もう失敗の許されないカンパネ
マティスの正体であるカンパネは、ローデシエンシス村での戦いのあと、鋼鉄の守護者を離れていた。
今は再び王城で大臣として勤めている。
「ふぅ~。やっぱりあの騒がしいのはわたくしには合いませんね」
私室で紅茶を飲んで一息吐いていた。
今までの人生で一度も無かった経験を少し懐かしく思い出してしまう。
「まぁ、姫様と一緒にいられた時間だけはイストの奴に感謝ですがね」
そのとき、耳の通信蟲が反応した。
カンパネはビクッとしたあとに、おずおずと口を開いた。
「ご、ご機嫌よう。どなたですかな……?」
「カンパネ・ロラよ」
「ひっ、蟲魔王様!?」
その声はカンパネが最も恐れている蟲魔国最強の存在だった。
心臓の鼓動が早くなってしまう。
「潜入の報告はまだか?」
「そ、それはですねぇ~……」
カンパネは迷った。
ここですべてを報告したら、間違いなく鋼鉄の守護者のメンバーは問題視されて殺されるだろう。
だが、よく考えればカンパネは元から敵なのでそんなことを考える必要もない。
「潜入はですねぇ~……」
それでも彼らと過ごした楽しい日々を思い出してしまう。
「申し訳ございません!! 失敗してしまいました!!」
「ほう、潜入しか能の無い貴様がそれすらも失敗したか」
何を言ってしまったのだろうと思った。
蟲魔王の機嫌を損ねれば、まさしく虫けらを踏みつぶすかのように処分されるだろう。
鋼鉄の守護者に対してそんな義理は無い。
レイリ姫にしても、国の立場からして利用価値があるとでも進言すれば彼女だけは助けてもらうこともできるだろう。
(わたくしは何故、あんな奴らをかばってしまったのだあああああああ!?)
「無能には死を」
「ひぃぃいいい!!」
「だが、今までヒューランド人王国に潜入を続けてきたという功績もある。一度だけチャンスをやろう」
「は、はい!! チャンスさえあれば何だって致します!!」
「竜魔国の姫ウリエル・ボリス・バハムートに手を貸して、ヒューランド人王国を蹂躙せよ」
「承知致しました!!」
そこでもう言うべき事はないとばかりに、ブツンと通信が一方的に切られた。
カンパネは生き残れたことに安堵したが、その内容を思い出して反芻する。
「ウリエル……ウリエルですってぇ!?」




