アルプスVS監獄ヤドカリ
後書きで重要なお願いがあります。
ご協力をお願い致します。
――そもそも、あたしは戦うことが得意では無いのよ。
それはアイゼンシルトが出発したあとのことだ。
アルプスはそう言ったものの、何か覚悟を決めていたようだ。
イストは突貫作業でアルプスの防具を作っていく。
裁縫を教えてもらいながら、リッチ素材をローブへと仕上げていく。
今回は加工で乾かしたりと言った時間がかかるものはないので、単純に作業のスピード勝負になる。
大部分はリッチ布のローブで、ただひたすらに縫っていく。
「っつぅ! また針で指を刺しちまった」
「イスト、まだ慣れてないのに急ぎすぎるからよ……」
「大丈夫だ、指を指す回数が減って速度が上がってきている」
手が痛々しいことになっているが、それでもイストの驚異的な集中力によって作業のスピードがかなり速まってきた。
「すごい、もうあたしを超えるくらいに……」
「裁縫も意外と楽しいもんだな。あとは装飾品と、事前に作っておいたバイザーを取り付けて……」
「完成!?」
「太ももスリットを作れば完成」
アルプスは呆れた表情をしてしまった。
「いや、それは作らなくてもよくない? ただでさえ急いでいるのよ……」
「ダメだ、たぶんこれをキチッと作らないと強い防具にならない。俺にはわかる……!」
「はいはい……作るのはイストだから任せるわよ」
「でも、どうして戦う気になったんだ? 戦うことが得意じゃないんだろ?」
「それは……ヒミツ」
「まぁ、装備を着てくれるならどうでもいいけどな。ほい、完成。それじゃ行くぞ」
「えっ、今回はイストも行くの?」
「リアルなスーパーロボットの戦い……俺も見たい……!!」
***
ウリエルに運ばれる、イストとアルプス。
戦いの場に到着したときには、アイゼンシルトが大ピンチに陥っていた。
「風の精霊よ、その広がる伊吹を我に授け給え――〝エアー・バリスタ〟!」
間一髪、体積が大きくて風の影響を受けやすい監獄ヤドカリが空中で吹き飛ばされ、その落下軌道をアイゼンシルトからズラすことに成功した。
戦闘を担当するアルプスとウリエルは監獄ヤドカリの前に着地。
後方見学のイストはアイゼンシルトのところに降り立った。
「アイゼンシルトは手脚が外れている以外は、まだ平気そうだ。こっちは気にせずにやれ」
「わかったわ!」
「アルプスさん、私は前衛で囮に徹します。あとは任せました」
「お前が本日の主役だ、アルプス!」
アルプスはコクリと頷いた。
この場で一番強いのはウリエルだが、監獄ヤドカリの特性的に魔術が使えるアルプスが頑張らなければならない。
新しい防具――キルケーの精霊衣を身に纏う。
白を基調としたリッチ素材のローブで、宝飾品やルーン文字で彩られている。
このブースト効果により先ほどの上級魔術を撃つことも可能となっていた。
そして一番特徴的なのは――。
「特徴的なのは長い切れ込みが入ったスリットだろうか、胸はそんなに無いが太ももはそれなりにあるので良い感じに見えている。胸がなければ太ももと尻で攻めるのはデザインの鉄則だ」
「イスト、勝手に割り込んでこないでよ……。しかもサイテーだし。特徴的なのはこっちでしょ、精霊眼のバイザー!」
アルプスの金髪ロングを覆うように付けられた大型のバイザー。
これがあるために、ただの魔道士風のローブではなく、かなり異質な見た目となっている。
そんなアルプスたちを見た、監獄ヤドカリに閉じ込められている冒険者たちは叫ぶ。
「に、逃げろあんたたち!!」
「そうだ!! オレたち冒険者が束になっても敵わない相手だぞ!!」
「いや、でも……すげぇ魔術で監獄ヤドカリを吹き飛ばしてアイゼンシルトさんを助けたぞ」
「それなら、もしかして倒せるのか!?」
「監獄ヤドカリは物理攻撃で爆発する……もうオレたちごと……ひと思いにやってくれ……!!」
アルプスは初めての戦いだ。
しかも、自分だけではなく、冒険者たちの命がかかった戦い。
緊張で身がすくんでしまう。
(また……下手をしたら冒険者が死んでしまう……。死んだら、あの人たちの家族は……)
悪い方に想像力が働き、自分のような不幸な人間が増えるのだと思ってしまう。
今はウリエルが敵を引きつけているが、それもいつまで持つか分からない。
息苦しい、考えがまとまらない、体と心が重い。
そのとき、イストが真剣な声で言ってきた。
「やめろ……!! 絶対に爆発させるな……!!」
「イスト……あんた冒険者たちのことを……」
「素材が台無しになる!! 絶対に爆発させずに倒せよ、アルプス!!」
「うわぁ……さすがにドン引きだわ……。やるけどさぁ……」
アルプスは気が抜けてしまい、ネガティブな思考から解き放たれた。
自分よりダメな人間がいるというのに安心させられたのかもしれない。
眼前を見据える。
敵は巨大な監獄ヤドカリ、物理攻撃で爆発して、背負っている監獄にいる冒険者を巻き込む。
そのため、倒す手段は魔術らしい。
どうする? イチかバチかで適当な魔術を撃ってみるか?
