第318話 未遂
翔子や紗矢香との関係回復にホッとしたのも束の間、シェアハウスでもまた事件が起こる。
シェアハウスの夕飯時の風景
「全員揃ったか……揃っとらん! ももはどこにいるんだ!」
七瀬が辺りを見渡す。
「ナナちゃん、ももちゃんは今日は帰りが遅くなるって言ってなかった?」
食卓をバンと叩き一言。
「私は何も聞いとらん!」
ひなは聞いているはずと詰め寄るも、七瀬は知らぬ存ぜぬ。
「まあ、いいじゃない。春風くん、お腹空いたよね?」
「はい」
「じゃあ、ナナちゃん、よろしくね」
「くそ、ももの奴……まあいい、それでは感謝の気持ちを述べるとしよう」
と言って七瀬は口上を述べる。
「大切な仲間たちとこうやって食卓を囲める喜びと、多くの食材をいただけることを神に感謝します。いただきます」
「いただきます」
皆は手を合わせて、声を合わせて感謝した。
これがここの食事の儀式か。
神か。
郷にいるから郷には従いますが、これは七瀬さんの信仰が影響してるのかな?
「七瀬さんは敬虔なクリスチャンですか?」
と春風は口に出してみた。
七瀬は目を瞑りこう話した。
「私はキリスト教でも仏教でもない、神道信仰者だ」
「神道?」
「お主は仏教か?」
えっ?
困った。
信仰なんてない。
言うなれば、にわか信徒で、困った時の神頼み。
「僕に信仰はありません」
と言うべきだよね。
「もう、食事が冷めちゃうから早く食べましょう」
ひなが声をかけたら、みなは食べ始めた。
「今日のデミハンバーグはいかが?」
「美味しいよ」
「美味しいです」
「これは最高じゃのう、ひなよ」
ほんと七瀬さんは殿様ですか?
——団欒の中、夕食は終わり、就寝後の午前零時——
春風は先生から罰としてもらった文集表紙のデザインを考えていたら、こんな時間になっていたことに気づいた。
「あーあ、僕ってデザインのセンスが全然ないよなぁ」
取組んではいたのだが、その割に時間だけが過ぎていたと言うよくありがちな状況に精魂尽き果てた。
疲れがドッと押し寄せて来たため、就寝前のトイレを済ませ部屋に戻ろうとしたところで、暗闇のリビングのソファーあたりで物音がすることに気づいた。
「誰かいますか?」
返事はないがソファーが軋むような音がするため、持っていたスマホのライトを頼りに恐る恐る近寄る。
「えっ、ももさん?」
「まぶしいよ」
とももの言葉にライトを消そうとした瞬間、腕を引き寄せられて春風はももの上に覆い被さった。
「うわぁ」
春風の身体を抱きしめるようにももは両手を廻した。
春風は両手で身体を持ち上げる体勢を取れず、ももの身体に乗り上げた。
「春風くんね」
「ももさん、お酒飲んでますよね」
「ちょっとね」
「手を離してもらってもいいですか?」
「うふふ……ダーメ」
これは酒癖が悪いのか、
イタズラなのか、
わからないが、
「うわー」
「チュッ」
やべえ!
これは酒癖悪しだ!
なんとかせねば。
「ねぇ、春風くん」
と暗闇でももが少し落ち着いた声色に変わり、春風に問いかけた。
「はい、何でしょうか?」
「私って魅力ないのかな?」
えっ、
なんでこうなるの?
「いや、そんなことは……」
胸の柔らかい感触を前に必死で腰を浮かせる僕に、その言葉は悪魔的遊戯じゃないですか。
「いいのよ、春風くん、私を抱いても……」
そ、そんなこと言われたら……って、
「ももさん、ももさん」
あら、寝てしまわれたよ。
まぁ、助かったんだよな? 僕。
とその時、部屋の電気がついた。
「キャー」
と誰かの叫び声に、集まるシェアハウスの面々。
ひなが春風に声をかけた。
「未遂だった?」
未遂?
「ももちゃん、お酒飲むと男女見境なく誘ってくるのよ」
なるほど、
そうでしたか。
「未遂でしたよ、純真潔白な未遂です」
でも、
あの誘い、
ヤバかったな。
もし寝落ちしなかったら、ほんとに危険な情事だったかもね。
神さま、ありがとうございます。
七瀬 あんたまたやらかしたらしいね!
もも えっ、また何か?
ひな 凄かったよ。ももちゃんの誘惑。
春風 本当、凄かったですよ。
もも キャー恥ずかしい!
七瀬 次回はワシのセクシー回じゃ!
ひな そんなのある訳ないじゃない!
春風 それでは次回の講釈で。
七瀬 ワシのお株を奪いやがってよ!




