最強盾と列車砲
まだ主砲から煙が出ている最中の列車砲が走ってきて、変形して十機人――列車砲子爵グラウ・グスタフになった。
四メートルの巨大な身体で腕を組みながら見下ろしてきている。
「随分と数を揃えたようだな、人王国ヒューランド風情が。……さて、全員の相手をしてやるぜ? かかってきな」
王国軍は怯え、鋼鉄の守護者ギルドメンバーも自分たちでは勝てないと感じながらも身を奮い立たせようと構えていた。
しかし、その一番前にいた、一番小さなアイゼンシルトが言った。
「…………一対一で決闘をしませんか? 十機人製造ナンバー2、グラウ・グスタフ」
「いいだろう、雑魚とやり合ってもつまらねぇしな」
アイゼンシルトは、あろうことか敵であるグラウ・グスタフに背を向け、人間側に向かって喋る。
「…………ということです、人類の皆さん。離れていてください」
「おいおい、アタシに背を向けるなんて舐めたマネを……」
「貴方は超長距離砲撃はしても、目の前にいる敵の背中は撃たない方ですから」
「チッ。早く散れ、人間共。そして勝利するアタシの武勇伝でも弱虫共に伝えな」
周囲も言われたとおりに行動し、二人の周囲には誰もいなくなった。
そこには小さなアイゼンシルトと、巨大なグラウ・グスタフがいるだけだ。
「やっぱりアンタのその小さい姿は今でも見慣れねぇな」
「そうですか? 当機は気に入っていますよ」
「昔のアンタを……十機人製造ナンバー9――赤龍王女アイゼンシルトを忘れられねぇよ」
***
当時、まだグラウ・グスタフは戦闘用のボディではなく、作業機械に近い身体をしていた。
その割に性格は今と変わらなかったので白黒付けるときは議論ではなく、喧嘩で決めることも多かった。
そんなグラウ・グスタフが憧れる存在がいた。
機魔国で最強の戦闘能力を有すると噂の十機人製造ナンバー9、赤龍王女アイゼンシルトだ。
天を突くような巨大な赤いボディを持ち、常に闘争を求める狂気の機体。
自分もいつか、ああなりたいという願望から今の列車砲子爵のボディに換装した。
旧型機でありながら努力が実り、実力を認められて十機人入りを果たした。
孤高の存在であったアイゼンシルトからは相手にされなかったが、逆にそれが格好良いと思っていた。
憧れの相手。
いつしか彼女と対等に――家族になりたいと思うようになった。
兄妹機であるアイゼンファウストと結婚をすれば、自動的にアイゼンシルトの家族になれるので猛アタックしているが、これは今に至るまで成果を出せていない。
そんな充実した日々だったが――突然、アイゼンシルトがいなくなった。
詳細はわからないが、人間に鹵獲されて改造されてしまったというのだ。
機魔国にとっては信じられないくらい屈辱だ。
次に出会った時のアイゼンシルトは人間の味方をして、無様な小さい姿を晒していた。
グラウ・グスタフは悟った。
もう好きだったアイゼンシルトは、憧れだった存在はいない。
あまりの悲しみからオイルの涙を流しそうだったが、その絶望から逃避するためにアイゼンシルトのことを忘れる事にしたのだ。
――だが、つい最近アイゼンファウストがアイゼンシルトと関わっていると聞いて情動が徐々に蘇ってきてしまう。
***
「アイゼンシルトォォォオオオ!! やっぱり今の無様な姿は見ていられねぇ!! せめてもの情けだ、跡形もなくぶっ潰してやるぜ!!」
「…………グラウ・グスタフ。相変わらず乱暴ですね」
「そういうアンタは随分とお上品な喋り方になっちまったなぁ!! いちいち思考時間を入れてよぉ!!」
グラウ・グスタフは全力で突進してきた。
主砲も副砲も使わないで、ただ砂ぼこりを巻き上げながらフルスロットルだ。
まるで遠くなってしまった憧れの存在に感情をぶつけるかのように、鋼鉄の巨体を激突させる。
火花散り、耳をつんざく重厚な金属音が響き渡る。
明らかに体格差があるアイゼンシルトが吹き飛ばされたかと思ったが――。
「なっ!?」
「…………今の十機人はその程度ですか?」
「舐めんじゃねぇ!!」
