第306話 彼氏いないひと!
夜もお喋りで夜更かししていたにもかかわらず、早朝から元気な顔を突き合わせて何やら雑談が。
それではその先をどうぞ!
シェアハウスの朝
五時五〇分
——おはよう。
六時二〇分
——おはよう、春風。
七時三〇分
——おーい、起きてないの?
「もう、春風ったら!」
ひたすらラインを送る、
そう、彼女は神楽紗矢香。
彼女は春風の彼女である。
最近、サーフィンに力が入り過ぎて、春風との距離感が微妙に広がってしまった、そんな気後れ気味の十七歳である。
「もう行かなきゃ!」
「本当、もう!」
少し膨れっ面で紗矢香は女子寮をあとにした。
——今日は部の遠征で静岡静波に行ってきます。
——春風も新生活ガンバ!
実はこの時、春風は既に起床していて、ルームメイトと食卓を囲みながら朝食に花を咲かせていた。
「でね、この面子で誰が一番早く彼氏を作るかってことになってるんだよ」
「彼氏いた歴ない方ばかりなんですか?」
「こら! わっぱ! 坊やのくせにませたことを抜かすんじゃないよ」
「ねえ、ナナちゃん、トッポい話し方、辞めとこうよ。お嫁に行きそびれるよ」
ひなが暴力発言を取り辞めさせるために、七瀬をギロリと睨んだ。
「わ、わかったからよ、ひな様。言い過ぎたわ。だから、そんな般若面みたいな顔しないでおくれ! それに婚期は逃したくないものだ」
ひなはニコッと笑顔を振りまき、話を春風に返すように、
「彼氏いない歴の子は……ナナちゃんと、みなみちゃんとあたし……」
ももがこころに尋ねるように、
「こころは彼氏いたっけ?」
「おっと、ももちゃん、デリケートな部分に突っ込んできましたね」
「そうだった。恋人らしき恋人未満と外泊して、の熱ーい夜を過ごしてきたもんね!」
「もも、なんか喧嘩売ってる?」
「いやいや、滅相もございませんです、はい」
七瀬が調子に乗って、ももに切り込んでくる。
「そう言うあんたはどうなのさ? 噂話も聞かんけど?」
「とんでもありません、彼氏だなんて……」
みなみがももに口を出した。
「あなた、実はモテモテでしょ?」
「えっ?」
「そうよ、去年の湘南ビューティー準優勝じゃんか!」
と七瀬が話をほじくり返した。
「凄いじゃないですか?」
と春風がももを褒めるが、
何となく顔つきが憂いていた。
「こう言うのはね、優勝じゃなきゃ意味がないんだよ」
重みがある言葉だった。
「AMANEは優勝して、今や芸能界の人気女優になりつつあり、私はしがない女子大生だもん、あーあ」
そんな会話の中、春風はひとり五十嵐天音のことを思い返していた。
天音さんが退寮しておよそ二か月しか経っていないはずの僕を取り巻く環境は、こんなにも変わってしまったのに、彼女とのことはしっかりと覚えているよ。
恋愛していたと言うより、恋愛させてもらっていたと言う表現の方がグッとくる感じだ。
オシャレで大人のしなやかな振る舞いに加えて、明るくて優しい性格。
それでいて姉貴肌で嫉妬心も強いけど、優しく包んでくれる温かさを兼ね備えた才女だった。
そんな言うても、僕とは住む世界の違うひと。
僕が彼女のことを口に出してはいけないし、彼女もそれは望まないと思う。
お互いが自分の道に自信が持てるようになったら、また逢おうって約束したよな……。
「ねえ、早乙女くん、どうしちゃったの?」
考え込んでいるように見えた春風に、みなみが声をかけた。
「いや、何でもありませんよ」
ちょっとだけセンチメンタルになってたかもね。
そんなことを思いつつポテサラを一口パクり。
「おい、早乙女よ」
「は、はい!」
「どうだ? 味は?」
「おいひい……です」
「こら、食べてから物申せ!」
「すみません」
隣の席に座っていたひなが、春風に笑みをこぼしながら話した。
「嬉しいな、褒めてもらえちゃったよ」
「ひなの飯は最高だから、感謝して喰うんだな」
本当、七瀬さんは面白い物言いをする人だな。
男まさりと言いますか、
お代官様みたいな、
不思議な人だ。
そこにみなみが誘いを入れた。
「ねえ、早乙女くんはこの後予定があるとかないとか?」
「まったくフリーです」
「じゃあ決まりだ、自転車でツーリング行くよ」
「はい!」
部屋に戻った春風は、スマホのライン着信に気付き開く。
「あっ、来てた。」
——おはよう。
——今起きた! 遠征頑張って!
とラインを送り返した。
「なんか、関係が雑になってるな。いかんいかん」
と呟きながら、
——愛してるよ。
と入れてみた。
すると、
——愛してるよ。
と直様嬉しい返信届き、春風は急にメンタル持ち直した。
「よっしゃ!」
その後、春風とみなみは各自サイクルジャージに着替えて、部屋から外へと自転車を運び出した。
「あのふたり、なんかいい感じに見えちゃうね」
ももが食事のあと、片付けをしていたこころに話しかけた。
「早乙女くんには、彼女とかいないのかな?」
「彼、可愛いよね。私が寝取っちゃおうかな?」
「なんかその物言いさ、ナナちゃんぽいね」
「そうよ、女は本気になると、凄いんだからね!」
「ちょいちょい、ももちゃんのイメージと違うよ」
「大丈夫、そのイメージは作り物なんだから」
ももは、自転車で出てゆくふたりを見ながら、そうこころに語った。
そんなハウスメイトたちに囲まれた春風の新しい生活は、再び回り始めたのであった。
こころ 結奈から聞いたけど。
もも どんなこと?
こころ 彼女についてよ!
もも そう、それで?
こころ モテモテみたいよ。
もも そうだろね。
春風 次回「ふたりだけのツーリング」
こころ 何が起きてもおかしくない! かも?




