第二話 転校生はまさかの
「初めまして、高知の山奥から引っ越してきた『笹野美奈』です。よろしくお願いします」
笹野美奈。その名前はあの時、四国で会った少女の名前だ。同姓同名の可能性もあるが、高知の山奥から来たというのでその子でほぼ間違いないかもしれない。
「じゃあ笹野さんは酉島くんの横の席に座ってくれ」
その転校生。いや、笹野さんは俺の横にあった空席に座った。こちらに向かってくる途中に目があった。
「よろしく⋯笹野さん」
「酉島くんでしたっけ、よろしくね」
丁寧に挨拶してくれた。その声はあのときと全く同じだった。
「いいなあ酉島」
このような声が聞こえた。転校生の女子が横に来たら誰だって喜ぶのか。そんなことをふと思っていたら。
「笹野さんだよね?高知の山奥から来たって言ってたけどどんなところ?あ、自分は此原さくら。さくら呼びでいいよ!」
笹野さんの前の席に座っているさくらが質問をした。さくらは積極的に人に話にいくタイプで、一年の文化祭委員会も務めていた。いきなり転校生に馴れ馴れしく喋りかけにいく姿には尊敬だ。
「自然に溢れた良い町でしたよ。周りは山に囲まれていて、綺麗な川も流れていて大好きな所でした」
「すごー!でもそういうところって不便なイメージもあるけどどうなの?」
「確かに大阪と比べたらお店とか全然無いので不便ですけど、楽しさはありますよ。それに向こうでは家業である畑仕事もしていましたし」
「え!農業してたってすごいじゃん!何を育ててたの?」
「伊予柑とか文旦とかですね」
「すごーい。そういう事出来るの良いよねえ。あと全然敬語じゃなくていいからね!お互い仲良くやろ!」
「ありがとうござい⋯⋯ありがとうさくらちゃん!」
笹野さんが今日一明るい声を出した。というか、さくらのコミュ力がすごい。転校生に初日からあんなに接する事が出来るとかどうなってるんだ。そういや伊予柑や文旦を育てているって、やっぱあの時の子だなこれ。どうしよう、話かけるべきか。だが去り際にやらかしてるからな⋯⋯そう考えていると
「よし!せっかく新クラスになったし、まずはお互いの自己紹介をしないとだな。最初はペアの人同士でやるぞ」
大元先生の声が響いた。ペア、つまり笹野さんだった。お互い見合わせて少し近づく。身長が一回り小さい、髪はポニテではないが綺麗なショートヘア、スタイル抜群。完全にあの時出会った少女と同じだ。さらに、あのときはジャージ姿だったから何も思わなかったが、今回は真新しい制服に包まれており肌も綺麗、清楚漂う完璧な美少女だった。これは他の男子が羨ましがる理由も分かる。恋愛感情があまり湧かない俺からしても見とれてしまう。そんな笹野さんを見ていたら。
「酉島くん、どこ見てるの?」
「え、いや何も見てないけど⋯⋯」
「そっ。私の目が正しければ制服をガン見していたような気がするけど」
「⋯⋯すいません、見てました」
まずい。またやらかしてしまった。何かあったらすぐに凝視してしまうのが俺の悪い癖でもある。しかも同じ人に対してこれが二回目である。彼女の視線もどことなく冷たい。周りに人がいなければ、またこの前みたいな事になっていたのかもしれない。というか、彼女は俺があの時訪れた人だということを知っているのだろうか。そう思っていたら
「三回目は無いからね?」
「三回目って⋯⋯一回目はどこいったんだ」
「あれ?もしかして覚えてない?忘れたとは言わせないよ」
「もしかして、春休みのときの」
「正解」
やっぱりそうだ。やっぱりというか確定だ。隣の席に転校してきた笹野さんは、あの時四国で出会った少女だった。そしてその少女と最悪な別れ方をして、最悪な再会をしてしまった。これは謝らないとまずい⋯⋯
「久々のお客さんだと思ったのに、最後あんな風に見てくるとか最低ね」
「いやちょっと待ってくれ。あれは誤解で」
「なに?言い訳するなら聞いてあげるわよ?」
「なんでもないですごめんなさい」
「全く⋯⋯」
彼女はため息をつきながら少し笑った。あの時はほんとにそういうつもりはほぼ無かった。いつの間にか気がそっちに取られていたのだ。でもいきなり初対面の女子のジャージをガン見するとか⋯⋯最低だな。
「でもビックリした。転校先の学校、それも同じクラスの隣の席に、あの時のお客さんがいるとは思わなかった」
「自分もビックリしたよ。いつから気づいてた?」
