第一話 旅先での出会い
高校一年後期の期末テストが終わり三月となった。学校は受験による立ち入り禁止期間の関係で、三月の登校日が数えるほどしかなく、世間よりも一足早い春休みに突入した。
春休みが始まって約三週間後。俺はJRで大阪駅から三ノ宮に向かい、四国行きの高速バスに乗り込んだ。俺は一人旅行が大好きで、暇さえあれば大阪府から出て、地方部や神社仏閣などに足を運ぶ。そして今回は、以前から訪れてみたかった四国に行こうとした。
四時間ほど揺られて高知駅に到着。高知初上陸の私はやや興奮していた。ここから先は列車旅となる。特急列車に一時間程揺られ、窪川という駅に到着。ここからは今では珍しいトロッコ列車の旅となる。
列車は四万十川に沿って走っていく。トロッコ列車なので窓はない。その分気持ち良い風が、車内を透き通るように巡っていく。
「やっぱり田舎の景色は美しい。都会みたいな高層ビルも無いし雰囲気も落ち着くし良いなあ」
そんな事を頭の中で思いつつ、俺は流れていく景色をぼーっと見ていた。
四十五分程揺られて、江川崎という駅に到着した。この駅では三十分近く停まるので、せっかくならと改札の外に出て散策しようと考えた。
改札を出て左側に進むと小さな橋が見えてきた。景色を撮りたいと思った私は橋の真ん中でスマホのシャッターボタンを押した。山に囲まれた町と川。
「こういう所に住んでみたいなあ」
と、ボヤきつつ足を進めた。
通りに出ると小さな商店を発見した。その名は「笹野商店」 そこには、伊予柑や文旦といった、四国を代表する特産品が並んでる。気になった俺は店の中に入った。が、誰もいない。俺はとっさに、置いてあった伊予柑を手に取った。つやがあり、とても綺麗で濃い橙色をしている。そんな伊予柑を凝視していると⋯⋯
「何やってるんですか!」
後ろから女の人の大きい声がした。そこには身長が俺よりもやや低く、スタイル抜群で、綺麗な黒髪ポニーテールをしたどこか大人っぽい印象がある少女がいた。
「え?いやなんか綺麗な果物があったんで見とれてました〜」
さりげなく笑顔を作る。
「なんだそういうことでしたか!ここの果物は全部私達が作ってるんですよ。それに今年は綺麗に収穫出来たのでよかったです。お兄さんの持ってる伊予柑も今が旬で美味しいですよ」
そういや伊予柑や文旦って二月から三月が旬だったな。しかもこの大量の果物を全部一から育ててるのもすごい。地方だとこれが普通なんだろうが都会住みからしたら驚きだ。
「確かに二月から三月が旬でしたね。しかも色も綺麗だし⋯⋯これ買いたいです!」
すると少女は子供みたいに飛び跳ねて喜んだ。
「ありがとうございます!ほんとに売れる事があまりなかったのでとても嬉しいです!よかったらこっちも持っていって下さい!」
その子は重そうな段ボールを持ってきた。中にはみかんや文旦などが入った段ボールが入っていた。
「いやいやいや受け取れませんよこんなに!伊予柑三つ買っただけなのにこれは」
「全然大丈夫ですよ!どうせ売れることは無いので持っていって下さい」
どうしよう。目をキラキラさせながら「持っていけ」という圧をかけられている。持っていってもいいのだが量が多すぎて申し訳ない。というかこの大量の果物を持って、移動するのがしんどい。でもこんな上目遣いでアピールされたら困るし。あーどうしたらいいんだ!
