第307話 気の合うふたり
自転車を通じてまた新たな関係が生まれそうだが、その行方は如何に?
ではお楽しみあれ。
リドレーとコルナゴ
みなみと春風は国道一三四号を茅ヶ崎方面へと向かう。
「早乙女くんは兄貴のこと知ってるかな?」
「南海大のキャプテンで、箱根スパイラルの育成選手だったんですよね?」
「ヒュー、よく知ってるわね?」
「僕も成り立てなんですが、育成選手に選ばれました」
「マジ?!」
「マジです」
「ちょっとキミ、こんな女だらけのシェアハウスにいていいの?」
「どう言うことなんですか?」
みなみは春風と並走し、その真意について答える。
「育成選手は常にゲルニカの指示を受けることになるのよ。私生活も正されるわ」
「でも、僕は私生活を乱したつもりはありませんが」
「異性交友は確か御法度だったと思うよ」
「マジですか?」
「兄貴から聞いてるから、多分そうよ」
そんなこと、何も聞いてないし。
恋人が作れないって、じゃあ、女子寮出ても変わんなかったじゃん。
「そうだ、大河さんにもう一度聞いてもらえませんか?」
「兄貴に?」
「はい」
「仕方ないな、じゃあ聞いてあげようか?」
「ありがとうございます」
ふたりは自転車を沿道に停めた。
「兄貴? みなみだけど」
「何だよ」
「箱スパの育成選手は恋人厳禁なんでしたっけ?」
「唐突に! まずそんな訳ないだろう? ただ、恋愛を理由にした練習や大会への不参加は認められないと言うことなんだ」
「へー、今ね私、育成選手の早乙女くんと一緒にいるんだ」
「珍しいな、みなみ。そうだ、早乙女に変わってもらいたいんだが」
「いいよ、ちょっと待って」
春風はみなみのスマホを預かる。
「もしもし、初めまして早乙女春風です。いろいろとよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。あのだな、こんなことを初対面、いや、電話で頼むのもあれだが、みなみのことよろしく頼むよ。アイツはいつも自転車が恋人だと言っていて、男性とろくに口を利きやしない。偏った子だけれどいい子だから、みなみと仲良くしてやってくれないか?」
「わ、わかりました。任せてください」
春風はみなみにスマホを返した。
「兄貴、なんか余計なこと言わなかった?」
「余計なことなんか何もないさ」
「そお? ならいいけど」
「早乙女くん、気に入ったぞ。我が家は代々自転車を通じて縁があるようだな」
「えっ、何のこと?」
「いいんだ」
「何が?」
「早乙女くんをしっかり捕まえておくんだぞ!」
「えっ、ええっ? 兄貴、何言ってんのよ?」
「では、アデオス! ガチャ」
——ザザァー……ザァバーン……寄せては返す波の音が、無口になったふたりの背中から聞こえて来た。
「なんか、ごめんね」
みなみは防護策にもたれ掛かり、通り過ぎる江ノ電を見ながらポロリと呟いた。
「お兄さん、優しい人ですね」
「昔から変わってないんだ。いつも私のことを気にしてくれていてさ」
「……僕の姉と一緒ですね」
「そうなんだね」
「いつも僕のことを気に掛けてくれている優しい姉です」
春風はみなみを見ながら笑みを溢した。
みなみはクルッと反転し、沖を見ながら潮風に揺れる髪をサッと掻き上げた。
みなみさんて、どこか紗矢香に雰囲気が似てるな。
どことなく大人びてて、
どことなくしなやかで、
どことなく自然体で。
「あの……」
みなみが、春風を振り返りながら声をかけた。
「えっ?」
春風が聞き返す。
「あっ、いいの……」
こんな自然体でいられる早乙女くんとの関係を私は大切にしたいから。
「みなみさん」
「はい」
「それじゃあ江ノ島まで競争です!」
「いいわ、望むところよ! 私のリドレーは強いんだから、キミのコルナゴには絶対負けないんだから!」
そんな無邪気な会話を交わしながら、ふたりは思い出の江ノ島に向かいペダルを踏み込んだ。
みなみ 自転車は私のパートナーよ。
大河 人には興味ないのか?
みなみ 自転車は裏切らないからね。
大河 人間を基準にしていない姿、恐れ入った!
みなみ 次回も自転車でお会いしましょう!
大河 また、次回も自転車のお話なの?




