第310話 ゲルニカ 後編
ゲルニカに到着した春風とみなみは、眞露に連れられ箱根スパイラル選手の見学に行くことに。
そこでのふたりが見たものは。
川崎さんの企画説明は無事終わり、ホッとひと息ついたところで、待ち侘びていたかのように眞露さんが僕に声をかけた。
「せっかくゲルニカに来たのだから、十文字部長、彼らにも日本トップクラス選手たちの練習風景を見学してもらってはいかがでしょう?」
眞露はふたりの気持ちを察したかのような言葉を集めて部長に打診をかけた。
「トップ選手の個別メニューは非公開であるが、まあ、そうだな、全体練習くらいなら問題はなかろうかな? 眞露くんよ」
「ありがとうございます」
と眞露は部長に頭を下げたあと、ふたりを連れて会議室をあとにした。
四階観覧席
ふたりが案内されたのは、二階バンクを一望できる四階に設けられたトレーニングルーム内にある観覧席であった。
「今日の練習メニューについてだが、この時間帯はハンデレースをやっている」
ハンデレース?
何のハンデなのか?
「眞露さん、ハンデレースって……どんなハンデなんでしょうか?」
春風はバンクで走る選手を見ている眞露に問いかけた。
眞露は練習を見ながら、何やら全体の構成について語り始めた。
「ハンデとは、四〇〇mバンクを五周、つまり二キロを、ギア十二枚、或いは十三枚の選手を相手に、五枚のギアで組まれたスプロケバイクで戦うこと。ラップ毎の順位と最終順位で争うポイントレースをしているんだ」
「じゃあ、今五枚のバイクは鹿島さんですね?」
「その通りだ、早乙女くん。アイツは超ワイドレシオのあのバイクに乗っていても、必ず勝負に絡む走りができるセンスと勝負感、それを可能にしている緩急自在なケイデンスを持ち合わせている、まさに天才肌の選手なんだ」
「鹿島さん、凄いですよ、あの走りは!」
とみなみが驚くも、春風はもう一つ眞露にためしに聞いた。
「ギア比はどんな設定なんですか?」
「いい質問だ。確か、クランクギア(ペダルギア)ギアは44T(Tは歯の数)、リアスプロケ(後輪のギアの重なり)は28T、21T、17T、14T、11Tだったかな」
「えっ!」
その時何かに気づいたかのように声を挙げたのは、みなみの方であった。
「勝負どころのトップギア比が4.0って……しかもギアを上げる度に、ギア比を0.6とか0.7ずつ上げるって、過酷過ぎませんか? 足のこと考えたら、レースでのギアの展開はは0.4が限界じゃないかと……」
春風はみなみのギア比に対する知識に感服した。
「そう言うものなんですか?」
と聞いてしまった春風であった。
眞露はふたりの質問に対してこう答えた。
「みなみさんの言う通り、勝ち負けが目的とするならば、超ワイドレシオな五枚しかないギア変の酷使は、足に危険な負担がかかり過ぎる、そうですよね?」
「ええ、そうだと……」
とみなみは眞露の話を肯定した。
「では、ふたりに質問します。ギアの役割とは何であるか、教えてもらっても良いですか?」
ギアの役割?
すべての道を快適に走るための装置だ。
いや、競技では快適ではない、早く走るための装置だ。
そして春風が口火を切ろうとした瞬間、みなみが先に声を上げた。
「ケイデンスを維持するための役割ですか?」
この返答に、眞露の顔つきが柔らかくなった。
「そのとおり、ケイデンスを終始維持しながら走れるための装置だ。よく気がついたね」
「ありがとうございます」
なんか気分が高揚する。
ケイデンスか……。
確かに、環境は変われど、ケイデンスを変えずに走ることが大切なことだとわかっていたはずだが……。
「ギアが少ないバイクでの頼みはやはりケイデンスであり、レースの展開に応じたギアの最適で効果的な選択の瞬間を身体に刻み込ませるために、まずは環境に応じた己自身のケイデンスを限界値まで引き出す訓練をしているんだ」
眞露の解説に声を失い、ふたりは自転車の奥の深さを感じ取った。
一方、会議室では……
「ところで川崎さん」
「はい、何でしょう?」
十文字部長は先ほど見せられた湘南ライドの企画書について川崎氏に再度質問をされた。
「次回大会の箱根・湘南ライドを、富士・箱根・湘南ライドとして開催すると言う話ですが」
「ええ」
「富士山の山開きが、確か五月ではなかったかと」
「そうですね」
「開催時期に問題はないのでしょうか?」
「そこは山開き直前の開催、或いは以後開催を、静岡の自転車競技連盟と調整していく予定です」
「そうですか……この大会も地方大会から日本のビッグレースに変わる訳ですね」
「ええ」
「我が箱根スパイラルにとっても、この大会がビッグレースに格上げされることは喜ぶべきこと。実現に向けて頑張りましょう」
とふたりは握手を交わした。
ゲルニカ駐車場
「パパ、私たち自転車で帰るから。ねっ、春風くん!」
「は、はい、なんか走りたい気分です」
浩市はちゃっちゃと車輪を組み上げるふたりを見ながら、
「なんか、熱いじゃないのふたりとも……」
「みなみさん、行きますよ」
「ええ、準備OKよ」
「川崎さん、今日はいい刺激を頂きました。では」
と言いペダルを踏み込んだ。
「パパ、今日はいろいろとありがとう」
とみなみはウインクを一つしたあと、ゲルニカを去って行った。
「みなみの青春か……ふたりはお似合いなカップルに見えるけど、実際はどうなのか? もし、みなみが春風くんと結ばれたら、間違いなくロード界のサラブレッドが生まれるんだろうな。ふふっ、楽しみ楽しみ!」
浩市は笑みを浮かべ、バンに乗り込み、湘南ライドの未来に熱い気持ちを馳せながら、ゲルニカをあとにした。
眞露 お前はやはり凄い男だ! 鹿島!
鹿島 お前に言われたかないね!
春風 ふたりとも僕の憧れです。
鹿島 だったら俺を主役にしてもええだろが!
眞露 図に乗るな、鹿島!
鹿島 ひぇ〜!
春風 次回タイトルは未定だけど、
チャンネルはそのままで!
鹿島 古くっせー! テレビじゃねえしよ!
眞露 モブはモブらしくしておくんだな、鹿島!
鹿島 ひぇー!




