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モンスターを鎧にする仕事  作者: タック
第二章

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守れなかった男、攫われた女

「ふぅ~。普段はそこまで風呂をありがたいとは思わないが、今だけは極楽だな」


 全裸のイストは身体を洗ってもらってから、くっつけた腕の部分をお湯につけないようにして湯船に浸かっていた。

 見た目的には傷痕がうっすらと見えるくらいになっているので平気だと思うが、アルプスが言うには表皮が大丈夫そうでも慎重にした方がいいということらしい。


「いや~、お供がむさ苦しいおっさん二人ですみませんね」

「わたくしはまだお兄さんでいけますぞ!?」


 横にはユーダイとマティスも一緒に全裸で湯船に浸かっているので、いきなり立ちくらみを起こしたり、気絶してしまっても安心だ。

 ちなみに身体を洗ってくれたのもこの二人である。


「女と風呂っていうのも色々と大変だと思うぞ……」

「おっ、イストさん。色男の発言ですねぇ」

「も、もしかして姫様とも!?」


 ニコニコしているユーダイと、余裕のない必死の形相のマティス。

 二人は正反対の存在だが、どこか息があっているような気もする。


「混浴はしてないが、採寸で裸を見るだけで面倒くさい事になるからな……。その点、同性だと楽だ」

「も、もしかして姫様ではなく、このマティスを狙って!?」

「んなわけあるか」

「マティスさんって、女性にはモテないタイプですよね? 顔は良いのに性格が」


 ユーダイはなぜか、マティスに辛辣な気がする。

 しばらく湯船で温まり、無言の時間が続く。

 これは険悪なムードなどではなく、野郎同士だと何も言わなくても別に良いだろうという空気になるためだ。

 リラックスしてきて、ユーダイが一言ポツリと呟く。


「レイリさんが攫われちゃってるのに、俺らこんなことしていて良いんですかね」

「そ、そうだ!! わたくしたちは一刻も早く姫様を助けに行かねば!!」


 バシャッと湯船から急に立ち上がるマティス。

 マティスのマティスが、イストの顔の前にあって見えてしまっている。


「まぁ、落ち着け。生かす利用価値があるから、その場で殺すのを止めたんだろう。あの〝十機人の列車砲子爵〟とかいうふざけた肩書きのグラウ・グスタフって機械巨女は」

「たしかに生かしておかないと人質の意味がありませんからね。狙っているアイゼンシルトさんがやってくるまでは無事でしょう、今のところ向こうが急かしてもきませんし」

「ぐぬぬ……たしかに姫様は無事だと願いたい……。しかし、アレに勝てるのか!? 十機人なんだぞ!?」


 十機人と言われてもピンとこない。


「それってなんなんだ? 俺はこっちのことはわからん」

「よいですか? ジクスジードルン機魔国は、頂天の機魔王ロート・フロッテを中心に、副官を務める十機人なるものが存在しているのですよ。その一機がグラウ・グスタフ……クラスは子爵で実力は下の方のはずなのにあの強さ……」


 いきなり情報が出過ぎたので、わかりやすい言葉で置き換えることにした。


「奴は四天王の中でも最弱……ってことか」

「逆にこっちの人間からしたら意味がわかりません」

「まぁ、その最弱でも死ぬほど強くて、それが十機もいるって無理ゲーじゃね? 十機人全部に待ち伏せされてたら終わりだろ」

「そこは一枚岩ではなく、機魔王に忠誠を誓っている十機人ですが仲は良くなく、むしろ自分だけが高性能機だとアピールしたいらしくて、単独行動が多いみたいですねぇ」


 たしかに監獄ヤドカリの時にもいたアイゼンファウストとか言う十機人も一機だけだった。

 現代の組織基準で考えたらおかしいが、こちらの世界ではそれが普通なのだろう。


「あー、そうか。強い奴が魔王になるみたいな魔国制度のせいか。馬鹿げた制度のおかげで助かったな」

「うっ」

「どうした、マティス。急に胃の部分を抑えて。トイレならちゃんと外でしてこいよ」

「い、いえ。何でもありませんよぉ……ハハハ……」


 何かマティスは隠し事をしているような気がするので、念のためにあとでアルプスに精霊眼で見てもらった方が良いかもしれない。


「まぁ、相手が単体ならやりようもある。実際に戦って色々とわかったしな。風呂で暖まって寝て、明日身体が本調子に戻ったらリベンジマッチの準備だ」


 イストは明日からの作業計画を着々と組み立てているのであった。

 一方、マティスは真剣な表情で考えごとをしていた


(愛する姫様……どうか、今は耐え忍んでください……このマティスが絶対にお助けします……。たとえ敵であるイストに力を貸してでも……この命に懸けて……!!)




 ***




 ――一方その頃、機魔国に占領されて線路を作らされているローデシエンシス村。

 その牧歌的な村に似つかぬ鋼鉄の頑丈そうな建物が立てられていた。

 そこに監禁されているレイリと、面会に来ているグラウ・グスタフ。


「人王国の姫、何か不自由はしてないかい?」

「ええ、食事や寝るところ、お風呂まで世話をしてもらっているけど……服は欲しいっしょ」

「別に服を着ないと体調を崩す温度でもねぇし、良いだろ」


 全裸のレイリは手で大事な部分を隠しているが、羞恥心で顔を真っ赤にしてしまっている。


「そういうことじゃなくて、あーしが恥ずかしい!」

「んなこと言ってもよぉ、服があると何か隠しておけるし、布で自決もできる。それに――」


 グラウ・グスタフはその巨体とは対称的な小さなペンを取り出した。


「どうやって手術して、従順な作業機械に仕上げるか想像しやすいだろう?」


 フタをキュポンッと取り、ペン先でレイリの身体に点線を付けていく。

 それは切り取り線のようだった。

 太もも、脇、鳩尾、頭部。

 本当にそれが必要な線かどうかは、愉悦の表情をしているグラウ・グスタフを見てもわからない。


「んぅっ!?」

「カッカッカ! 人間の肌ってのは柔くて敏感だなぁ! 早くこっち側に来いよ! お前は気に入ったから特別良いボディを与えてやるよ!」

「あいにく、アンタみたいに鉄さび臭い身体はゴメンっしょ。スキンケアをしても無駄そうだし」

「あん……?」


 グラウ・グスタフは凶悪そうな笑顔を見せた。


「ますます気に入ったぜ」


 巨女は身体をかがめて、レイリの頬をペロリと舐めた。


「あーあ、早く人間の奴らが来てくれないかなぁ。そしたらぶっ殺して終わりで楽なのに。面倒くせーなー。当機は列車砲だから、先にぶっ飛ばすのが得意なんだよ。あんまり遅かったら……発破でもかけに行くか……」

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