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男も女も湘南ライドで恋を語る勿れ!  作者: 三ツ沢中町
第十章 新たな物語の始まり
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第308話 パパと春風と時々みなみ

江ノ島に着いてまもなくある一本の電話が入った。

ふたりはその電話で新たな事実を知ることになる。


 箱根スパイラルの本拠地へ

 

 江ノ島から周遊するサイクリングコースをふたりで話していたところに、一本の電話が春風のスマホに入った。


「あ、もしもし川崎だけど」

「ご無沙汰してます」

「自転車乗ってるかい?」

「もちろんですとも」


 ……電話の相手、誰なのかな?

 春風の傍でみなみは首を傾げている。


「箱根スパイラルのホームページ見たよ。育成選手になったんだ、おめでとう!」

「あっ、ありがとうございます」

「ところでさ、今、時間あるかい?」

「今、時間ですか?」


 そう聞かれた春風は、すぐ傍で会話に耳をそばだてているみなみが、首を縦に振っているのがチラッと見えた。


「えっ、まぁ、あると言えばあるような……」


 再び横目で見たみなみはどこか淋しそうな顔つきで、旅ゆく海鳥を眺めている……そんな感じに僕の目に映り込んだ。


「あぁ、実はだね、このあと箱根のゲルニカ……キミは知ってるよね?」

「あ、はい」

「そちらにお邪魔して湘南ライド実行委員会の企画参加のお願いに伺うんだが、キミも一緒にどうだい? 箱根スパイラルの練習風景や設備を見学させてもらうってのは?」

「ええ、まあ、スパイラルの皆さんの練習風景は、今後のために見ておきたいですね」

「じゃ決まりだ」

「よろしくお願いします」

「で、今どちらだい?」

「今、江ノ島に来ていまして、一人じゃないんですが……」

「そうか……ERCの集まりかい?」

「いやいや、ふたりでサイクリングに来てて……」

「相手は……彼女かい?」

「いやぁ、そんなではないんですが……」

 

 みなみはキョトンとしながら、僕を見ていることに気付く。


 いけない!

 自分都合でばかし考えてしまっていたやん!

「ねえ、みなみさん」

「はい」

 改まって声が掛かったみなみは、声が裏返る。

「このあとのサイクリングをドライブに変えてもいいですか?」

 箱根までサイクリングで行くてもありか?

「いいよ、けど私がついて行っても良いのかな?」

 遠慮気味な彼女だが、どことなく嬉しそうな顔つきにも見えた。

「よし、じゃあ、決まりですね」


「あの、川崎さん、連れも一緒にいいですか?

「ああ、自転車二台くらいなら問題なしだよ」

「ありがとうございます」

「では今から二十分でそちらに向かうから、よろしく」

「はい」


 電話を終えた春風にみなみが話しかける。

「ところで、どこまでいくのかしら?」

 春風はまた、自分都合で話を進めていたことに気づく。

「ごめん! 行先話してなかったね」

 まぁ、早乙女くんといると楽しいから、一緒に行けるなら嬉しいけどね。

「で、どちらまでドライブに行けるのかしら?」

 みなみさん、なんか嬉しそう……だね。

「箱根スパイラルの本拠地、ゲルニカさ」

「えっ? スパイラルって自転車の?」

 お兄ちゃんが確か在籍しているチームだ。

「そうだよ。僕も一応メンバー候補生になっていてさ」

 あっ、ひょっとして、早乙女くんって育成選手に決まったあの人なの?

「早乙女くんて……この間のトライアルレースで育成枠に入った、早乙女春風なの?」  

 えっ?

 育成選手の名前を覚えてて、僕の名前にピンと来てないなんて……ありえるんだ。

「ええ、まあ……で一緒にって話にしちゃったけど、良かったよね?」

 

 どうしよう?

 心がざわついてるよ。

 これは……恋、なのかな?

 そう思い始めたら、ドキドキが止まらないよ。


 みなみは顔を赤くして、ゆっくりと首を振りながら呟いた。

「一緒に行きたいな」


 

 みなみの思いが熱くなっていることを春風は知ってか知らずか、気付けば二十分が経過していた。

 

「みなみさん」

「はい」

「来たよ、あの車だ、おーい!」

 ん?

 このカラーリング、どこかでみたようなって。

「えっ? パパ?」

「パパァ?」


 大型バンの運転席側の窓がゆっくりと下り、黒いサングラスをかけたアロハの男性が声をかけた。

「よう、早乙女くん……って隣のお嬢さんは、みなみ……かい?」


 みなみは目が点になる。


「えっ、パパがなんで……早乙女くんと知り合いなのよ?」

 春風が口を挟む。

「実はさ、川崎さんには自転車が転倒した時に助けていただき、藤沢まで自転車ごと運んでもらったことがある恩人なんです」

「いやぁ」

「それでロードチームERC加入時に橋渡ししてもらったり」

「いやぁ」

「そのあとも湘南ライドのサーフィン大会でもお会いしたり」

「いやぁ」

「そんな感じでお世話になりまして」

「いやぁ」

「パパ! なんか違うこと考えてない?」

 いやぁ、嬉しい限りだね、ほんと。


「じゃあ、改めて紹介するね、こちらが私のパパ、川崎浩市、そしてこちらが早乙女春風さん。まぁ、ふたりともお知り合いだから、紹介も何もないか?」

 

 実は、今回一番驚いたのはみなみではなく、浩一の方であった。


「みなみが男の子と一緒にいるとこなんて初めてじゃないか?」

「そう……だったかしら?」

「とにかく車に自転車を積んだ積んだ!」

「はい」


 ふたりはタイヤを外し、自転車を詰め込む。


「さあ、箱根まで行きますか」

「お願いします」


 みなみが早々と二列目シートに座り込んだため、春風も浩市に気を遣いながらも二列目に腰をかけた。

「お願いします」

 と春風が声をかけると、浩市は笑みを浮かべながら「では、行きますよ」とふたりに合図をした。

みなみ 春風くんて凄いんだね。

春風  いやあ、みなみさんの方が凄いよ!

みなみ 私なんてたいしたことないよ。

大河  育成選手名を知ってて気づかなかったとこ?

春風  そうですよ。

みなみ やめてやめて、恥ずかしいよ!

大河  次回「ゲルニカ」でまた会おう!

みなみ 私の応援よろしくネッ!

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