実戦経験の勘というものがゼロで判断が難しい。
「……そもそも、私は戦うことが得意ではないのよ。ずっと家の中にいた本の虫だし、陰キャだし……精霊眼も怖がられるし……お姉ちゃんがいないと……」
「何をブツブツ言ってるんだ、アルプス。お前は戦いに向いてるだろ」
「え?」
「そりゃ実際にやることも大事だが、知識ってやつも大事だぞ。魔術師なら特に本からの知識が武器になってるもんだろ。あの部屋にいるお姉さんを安心させてやれ、新しいお前の活躍でな」
「……うん!」
吹っ切れた。
もう怖くない。
「バイザーオープン――世界を綴れ、精霊眼」
「な、なんだありゃあ!?」
「あの眼は!? あの装備は!?」
精霊眼を隠していたバイザーが二つに割れ、展開し、耳当てのようなアンテナとなった。
虹色の眼がすべてを観察する。
(精霊達の動き、魔力の流れ……もう一つの世界が見える)
知識、情報は武器だ。
そもそも敵が何を感知して爆発するのか。
物理攻撃で爆発して、魔術では爆発しないという条件。
本当に魔力ならば爆発しないのか?
いや、物理攻撃だって魔力強化しているケースも多い。
そこでふと思い出した。
以前、本でこの監獄ヤドカリに似たようなモンスターを見たことがある。
ある程度の物理攻撃では自爆せず、致命傷を与えるような物理攻撃で爆発した事例があったはずだ。
そこでさらに思い出した。
かなりマイナーな本に、風魔術の衝撃波でも爆発したというケースがあったのだ。
思わず怖気立ってしまう。
(さっき風魔術を当ててしまった……危なかった……。けど、今回は爆発しなかった……。つまりは魔術なら大丈夫だと勘違いされているだけで、本当は致命傷になるくらいの衝撃を与えると爆発する?)
そう仮定すると、もっと近い距離で風魔術を放っていたら爆発していた可能性もあった、危なかった。
次にどの部位を攻撃するかだ。
念には念を入れて安全策を採りたい。
爆発しないような攻撃で、爆発しないような部位を攻撃して確実に仕留める。
普通のヤドカリは図鑑で内部構造まで知っている。
家となる殻を背負っている姿がよく知られているが、その中は一本のヘビのような身体をしているのだ。
それを内部に巻き付けるように押さえて、殻を固定している。
このモンスターの場合は殻の代わりに監獄だが、構造的には似たようなものだろう。
精霊眼で隠れている部分も見えているので間違いない。
その監獄と、出ている部分の境目ギリギリに命の輝きが見える、そこを壊せば停止するのだろう。
プランは構築された。
「ごめんなさい、アルプスさん! そっちに監獄ヤドカリが行きます!!」
「ありがとう、ウーちゃん。でも、もう大丈夫。守られる側から、今度は戦う側に回るから」
小さいアルプスとは比較にならないほど、巨大な監獄ヤドカリが迫ってくる。
大きさで言えば踏みつぶすのなど容易いだろう。
だが、この勝負は大きさで決まるのではない。
装備、知識だ――アルプスの方が強い。
「ルーン、フルブースト……。そこにいる火と光の精霊……お願い……力を貸して……!! 混じれ、輝け、飛べ――〝轟炎極光の弾指〟」
それは熱を帯びた光の細い柱――いわゆるレーザーのようになった。
肉眼では追えない程の超高速で伸び、金属で守られているはずの監獄ヤドカリの表面を容易く貫き、遙か遠くの山まで穿っていた。
瞬殺。
だが、まだ緊張は続く。
これで爆発してしまえば終わりだ。
監獄ヤドカリは命を失い、ゆっくりと倒れ込む。
しばらくしても爆発はしなかった。
「うおおおおおお!?」
「マジかよ!? あの監獄ヤドカリを一瞬で倒しちまった!! しかも爆発させずに!!」
「信じらんねぇ……!!」
冒険者たちの声が聞こえて、アルプスは勝利したという実感が湧いて一気に力が抜けてしまった。
(こんなあたしでも、少しは本に出てくる人みたいになれたかな……)
そのままバランス感覚を失って倒れそうになったのだが――。
「よくやったな」
イストが支えてくれていた。
面白い!
続きが気になる……。
作者がんばれー。
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<(_ _)>ぺこり




