性欲が計画を狂わせた
「失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した……」
私は今、頭を抱えて今生に絶望している。
私を絶望させたのは、ほかならぬ私自身たちだった。
☆☆☆☆☆
魔法少女として世に生れ落ち、町を狙う魔物と戦い続けた日々も今や遠い思い出。
私はとっくの昔に魔法少女としての限界の年齢を迎え、しかし稀有なことに、20歳になっても魔法の力を失わなかった。
世に住むこと20年にして、「魔女」を名乗った。
先達として、芽吹きの時を迎える魔法少女たちに戦い方を教えていった。
私の人生において、最もキラキラと輝いていた日々であった。
25年にして、明暗は表裏のごとく、日のあたる所にはきっと影が差すと悟った。
魔法少女たちを育てる日々が明るければこそ、魔物との戦いで教え子たちが傷つくと、私の心にも暗い影が差した。
それでも私もまだ若かったので、勢いに任せて日々を乗り切ることができた。
しかし30年にして、喜びの深き時は憂いもいよいよ深く、楽しみの大いなるほど苦しみも大きいことを悟った。
喜ばしい出会いの後には、必ず悲しい別れがある。
魔法少女を育てた先には、教え子を戦場に送り出す苦しみが待っている。
その事実を乗り切る勢いは、30を迎えた私にはなかった。
――20歳の頃に戻りたい。
出会いと別れの繰り返しに疲れ、当時の私はそう願った。
――全てのものが鮮やかに彩られていたあの日々に。
――辛いことも苦しいことも、勢いで乗り切れたあの日々に。
その願いの強さが、私の人生を大きく変えた。
私は魔法少女の育成から完全に引退して、以後の人生を「転生魔法」の研究に捧げたのだ。
そして、とうとう。
50年弱に及ぶ研究の果てに、私は「転生魔法」を完成させた。
私の生涯を賭した研究は成功したのだ!
老骨にむち打ち、私は魔力を練り上げる。
いよいよ戻れるのだ。
20歳の魔女に。
そして、魔法少女たちを全力で導けた輝ける日々に――
☆☆☆☆☆
「なのに、なんでこうなっちゃったかなぁ!」
若々しい声で私は叫ぶ。
その声音には、私が戻りたかった20歳の頃の落ち着きはなかった。
もっと色々とはっちゃけてた頃の――現役の魔法少女だった16歳の声だった。
そして。
「オリジナル、騒がしい……甘美な眠気がふきとんじゃう……ZZZ」
「ははは、ブルーってば、全然眠気が吹き飛んでいるようには見えないよ」
眼前では青い髪の私が眠そうな声で呟いていて。
黄色い髪の私が、屈託のない笑顔で笑っている。
いや、この2名の存在は私の計算内の出来事だから、別にいいのだ。
問題は残りの2名だ。
「なんでピンクが2人もいるのよ! おかげで20歳への転生が失敗して、みんな16歳になっちゃったじゃない!」
私の計画を台無しにした元凶どもに指を突きつける。
そう。
私の予定では、4人に分身するつもりだったのだ。
私が世に生まれて過ごした80年の時間。
それを「無かったこと」にはできない。
それは世界の改変そのものであり、私の魔法力をもってしても不可能だ。
つまり、単純な「若返り」はできなかった。
だから私は、80年の日々を分割することを思いついた。
私という1人の魔女が過ごした80年という時間。
それを4人の私が過ごした20年へと転嫁させる。
80=20×4は正しい。だから私の考えも正しい。
数学的にはケチのつけようがない、完璧な魔法理論だと自負している。
問題があったのは、私自身を増やすという点についてだ。
私の心の力――魂というべきものまで4分割されてしまえば、行動力とか情熱が弱弱しい私が産まれてしまう。これでは転生する甲斐がない。
だけど私はこの問題を、私を突き動かす強烈な衝動――睡眠欲・食欲・性欲の三大欲求を分身たちにそれぞれ宿らせることで、カバーできることを解明した。
改めて考えても、私の魔法理論は完璧であった。
間違いがあったとするなら、理論ではなく私自身の内面だろう。
だって、なんかおかしいもん!
性欲を宿らせた私――ピンクが2人いるんだもん!
これだと私が5人になるから、80年÷5=16年……みんな16歳になるもん!
「20歳じゃなきゃ困るのにーっ! どうして勝手に増えたのよーっ!」
燃えるような赤毛を掻きむしりながら私が吼える。
すると桃色の髪をした双子のような2名は、私と同じ顔を見合わせあって、そして私に向き直って言うのだ。
「「それは、オリジナルが常人以上に性欲が強かったからよ♡」」
……ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
認めないからな私はぁぁぁぁぁぁぁっ‼




