お酒は二十歳になってから
私の名前は志保谷エイ!
16歳の女の子!
その正体は魔法少女!
……なんだけど、そのような正体はどうでもよくて、正直今は16歳という年齢の方こそ重要なの。
「お酒が飲めないじゃん!」
青、黄色、桃色の髪(×2名)をした分身たちに向けて、私は涙声で主張する。
「あなたたちも『志保谷エイ』なら分かってるでしょ! 私がお酒大好きだって!」
そう。転生魔法を使う前、私は80歳の魔女だった。
その人生の75%は酒で構成されているといっても過言ではない。
20歳でお酒の美味しさを知って以来、私はお酒と共に人生を歩んできた。
転生時に20歳という年齢にこだわったのも、お酒との縁を繋ぎ続けるためだ。
それなのに。
「16歳じゃ困るよ! あと2年もお酒飲めないじゃん!」
私が叫ぶ。
すると黄色の髪の私――食欲の化身であるイエローが呆れた声を上げる。
「2年だとまだ18歳だよね。お酒は二十歳になってからだよ、オリジナル」
「そんなに待てないし……ちょっとくらい法律なんて破っちゃえば……」
「今のボクたちは魔法少女であって、無法少女ではないよ」
逸脱を口にする私に、諭すような物言いをしてくるイエロー。
ここで私は、彼女の一人称が「ボク」であることに一抹の興味を持った。
同じ私――志保谷エイであっても、分身たちに三大欲求を宿した関係から、単なる私のコピーではなく独立した人格を有しているようだ。
かくいう私も、80年の歳月を重ねた記憶がある割には、さっきから今の身体相応の言動をしている。
転生後の人格生成については、まだまだ考察の余地がありそう。
まぁ、割いた興味は一抹だけ。
私の興味は依然としてお酒にある。
「お酒のない生活なんて考えられない。お酒に溺れたい」
「あうう……オリジナルの目つきがヤバい……ブルーは心配……」
酒への未練を口にする私に対し、睡眠欲の権化である青髪の私、ブルーが気後れしたような声を上げる。
彼女の一人称は「ブルー」のようだけど、そんなことより今は酒の話だ。
「あらあらオリジナル、お酒に溺れるなんて、魔法少女らしくないわ♡」
「溺れるなら、あたしたちの身体に溺れて……ね♡」
濡れた目で、艶やかな声音で迫ってくる2名がいる。
私は凍った言葉を返す。
「黙ってなさいクソピンクども」
私を酒から引きはがした元凶にくれてやる優しい言葉の持ち合わせなんてない。
っていうか、2人の私が私を口説く構図が絵面的にヤバい。
そして酒が飲みたい。
酒を飲めない苛立ちを宿す目で私がにらみつけると、ピンクたちは双子のように息の揃ったコンビネーションで私を煽ってくる。
「あらあら心外。クソピンクだなんて♡」
「あたしたちは志保谷エイ――つまりあなた自身よ♡」
「違う……!」
否定したものの、私の必死さは目の前のピンクどもの態度を肥え太らせるだけ。
どうやらこの二人、嗜虐性癖があるようで。
私を煽る声には脂がのっている。極上の煽りボイスだ。
「違わないわぁ。志保谷エイが宿していた性欲、それがあたしたちだもの」
「自分の心から目を背けても、真実は変わらない。あなたもあたしたちもエイ」
「違う……っ‼ あなたたちなんか私じゃない!」
クスクス、と二人は笑う。
天使のような綺麗さで、悪魔のような残酷さで。
「汝は我、我は汝♡」
「汝哀れ、哀れ汝♡」
さんざん煽られ続けて、とうとう。
ブチっ!
私の堪忍袋の緒が爆発四散した。
もういい。お酒が飲めないのは分かった。
ならば何に酔えばいい?
……決まってる。血に酔えばいい。
久しぶりの現役復帰だ。
鈍った身体に活を入れないといけないし。
と、いうことで。
うっぷん晴らしに付き合ってもらおう。この場の全員に。
「……全員構えなさい。今から実戦形式のフルコンタクト魔法訓練をするわ。一人残らずぶちのめすから」
「……ボクも⁉」
「……ブルーも⁉」
この時ばかりは、眠そうな目をしていたブルーさえも目を見開いていた。
と、その時――
「✨!」
私のフリフリした魔法少女としての装い。
その胸に飾られていたブローチが、チカチカと点灯し始めたのだ。
数十年ぶりに煌めくブローチが、在りし日と同じように私に告げてくる。
――付近に魔物の出現あり。
――魔法少女の出撃を求む。




