的中、そして転校先の学校に通っていたとは。
私はあの時のお客さん、いや彼に言いたいことが二つある。一つ目は文句、そしてもう一つは⋯⋯と、考えていたら前の席の女の子に声をかけられた。名前は此原さんというらしい。気付けば私と此原さんはずっと話していて、最終的に連絡先も交換するようになった。それと同時にこの学校に来て、初めての友達が出来た。明るくて話しやすい、先生の言ってた通りであった。
そして、クラス内での自己紹介タイムが始まった。ペアになってという指示があったので隣席の人と机をくっつける。隣の席。そう、酉島くんだ。ここであの時言いたかったことを言ってやる。まずは、先生から指示が入る。で、この時に右から謎の視線を感じた。横目にすると、彼の視線が若干こっちの体になっていることに気づく。なるほど、私の事がそんなに気になるのか。というか、そもそも彼は私の正体に気づいているのだろうか。どっちにしろこの後の自己紹介タイムで問い詰めてあげないとね。
説明が終わり、お互いの自己紹介タイムとなった。さっき先生が言ってた事をフル無視して問い詰める。さっき私のことをジロジロ見ていたよね、という私が気づいてないような質問からする。彼は一度だけ否定しながらも認めた。そして、私があの時出会った女の子だと分かる質問をする。
「三度目は無いからね?」
これを言った後、彼は私の正体に気がついたようだ。その後、言いたかった文句を一通り言ってやった。少しスッキリした私は、また彼に色々質問してみた。どうやら、彼も私と目が合ったときに薄々感づいたらしい。そして「にしても、こんな偶然あるんだね」的な会話をしつつ自己紹介タイムは終わった。
終礼が終わり、私は事務室に向かった。転校書類で確認したいことがあるらしい。事務員さんとやり取りをしていると、横から見慣れた人が来た。そう、酉島くんだ。どうやら学割証を受け取りにきたらしい。酉島くんが、それを受け取ったと同時に、私も書類の確認を終えた。というか、学割証って旅行するときに鉄道が安くなるやつだよね。もしかして酉島くんの趣味は旅行?私は彼を追いかけて少し聞いてみた。予想は的中で彼は旅行が大好きらしい。そして気付けば彼とずっと旅行の事で話をしていた。なぜなら私も旅行が大好きだからだ。しかも、彼と同じで知らない場所に行くのが好きということ。気づけばインスタも繋いでいた。まさか、この学校に転校して初めて異性と連絡先を交換した相手が酉島くんだとは思わなかった。
私は、彼と旅行の事について話しながら帰っていった。さらに驚きなのが、家の最寄り駅が彼と一緒ということだ。そのまま電車の中でも、ずっと旅行の話を共有していた。しかし忘れてはならないことがある。それは彼に言いたいことがもう一つだけあるということだ。それは文句でも嫌味でも怒りでもない。むしろその逆だ。せっかく、あの時来てくれたお客さん。そして滅多に現れない数少ないお客さん。そんな彼に、言いたかった言葉が一つだけある。
駅の改札を出る。最寄り駅は同じでも家の方向は違うらしい。言うタイミングは今しかない。私は彼を呼び止めてこういった。
「あの時はお店に来てくれてありがとう!嬉しかった!」
私が彼に言いたかった言葉、それは感謝である。私はその言葉を彼に届けてから振り向いて歩いていった。