「美奈〜?大声出してて何があったの⋯⋯ってお客さんじゃないの」
店の横に止まった車から大人の女性が出てきた。
「お母さんお帰りなさい!そうお客さん来たの!やっと売れるよ」
「ふ〜ん、よかったね。じゃあお母さんは部屋戻るからね」
「あ、うん⋯⋯」
どうやらこの子の母親らしい。だが、さっきまで天真爛漫で笑顔だった子の顔が一気に暗くなった。それにこの子の母親の反応も素っ気ない。そんな事を考えていたら俺に気づいたのか
「おっと、ごめんなさいね。まあこんなに押し付けたら迷惑ですよね」
「いや全然大丈夫ですよ。全部は流石にあれですけど半分くらいなら」
「半分でも全然嬉しいです!よかった〜」
もらうと言うと、少女の顔に笑顔が戻ってきた。私は段ボールの半分くらいの量の果物類をもらった。
「こんなにたくさんありがとうございます。ほんとこういう田舎っていいところですよね〜」
「そうですね。ほんとに⋯⋯いいところなんですけどね⋯⋯」
その子は視線を落としてさっきと同じ暗い表情になった。何かまずいことでも言ってしまったのだろうか。何か話を変えた方がいいか?そういやこの子の服って学校のジャージか? てか高校ってことは、もしかして俺の同学年か?ていうか何がとは言わないがデカい⋯⋯ジャージを見ている様子に気づいた彼女は
「ちょ、ちょっとどこ見てるんですか変態!通報しますよ!?」
「え!あ、いやごめんなさい!そういうつもりじゃなくて⋯⋯」
「なんでもいいから早くこれ持って帰ってください!」
完全にやらかした。そりゃ見ず知らずの男にガン見されたらブチギレるに決まってる。入店時は笑顔だったのに、退店時はブチギレられるとか何をやってるんだ。俺は大いに反省しながら駅へと戻っていった。そういえばあの子が何回か見せた暗い表情はなんだったんだ。
「いや人の事情を詮索するのはよろしくないな」
こう思いつつ俺は、江川崎駅から再び列車に乗り込んだ。果物と一緒に。
◆◆◆
あれから二週間後。進級して二年生の前期となった。俺は新クラスが書かれた掲示板を見上げた。
「よ!颯太!中学時代含めると三年連続一緒になったな。またワーク見せてくれよな」
「また智光と一緒かよ。今年は五回までしか貸さないからな」
こいつの名前は寺田智光、中学時代からの同級生で中三からずっと同じクラスだ。高校受験も共に乗り越えた一番の親友だ。
「ともくーん!今年も同じクラス嬉しいよー!」
「さくらも一緒か!まさかクラス一緒になるとは思わなかったわ」
「何?ともくんは、私と一緒のクラス嫌なの?」
「そんなわけないだろさくらちゃん」
「ちゃん付けやめて!?」
「おい二人共、朝からうるさい」
「颯太も一緒なの!?ともくん良かったね。ボッチにならなくて」
「うるせえ」
この女子の名前は此原さくら、去年の夏から智光と付き合っておりお互い溺愛している。いっつもうるさいのが難点だが。
「お前ら、イチャイチャせずにとっとと行くぞ」
「はーい」
俺たちは新クラスである二年三組に入った。席は一番後ろだった。俺の目の前には智光、斜め左前にはさくらがいる。出席番号順だから仕方ないが絶対うるさくなることは目に見えている。
「お前らうるさくしたら何も貸さねえからな」
「気をつけまーす」
なるほど絶対分かってないなこいつら。
「そういえばさくらの後ろって誰?」
「わかんない。噂によれば転校生が来るらしいよ?」
なるほど転校生か。確かにこの時期ならあり得るな。そう思っていたら先生がやってきた。担任は学年でも人気がある、体育担当の大元先生だった。軽く先生の自己紹介が挟まれると転校生の紹介が始まった。ドアが開いて生徒が入ってくる⋯⋯あれ?この顔と身長、髪は短くなってるが漂う雰囲気。そしてあの体つき。俺の春休みの記憶が蘇る。次の瞬間、それは決定的なものになった。
「高知の山奥から引っ越してきた『笹野美奈』です」
名前が一致している。嘘だろ、本当にあの子なのか?




