王城で愛の告白
ヒューランド人王国にある王城の一室、そこにイストたちは集まっていた。
「なぁ、人間の身体って肉料理だよな」
「何を言っているのよ、イスト……。元から変なところはあったけど、ついにそこまで頭が……カニバリズムに走るなんて……」
隣に座っているアルプスが変なモノを見る眼をしてきている。
「いや、食わねぇよ。人間の身体は普遍的に好まれるモノで、肉料理と似ているなと思っただけだ。肉料理っていくら食べても飽きないし」
「それはそれで下品じゃない? 女の子の身体をそんな風に思ってたんだ……」
「普遍的だって言ったろ。こっちの世界には肉体美を表現する裸婦像とか、男神の筋肉彫刻とかないのかよ」
「ああ、そういう……やっと理解したわ。バカと天才は紙一重すぎる思考で時間がかかったわよ。……というか、何で急にそんな話を?」
イストは機魔族――というかグラウ・グスタフのことを思い出していたのだ。
「グラウ・グスタフたちにとっては、身体は普遍的な肉料理じゃないんだろうなって思っただけだ」
「どういうことよ?」
「アイツらにとっては、身体は自由に変更できるモノだ。だから、普遍的なのは身体じゃない。そこにある行動方針……プログラム……魂とかなんじゃないかなってな」
グラウ・グスタフは村人を機械に変えてしまって残酷だと思われていたが、彼らの価値観からすると身体を変えるのは普通のことなのだ。
そう考えると、グラウ・グスタフは村人に対してそれなりに優遇された扱いをしていたのかもしれない。
アイゼンシルトの兄である、アイゼンファウストは数十人の冒険者を囮として爆死させようとしていた対比もある。
「村人たちは身体は機械にされていたが、誰一人殺されはしていなかった。いつか、人間に近い身体を用意してやることもできるかもな。アイゼンシルトのボディという見本もあるし」
「そうね、生きていれば何とかなるわ。死んだら終わりだもの」
「さて、そのためにモンスター防具の研究をしなきゃな!! 帰ろう!」
イストは良い笑顔でそう言って、スッと立ち上がって出口へと向かおうとした。
それを兵士たちが塞いだ。
「王との謁見があるので、しばしお待ちください」
「チッ、良い雰囲気にして逃げられたらと思ったが……」
「…………イスト、その行動の成功確率は0%です。略して愚行。」
「アイゼンシルト、何か逃げ出せる手段はないか? すごく嫌な予感しかしない」
アイゼンシルトは普段の無表情から、若干のジト目になった。
「…………今逃げ出せても、後々面倒なことになる可能性が100%です。嫌がらずに王との謁見を推奨します」
「いやだああああああ!! いつの間にか結婚相手の父親が王様みたいな、身に覚えが一つもないシチュエーションは嫌ダアアアアアア!!!!」
「えーっと、睡眠の魔術でっと……」
「Zzz……」
イストは即眠り、アルプスに支えられた。
「イストって防具作りはすごいけど、本人はザコで助かるわ……」
***
「イスト、起きて。イスト」
「うーん……ムニャムニャ……もう夕方五時のロボアニメの時間か……」
「何を言っているのかわからないけど、王様がもう目の前にいるわよ」
イストは目を擦ってから、夢から覚めて現実を直視した。
少し離れた場所の玉座に座るライリオン王。
どうやらここは城の王の間らしい。
ちなみにイストは片膝を突いた状態で、後ろからアイゼンシルトにガッシリと掴まれていて動けない。逃げられない。
「え、えーっと……ご機嫌いかがですか、王様。それじゃあ、お忙しそうなので……」
「あぁ!?」
ライリオン王はドスをきかせた声で眼光を輝かせていた。
マフィアかヤクザのボスにしか見えない。
しばらくすると、コホンと咳払いをして穏やかな表情になる。
「鋼鉄の守護者諸君、此度のこと誠に大儀であった。筆舌に尽くしがたい感謝の意をここに送ろうぞ」
「ど、どうも……よかった。怒ってはいな――」
「それとこれとは話が別だ!! うちの娘と勝手に結婚してヒューランドを名乗るとは何事だこのダボハゼ野郎が!!」
「完全に王様の口調を捨ててブチ切れている……」
鬼のモンスターがいたらこんな感じだろう、という形相だ。
娘可愛さのためにモンスターじみている。
このまま襲ってくるなら、もうモンスター素材にするしかない。
「パパ、この国の救世主に向かってなんて口の利き方をするっしょ」
そこへレイリが助けに入ってくれた。
今日はアーチャー装備ではなく、お姫様らしいドレスで玉座の横にいる。
「し、しかしだなレイリ……娘のお前のことが心配で……」
「大丈夫。イストっちはあーしのことが世界で一番好きで、とーっても大事にしてくれてるから。ね? イストっち?」
レイリがウィンクをバチバチと送ってきている。
「いや、ただのモンスター防具の実験体Dだが?」
「うちの娘を実験体だと!? 許せん今すぐ殴り殺す!!」
「あっ、やべ。つい普段通りに言ってしまった……」
どっちもどっちの図で、周囲の目は冷たかった。
一分ほどクールタイムを挟んでから話を再開させる。
「俺はモンスター素材で色々作ってみたい。レイリは完成したモンスター防具を使って世界を救いたい。そういう利害関係で、別に結婚や婚約をしたつもりはない。……以前、そこにいるカンパネ大臣が勝手に婚約と婚約破棄をしてきたけどな」
後ろに控えていたカンパネは気まずそうに眼を逸らした。
ちなみに関係ないがマティスはあれから見かけていない。
「では、どうしてヒューランドを名乗ったのだ?」
「イストって名前だけだと不便だからって、レイリがヒューランドを使えば良いと提案してきたんだ。ヒューランドに転移したのだから、名乗るのにも丁度良いと。それが王族の証とは知らなかったからな」
「なるほど……。では、イスト殿はレイリと結婚する気は無いと?」
「ない」
「ふふふ、そうかそうか。これは失礼した」
ライリオン王は、すっかりパパの顔になってしまっている。
こういう王家の娘というのは政略結婚の道具として使われるパターンが多いので、娘を大事にするタイプの王というのは珍しい気がする。
いや、そもそも、他の国が魔国だらけなので政略結婚が通用しないという時代背景もありそうだ。
「えっ、あーしはイストと結婚してもいいと思ってるよ」
「ぶほっ!? レイリ、何を言い出すんだ!?」
一国の王が派手に噴き出したが、イストも同じ気持ちだった。
「ほら、打算的に考えて、こんなすごい技術を持つ人は王家に取り込んだ方がいいっしょ?」
「べ、別にレイリが自らを犠牲にする必要はないのだぞ……?」
「それに、あーしの夢を肯定してくれてイストっちビッグラブだし」
レイリは軽めの口調だが、頬を染めて表情は真剣そのものだ。
ライリオン王は激怒した。
「ゆっ、許さぁーん!!」
「……アイゼンシルトに抑え付けられてなかったら、確実に逃げ出してたぞ……この場から……。なぁ、ウリエル? って、いないな」
何やら悪い方に勘が働いた。




