第317話 姉は姉らしく! 彼女は彼女らしく!
「翔子さん?」
春風はしょげっ面で立ち止まり、翔子と目を合わせた。
紗矢香と何かあったみたいね。
「ちょっと付き合いなさいよ」
と春風の手を引きながら、翔子は休憩室に連れ入った。
しばらくの沈黙を破り翔子が話し出した。
「あのさ……こんなんだっけ?」
と両手をぺダルのように回しながらジェスチャーをして見せたあと、春風が「自転車?」と答えると、翔子は嬉しそうに続けて話し出した。
「見たよ! えっと何だったかな? 箱根スカイラル? だっけ?」
スパイラルだよ。
「育成選手になったんだもんね、トライアルレースで頑張ったんだね、凄いよ」
翔子さん、知ってたんだ。
「さすが我が弟だね。自慢したくなるよ」
「翔子さん、そこまで言われると、なんか照れを超えて恥ずかしいよ」
翔子は春風を思いっきり抱きしめて、静かにこう呟いた。
「ずっと言えてなかったけど、私の中のキミへの想いは、キミが生まれた時から、そしてここで再開した時も、それから今に至るまでずっと、キミのことを変わらず愛おしく思っているよ」
「……姉さん」
「やっと姉さんって呼んでくれた。嬉しい……」
と翔子の目から大粒の涙が頬を伝って落ちた。
「……翔子さんにここであった時からずっと姉さんじゃないかって思ってたし、姉弟関係を結んでからもそう思っていたよ」
「そんなんだね、血のつながりって、凄い絆だね」
「ほんとにね」
「キミがね、鎌倉学院に進学することを知って、嬉しすぎて出会う三日くらい前から夜眠れなかったことを思い出すよ」
「えっ、そうだったの?」
「父さんとの約束で、姉であることを隠して近づくしかなかったけど、それでも嬉しかったんだよ。もう会えないはずの弟に会えたんだから……」
「でも僕が鎌倉に来たことは自分自身で決めたこと。けれども、これは運命の導きだったんだね」
「そうよ。そしてこれは父の導きでもあったんじゃないかな?」
「ん? どう言うこと?」
「鎌倉に春風が進学することで、私が見守りやすくなると言うことよ」
「えっ? じゃあ僕が自ら選んだ進学先は、父さんが仕組んだ筋書きだったってこと……まさか?」
「まぁ、そう言うことなんだよ」
と抱きついたまま呟いた姉の肩を掴んで引き離し、僕はこう言った。
「訳がわからないよ。説明してよね!」
翔子は春風を椅子に座らせた。
「じゃあ、一問一答形式で謎解きをしましょうか?」
それって、この間読んだ推理小説に出てくるヤナギタイチみたいな切り込みなんですけど。
「肩の力を抜いて、さぁ答えてくれ!」
ヤナギタイチじゃん、そのセリフ。
「ではお願いします。ヤナギタイチさん」
「……ええ? バレてたんだ」
「朱鷺谷先生の愛読家ですから」
「好きな小説まで同じなんだね、驚いたよ」
「ほんとね」
気がつけば、僕らはいつものふたりに戻っていた。
「では始めるよ、と言いたいけれど、バイト時間が始まっちゃうから、この謎解きはまたの機会にお預けよ」
いけず。
「あっ、じゃ最後に一つだけ」
「何?」
「トライアルのこととか、よく分かったね。知らないかと思った」
「それはね……紗矢香が教えてくれたんだ」
「紗矢香さんが?」
「そう、とっても喜んでたよ」
うそ?
そんなはずない。
だったらさ、
一言あってもいいんじゃないか?
「彼女から何も聞けてないよ」
「今ね、彼女、九月末にある全日本に向けて全集中してるはずなのにここに来てたから、そのことの方が驚きなんだけどな?」
そんなこと聞けてない。
僕に対する気遣い?
練習時間を削ってまで僕に会いに来たんだ。
……なんで気づけないダメな奴なんだ、僕ってのは。
「じゃあ行くね」
「うん」
与えられていたんだ。
気づけずゴメン。
紗矢香。
ありがとう。
そして頑張れ、
紗矢香。
紗矢香 人にはいろんな想いがある。
春風 わかる。
翔子 人にはいろんな願いがある。
春風 そうだね。
美涼 だから人って愛おしいんだよ。
春風 思想的ですね、美鈴さん。
東堂満 次回、シェアハウスで会いましょう!
春風 次回のタイトルコール、凄い出世だね。
東堂満 俺の願いは本編登場なんじゃ、ボケ!