「私がこの席に来る途中に目が合ったでしょ?そこで『もしかしてあのときの人?』って思って、その後の挨拶でもう完全に分かった。酉島くんは分からなかったの?」
「俺は自己紹介の時にちょっと思ったよ。でもまさかそんな偶然があるわけないよなって思ってたけど、さくらとの会話とか、あとその他で確証した感じ」
「その他って⋯⋯なるほどさっき私のことジロジロ見ていたのはそういうことね」
「違う違う違う!声とか雰囲気とかで!」
「ふーん。まあそういうことにしといてあげる」
笹野さんは笑いながらそう言った。信じてなさそうな反応だがあの時みたいに怒ってはいなさそうだから一安心だ。
その後、自己紹介タイムが終わり始業式が行われた。授業は翌週からスタートで、明日は学校検診、クラス写真撮影、委員会決めなど大忙しの日である。
「みんな!今日から一年間このクラスで頑張ろうな!じゃあ今日は解散!」
初日から元気があふれまくってる先生の声が教室に響き渡る。この日の学校は始業式のみで十二時前には解散となった。解散後に智光とさくらと少しだけ雑談してから教室を出た。このままロッカーへ向かう。と、その前に学割証明書をもらいに事務室に行く。事務室に行くと、どこかで見たことあるような生徒が事務員の人と話をしていた。そう、笹野さんだった。俺が来ると笹野さんはすぐに気づいた。
「え、酉島くん。なんで来たの?」
「ちょっと学割証を受け取りにね。笹野さんは?」
「私は転校時に必要だった書類を確認してるだけだけど」
なるほどそういうことか。確かに転校となると色々手続きとかは必要になるか。そう考えていたら事務員の人が
「あら酉島くん久しぶり!今回も学割証?」
「お久しぶりです〜。もちろん今回も学割証です」
「はいじゃあこれね。何回もあげてるし説明もいらないか」
事務員さんが笑いながら書類を渡してきた。この学校では一年の間に十回まで学割証を発行してもらうことが出来る。俺は去年の夏休みから春休みの間にその十回を全部使い切ってしまった。この学校で学割を使い切る人はほぼゼロらしいので事務員さんの間でも噂になってたらしい。
「じゃあ気を付けてね」
「はい、ありがとうございます!」
学割証を受け取り事務室の窓口を立ち去る。すると転校の手続きを終えた笹野さんがやってきた。
「学割証ってどこか行くの?」
「うん。GWに名古屋にでも行こうかなと思ってね」
「へぇ〜、酉島くんって旅行が好きなの?」
「大好きだよ。高校生になってバイトを始めてからは色々なところ行ってるからさ。でも友達で旅行好きっていう人がいないんだよねえ。新たな発見があっておもしろいんだけどね旅行って」
「そうだよね。旅行っておもしろいよね!行ったこと無い所で新たな発見とか出会いがあって」
「え!そうそう、そうだよな!知らない土地に踏み入れるときのワクワク感が最高だし。特に田舎だと都会では味わえない雰囲気とかあるし!ていうか、笹野さんも旅行好きなの?」
「まあね、旅行っていうよりかは知らない場所に行くのがすきなんだよね。その場所の雰囲気とかを感じたり景色を眺めたりするのが楽しくて」
気付けば彼女と旅行のことを語り合っていた。まさかこんなにも、俺と趣味が合うとは思わなかった。それにこんなに共感出来たのは彼女が初めてだった。
「酉島くん、よかったらインスタ繋がらない?旅行のこともっと一緒に話したいと思って」
「全然いいよ!自分も話してて楽しくなったしぜひ!」
それは突然だった。気付けば彼女とインスタを繋いでいた。最初、思いっきり怒らせた少女と繋がるとは思わなかった。お互いフォローリクエストを承認する。彼女のアイコンは、あの時買ったツヤがあって綺麗な橙色をしている伊予柑だった。俺達はそのまま旅行のことを語りながら帰路についた。そして驚きなのが、彼女と最寄りの駅が一緒だったということだ。だが駅からの帰り道は別々なのでここで解散となる。
「ねえねえ。また旅行のこと一緒に話してもいい?」
「もちろん。俺も共有とかしたいし」
「ありがとう!じゃあまた明日学校でね」
「うん、バイバイ」
「あ、ちょっとだけいい?」
「なんかあった?」
すると彼女は最後に目を輝かせながらこういった。
「あの時はお店に来てくれてありがとう!嬉しかった!」
そういうと彼女は振り向いて歩いていった。




