敗北確定の王国軍
一方その頃、ローデシエンシス村。
村人を改造した作業機械ではなく、戦闘に特化した機魔国モンスターたちが配置されていた。
「本当はアタシ一人で充分だけど、人質のレイリだけ持ち逃げされる可能性もあるからな。それに人間が来たら殺さずに拘束するのも任せられる。人間は労力に改造できるからな」
機魔国の指揮官としてグラウ・グスタフは広く見据えながら言った。
横にいるレイリは当たり前の疑問を聞いてしまう。
「これだけ知能が高ければ、戦わずに済む道があるはずっしょ……。地母神様の神託よりも――」
「アタシは神託なんてどーでもいいよ」
「じゃあ、なんでこんな酷いことを!?」
「なんでって言われてもなぁ……。都合の良い家畜がいたら、お前ら人間だって使うだろ? 馬車を引かせたり、毛を刈ったり、食べたりしてさ。それが酷いってんなら、神託がない時代からやってるお前らは、希代の悪魔か何かか?」
「そ、それは……でも、あーしとアナタはお互いに話せるし! それに労力なら自分のところで生み出せばいいっしょ! 機械は量産できるって聞いたことある!」
グラウ・グスタフはグイッとレイリを引き寄せて、片腕で抱き締めるように距離を縮めた。
「アタシがレイリと話しているのは特別、普通の人間には興味ねぇよ。それに知能ある機魔族は……家族はこれ以上は増えねぇ」
「ど、どういうこと?」
「アイゼンシルト……アイツが原因さ。十機人最強の型式番号9。破壊者。機魔王ロート・フロッテの後継機だったっつーのに、今じゃ見る陰もないガラクタ」
「アイっちが……?」
「アタシも昔は憧れたもんさ、あの言葉すら不要の狂気に。まぁ、今のアイツじゃここに来る気概すらなくなっているかもしれねぇけどな」
グラウ・グスタフは豪快にカッカッカと笑い飛ばした。
すると村の見張りをしていた機魔族モンスターから電子音による通信が入る。
「お、どうやら来たようだぜ。お姫様を助けに来た、アイゼンシルトたちがな。……いや、変だな? 同じ人間だが形が違う。これはヒューランドの王国軍か? しかも王様が直々に来ているだと?」
「パパが!?」
「レイリが捕まっていることを知らせる使いを何機か出したが、それ経由か? 別に王殺しの指示は受けてないが……まぁ向こうから来ちまったのなら止める筋合いもねぇな」
「止めて!! 普通の装備のパパたちが勝てるはずない!!」
「普通の装備……やっぱり、前に戦った人間たちの装備は特別製か。たぶん伝説級か何かだったんだろうけど、それもアタシがぶっ壊しちまったしなぁ! カッカッカ! 諦めな!」
「そんな……」
グラウ・グスタフは、レイリの髪をグイッと掴んで吐息がかかる距離まで顔を近づけた。
「これはレイリが始めたことなんじゃねぇのかよ? いつもの王国軍ってのは勝てないとわかっていて攻め入ってはこなかった。だけど、レイリが扇動して焚き付けたんだ」
「……わ……たしの……せい……?」
「死にかけの狼みてぇに、こういう破れかぶれの死地に飛び込んでくるのは嫌いじゃないぜ。むしろ大好物だ」
この戦いは人類側が敗北するのは確定している。
目の前の一戦だけではなく、全体での話だ。
どうやっても種族差がある敵には勝てない。
(唯一の希望であった、あの御方……イスト様も両腕をグラウ・グスタフに欠損させられたと聞きましたわ……。もう……人類はお終いですわ……。もうどうやっても無駄……。人々が安心して仲良く暮らせる世界なんて、やっぱり夢……)
「おいおい、そんな顔するなよ。アタシの可愛いレイリ。まだ線路を作らせたいから、生かして拘束するように指示してあるんだぜ? 優しいだろ? アタシに惚れるか? アイツらも、お前も、機械の身体に生まれ変わらせてやるからよ」
そして、王国軍と機魔族モンスターたちの戦いが始まった。
王国軍の数は500程。
装備は冒険者たちよりは上等だが、それはただの鉄の鎧や兜だ。
ベテラン達はほぼ生き残ってはいない。
数も少なく新兵、文官などの寄せ集めだ。
それでも自国の姫が冒険者の真似事をしてまで強大な相手に挑み、捕まったということで王の心に火を付けてしまったのだ。
今まで諦めていて防戦をしていたのに、いつも会議を踊らせていたカンパネもいないので、一矢報いるために最後の戦いとばかりに王国軍も賛同した。
立派な髭を蓄えたライリオン・フォトン・ヒューランド王は喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。
「この一戦、地に伏し死に絶えても、人間と言う種族の行いは地母神マザーバビロンの記憶に残されるだろう!! その誉れさえあれば良い、誇りを持って命の輝きを見せるぞ!!」
『オォオオオオオオオオオオッ!!』
呼応するように響く勝ち鬨。
一方で村から出てきたのは、黒い機魔族モンスターだ。
数はたったの数十機。
しかし、一機一機は巨大だ。
ゴリラのような体型をした三メートルほどの機械で、上半身が異常に大きい。
手は繊細に五本指となっていて、人間を拘束するためのモノだろう。
「地母神マザーバビロンの加護はこちらにあり!! 行くぞぉぉおおおッ!!」
王が指示を出し、両軍が激突した。
いや、激突とすらいえない蹂躙だった。
王国軍の剣は、機械の身体には歯が立たない。
弾かれて、傷一つ付けられないのだ。
「くそッ!! 離せ……離せえええええ!!」
人類はわかっていたはずだ。
どうやっても勝てない、最初から詰んでいる戦い。
それでも最後の最後で意地を見せたくて、敗北確定の戦いに挑んだ。
だが、児戯だと言わんばかりにヒョイッと掴まれ、拘束されていく。
人間はただの収穫される家畜なのだと、嫌でも分からされる。
それを遠くから見ていたグラウ・グスタフは上機嫌で笑い、レイリは顔を掴まれて目を逸らすことすら出来ない。
「カッカッカ!! 最後の悪あがきってのは、いじらしいねぇ!! 雑魚種族が、最強の身体を持つ機魔族に立ち向かおうとする無謀さ、ゾクゾクしちまうぜぇ!!」
「あ、あああ……止めるっしょ……やめて……やめてください……」
「レイリぃ、最初のお前はもっと骨のある感じだったけど、たかだか一人の腕を吹き飛ばしたって話をしてから随分としおらしくなっちまったなぁ。そいつがそんなに大切だったのかよ?」
「わたくしの婚約者で、世界の希望でした……。ですが、それも……」
「世界の希望? たかだか人間一人に大げさだぜぇ? 人間種族が何かできるはずなんてねぇからなぁ!!」
丁度、ライリオン王が機魔族モンスターに拘束されようとしているところだ。
人王国ヒューランド陥落のとき――と思われた瞬間。
「お義父さんには手を出させませんよ!!」
無敵と思われた機魔族モンスターが刃によって斬り裂かれていた。
それをやったのはモンスター装備を身につけたマティスとユーダイだった。
「お、お主たちはいったい……!?」
「マティスさん、変な第一声は止めてくださいよ……。ライリオン王、失礼致しました。俺たちはレイリ姫様と一緒のギルドメンバー〝鋼鉄の守護者〟です。ローデシエンシス村を――俺の故郷の村を取り返しに来ました」
その背後には数十人の一騎当千のギルドメンバーたちがいた。




