第311話 炸裂
ゲルニカ訪問から一夜明け、何やらシェアハウス内は混沌としているようであります。
本日は月曜日
「おはようございます」
昨日の疲れはなんのその、スッキリとした顔をした春風がリビングに現れた。
「おはようございます!」
すると朝食の準備をしていたひな、もも、こころの三人が春風の傍に集まり、
「お目覚めですか? ご主人様」
と三人は声を合わせて満面の笑みを見せた。
そしておせっかいなメイドの如く春風に迫る。
「昨日はみなみちゃんとどちらへ行かれたのですか? ご主人様」
な、何?
これは?
ご主人様って、
ふざけてる?
「私たちに言えないことをしちゃったんではありませんか? ご主人様」
なんと、
畳みかけるように、
いや、
ある意味これは尋問?
にこやかな笑顔の裏側は、
興味本位のカシマシ娘か?
「ふたりはもうやることをやっちゃったのですか? ご主人様」
おいおい。
―そう言うゲセな作風にするなや、カシマシ娘さん!
ご主人様と語尾につければ、
そんなことまでサラリと言えちゃうのか?
―化物語の語尾に勇気と付ければポジティブになるアレと同じこと?
「あの……」
と春風が何かを話しかけたその時、その一部始終を見ていた七瀬が高笑う。
「おめぇらよ、何だ? その糾弾のやり口は? あはは……笑けるわ!」
これは糾弾?
だったのか?
とその時モヤついていた空気を切り裂いて、
「おはよう、春風!」
とみなみがリビングに入るなり、冷蔵庫を開け、ペットボトルの水をクッと飲み干した。
それを見た春風が声をかけた。
「みなみさん、昨日はいい経験ができました。ありがとう」
その掛け合いを聞いて驚いたメイド風情の三人のうち、一人だけ険しい表情になったのは、ももであった。
「春風」と呼び捨てたこと。
ポロリと春風の口から溢れた「いい経験を」と言う意味深なフレーズ。
私がみなみ先輩に先を越された?
「やいやいやい、川崎みなみ!」
と混沌としたリビングの空気を更に切り裂くように、七瀬が片目を瞑りながら、みなみを手招きした。
「な、何でしょうか?」
みなみは七瀬が示唆する意図を汲めぬまま、食卓の席に向き合うように座った。
そして七瀬が話し始めた。
「早乙女氏は未成年、つまりだ、我ら成人には手本となるべき品位というものがなくてはならん!」
七瀬さんの表現は、いつも分かりにくくて……聞き直しちゃおうかな?
「手本と品位とは、一体どう言うことを指すのでしょうか?」
七瀬は咳払いを一つしたあと、その意味を、ちょうど朝食を配膳しにそばに来たひなに無茶振りした。
これにひなが応えた。
「ナナちゃんの言いたかったのはね、多分、早乙女くんは未成年であり異性なんだから、馴れ馴れしい呼び方をすることで、セクハラ行為と誤解を受けることになりかねないから、成人である私たちは呼び名においても一定の距離をおくべきだ。だから早乙女くんと敬称をつけて呼びなさい、と言ってるんじゃないかな?」
そ、そういうことなんだ。
七瀬はひなの注釈に頷いたあと、テーブルに肘を突き、みなみを指差しながらこう言った。
「親しき中にも礼儀があることを、我々が身をもって示さずして誰が示すんだ?」
三人衆は首を縦にふっているのか?
何だろう?
この光景は?
「春風」と呼ばれることは当人には問題ない、いや、むしろこの環境に溶け込めたと感じられる嬉しささえ覚える。
春風はみなみの隣にスッと座り込み、こう告げた。
「あの、春風と呼び捨ててもらっても構いませんし、むしろ嬉しいかも……」
その瞬間、七瀬と三人衆は顔つきを変えた。
「い、いいのか? 早乙女……奴隷呼ばわりして?」
七瀬はまた何かを勘違いしたかのようなリアクションを起こした。
「ナナちゃん、認識がまったく違うよ。呼び捨てイコール奴隷じゃないんだから。春風くんは親しみを込めて呼び捨てで良いと言っているのよ、わかった?」
ひなはそう叫んだ。
「そっ、そう言う意味であったのか。いや、すまんすまん。ご主人様願望でなくて奴隷願望があるものだと……つい勘違いをしてしまったようだ」
―相沢七瀬の感覚は、まさにオッサン級を超えた奇人変人級と言えよう。
「ねえ、春風?」
突然背後から忍び寄ったももが、春風の肩首辺りにその豊満な胸を吸い付けるように立ち、おねだりをするように春風の顔を覗き込んだ。
七瀬 俺は世が世ならジャンヌダルクなのだ!
中町 戦国乙女の織田信長風なのでは?
春風 南町奉行の金さんかと?
七瀬 おうおう、好き勝手言いやがって!
こころ やっぱり金さんだね。
ひな そうね、北条政子かしら?
みなみ 次回「狼煙」をお楽しみに!
もも これからは私が主役なんだらね! 覚悟しなさい!