グラウ・グスタフは挑発に乗り、重機のような腕部でパンチを連打した。
アイゼンシルトは盾で防ぎビクともせず、一歩も引かない。
「な、なんでだ……」
グラウ・グスタフは冷静に戻り、よく観察した。
すると、アイゼンシルトの脚部パーツから杭が地面に打ち込まれて固定されていたのだ。
これがイストが用意した秘密兵器の一つである。
重量の軽いアイゼンシルトが十全に防御をこなすために、地面に杭を打ち込むことによって身体を固定して、どんな攻撃でも受け止められ続ける。
「チッ、小ざかしい!! そんなら動けないまま弾で破砕されちまいな!!」
グラウ・グスタフはアイゼンシルトを盾ごと破壊するために後ろにゆっくり下がってから、背中の主砲と腕の副砲両方を構えた。
「破片は拾ってアイゼンファウストのところに届けてやるぜぇぇぇえええ!! フォイアーッ!!」
主砲の巨大な砲弾、副砲の連射によって破壊の嵐がもたらされる。
周囲は爆風、爆煙が渦巻き、そこに乱射が撃ち込まれた。
遠目から見ていた鋼鉄の守護者メンバーたちも「い、いくらアイゼンシルトさんでもアレじゃあ……」「ダメだ、耐えられるはずがない……」と口々にしていた。
その中でイストだけは眠そうに「ふわぁ~あ」アクビをしていた。
「は、ははは……やった、やったぞ……あの赤龍女王アイゼンシルトを……アタシがこの手で……破壊してやった……」
グラウ・グスタフの頬から一筋の黒い液体が流れ落ちていた。
「これはオイルだ……ただのオイル漏れだ……。アタシは今喜びの感情がAIに流れているはずなんだ……。それなのに……どうしてまたアンタに会いたいと願っちまうんだ!! なんでアタシを置いて行った!! アイゼンシルト!!」
「…………星喰らいの製造者である機魔女王より、改造者の博士を選んだだけです。人間風に言えば親ガチャというらしいです」
「なっ!?」
砂ぼこりが晴れると、そこには無傷のアイゼンシルトが立っていた。
イストが作ったツインシールドが主砲と副砲を完全に防いでいたのだ。
「カッカッカ!! そうだよなぁ!! アタシの最愛のアイゼンシルトがこれくらいで倒れるはずがねぇ!! だが、今のお前のボディは硬くても攻撃力がない!! アンタの負けだ!!」
嬉しそうに笑うグラウ・グスタフは列車砲へと変形して、線路のない地面に車輪を走らせた。
「全力で当たって、テメェごと砕けてやるぜ!!」
「…………マスター。リミッター解除の承認を」
イストは事前に言われていたのだ。
もし、必要になったらAIにかかっているロボット三原則を外す許可を出してくれと。
その場合は人類の敵になる可能性もあるので、アイゼンシルトのマスターとなったイストにしか外せないという。
非常にリスクが大きい選択だが――。
「よし、承認するアイゼンシルト! 理由は……リミッター解除は浪漫だからだ!!」
相変わらず意味の分からないイストであった。
そんなことは気にせず、グラウ・グスタフは全速力で特攻していく。
「ついでにコイツも喰らいな!!」
主砲と副砲も同時に狙いを定め――発射した。
アイゼンシルトに命中するかと思われたが。
「なにッ!?」
すでにそこには何もいなかった。
空を穿つだけの弾は虚しく背後に着弾し、その影響で大きな影を作った。
光の中に佇む巨大な形。
「ああ……まだそこにいたんだな……アイゼンシルト……」
グラウ・グスタフは笑みを浮かべ確信した。
もう負けていると。
「敵機、破壊――完了」
ステルスを解いたアイゼンシルトは一瞬にしてグラウ・グスタフに密着していた。
機械鎧のほとんどを切り離ししていて、残っているのはシールドの根元に付けられたパイルバンカー二本のみ。
それはすでにグラウ・グスタフを貫いていた。
「マスター、次の破壊対象の指示を要請します」
アイゼンシルトの眼は爛々と赤く輝いていた。
「バーカ。スーパーロボットっていうのは弱き人々を守るためにあんだよ」
「…………リミッター解除終了。やはり当機は今の方が好ましく思います」




